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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第二十八章 ラウラの研究進展

 ルセリアの空に、ようやく青さが戻り始めた。

 帝国軍が去り、街は再建の最中にある。けれど、その空気はどこか前よりも穏やかで、静かだった。

 そんな中、ラウラの研究塔から、ある重大な進展が告げられた。

 それは――

 “黒いささやき”を封じる手段が、存在するかもしれない。

 「古代文献の中に、“共鳴の封印陣”という記述があったの」

 ラウラは、地図を広げながら淡々と語った。

 「それは、この世界に“ささやき”が広がる以前――最も原初の時代に用いられた儀式で、“声”そのものを沈める力があるとされていたわ」

 「それって、もしかして……“ささやき”の源に触れるってことですか?」

 麻希まきの問いに、ラウラは頷く。

 「そして、封印には“共鳴の力”が必要なの。ふたり一組の“繋がり合った魂”が鍵になるらしい」

 「……俺たちか」

 直哉なおやが、麻希の横顔を見ながら言った。

 麻希も、自然と彼に視線を向けていた。

 “共鳴の力”――もしそれが、ふたりの絆を指しているのなら。

 「そこまで行くのは危険も多い。でも、今のうちに動かないと、帝国も王国も“黒いささやき”に完全に呑まれるわ」

 ラウラの言葉に、麻希は迷わず答えた。

 「行きます。……わたしたちにしか、できないことだから」

 静かに頷く直哉。その手が、自然と麻希の手を包み込む。

 言葉はなかったけれど、その強さが“決意”をすべて代弁していた。

 その夜、塔の一角。

 麻希は疲れた身体を癒やすように、窓辺でお茶を飲んでいた。

 「……ここに来てから、いろんなことがあったな」

 誰に話しかけるでもなく呟いたその声に、背後から優しい気配が寄ってくる。

 「うん、ほんとに」

 直哉だった。トレーニングを終えたばかりのようで、少し髪が乱れている。

 けれど、その目は静かに麻希を見つめていた。

 「……これ、飲む?」

 「お、いいの? サンキュ」

 湯気の立つカップを受け取る彼に、麻希は小さく微笑む。

 その笑顔を見て、直哉はふと口を開いた。

 「……俺、まだまだ強くなりたい」

 「……うん」

 「もっと、ちゃんとお前を守れるように。お前が怖がらないように」

 そう言って、彼はカップを片手にそっと窓際に寄る。

 麻希と、肩がふれるくらいの距離。

 「……でも、最近思うんだ。守りたいってだけじゃ、足りない気がする」

 「え?」

 「隣に立って、同じ未来を見たい。お前の悩みや痛みも、俺が背負いたい。……そう思ってる」

 麻希の胸が、きゅっと締めつけられる。

 この人はいつも、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。

 だからこそ、どんな言葉よりも、心が震える。

 「……あなたって、ほんと、ズルい」

 「え?」

 「そんなふうに言われたら、好きがあふれちゃうじゃない……」

 言葉が漏れた瞬間、直哉の表情が驚きから、ほんの少し照れたようなものへ変わった。

 「……あふれていいよ。全部、俺が受け止めるから」

 そして、そっと指先が触れ合う。

 ほんの一瞬の間に、ふたりの空気がふわりと熱を帯びた。

 「……旅に出る前に、こうして話せてよかった」

 「うん。……今なら、どこへでも一緒に行ける気がする」

 ふたりの手が自然と重なり、そのまま、小さな沈黙が夜に溶けていった。

 それは甘くて、心がほどけるような時間。

 明日からの過酷な旅路を前にして、それでも――

 「一緒にいる」というその事実だけが、何よりの希望だった。


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