第二部:第二十五章 ルセリア防衛戦
帝国軍とルセリア軍の全面衝突は、ついに始まった。
城門の外、荒野に広がる戦場には、雷のような咆哮と鉄のぶつかり合う音が響き渡る。
旗印が翻り、命がけの攻防が繰り広げられる中、直哉と麻希は最前線に立っていた。
「こっち、崩れるぞ! 麻希、後列に声を!」
「わかった! 後方支援部隊、前へ! 前衛交代!」
麻希の“調律の声”が響いた瞬間、兵士たちの動きが鮮やかに連携し、絶望的だった状況がみるみるうちに立て直されていく。
そして、その隙をついて直哉が斬り込む。
「ここは通させねぇ……!」
剣が風を裂き、炎を纏った槍を受け止める。
敵の数は圧倒的だった。しかも、グレオス率いる帝国部隊には、黒い瘴気を纏う“魔化兵”まで混じっている。
それでも、麻希の声と直哉の剣が重なったとき、絶望がわずかに後退する。
「前よりも……息が合ってる」
直哉が息をつきながら言うと、麻希もわずかに微笑んだ。
「ふたりで歩いてきたから。あなただって、変わったんだよ。頼もしくなった」
照れ臭そうにうつむく直哉。だが、すぐに彼は真剣な目で麻希を見る。
「……でも、あんまり無理すんなよ。お前、さっきからずっと……」
「平気。まだ大丈夫。でも……」
彼女は言葉を切り、少しだけ俯く。
「……“怖い”のは、ちゃんとある」
「麻希……」
「だけど、あなたがいるから……その“怖さ”に負けたくないって思えるの」
目が合う。
交差したその視線は、ほんの一瞬で深く沈み合って――
だがその瞬間、激しい衝撃が彼らを襲った。
魔化兵の呪符付き矢が炸裂し、爆風が周囲を吹き飛ばす。
麻希の体が宙に浮く――。
「麻希!!」
直哉が全力で駆け寄り、迷わずその身を抱きとめる。
ドォン、と地面に倒れ込んだ瞬間、直哉の背が麻希を庇っていた。
「……っぐ、いった……!」
「なおや!? 無事……!?」
直哉は痛みに顔をしかめながら、麻希を見下ろした。
「お前が無事なら、それでいい」
「な、なにそれ……っ、なんでそんな、さらっと……!」
「だって本当のことだから」
近い。
その顔が、声が、鼓動が、今までで一番近くて――麻希は息をのんだ。
「……やっぱりずるい。そうやって、無意識に……ドキドキさせるんだから……」
「えっ? 今なんか言った?」
「な、なんでもないっ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く麻希を、直哉は目を細めて見つめた。
「でも、俺……そうやって思ってくれるの、嬉しいよ」
「……ばか」
ふたりの間に、戦場とは思えないほどあたたかい空気が流れた。
そして、ふたりは同時に立ち上がる。
握った手を、離さないまま。
「まだ……終わってない。戻ろう、みんなを支えなきゃ」
「おう、一緒にいこう」
肩を並べて走り出すふたりの背中に、ほんの一瞬、光の粒が舞った。
“共鳴”が形になり始めている。
それは、ふたりの想いが重なっていく証――この世界に、確かに届く光のはじまり。




