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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第二十三章 中立都市の盟約

 ルセリアの会議場は、通常では考えられないほどの緊張に包まれていた。

 帝国ガルザーンによる進軍の報せを受け、街の有力者や各ギルドの代表、そして周辺自治都市の使節たちが一堂に会していた。

 その中央――静かに立っていたのは、麻希まきだった。

 その背後には、直哉なおやとナディア、ラウラが控える。

 帝国との全面戦争を防ぐため、そして“黒いささやき”に飲まれた世界を救うため、ここで麻希は“声”を使う決意をしたのだ。

 だが――。

 「所詮は子供のたわ言だ」

 「我々の問題に、余所者が口を出すなど」

 高圧的な声が飛び交う中、麻希は静かに目を閉じた。

 (怖くないって言えば嘘になる。でも……)

 彼女は一歩、壇の前に進んだ。

 その瞬間――。

 空気が震えた。彼女の声が、まるで心を撫でるように場内を包み込んだ。

 「私は……“戦い”がしたいわけじゃないんです」

 静かな、けれど芯のある声。

 「ただ、“共鳴”を、もう一度信じたい。帝国にだって、民がいる。ルセリアにも、未来を守りたい人たちがいる。ならば、手を取り合う道を、もう一度模索してもいいはずです」

 しんと、空気が変わる。

 騒がしかった会場が、嘘のように沈黙した。

 彼女の声が、各代表の心に直接届いたのだ。まるで、麻希の中の“調律の力”が、場にいた人々の胸を優しく震わせたかのように。

 ラウラが小さく囁く。

 「……これが“調律の声”の本質。力ではなく、“共に在る”ことを導く声」

 やがて、老いたギルド長がゆっくりと立ち上がり、言った。

 「……この娘の言葉、まっすぐだった。私は、協力に一票を投じよう」

 次々と賛同の声が上がり、数分前まで疑念に満ちていた場が、嘘のように一つの“盟約”へと傾いていった。

 会議が終わったあと、ルセリアの夕陽が塔の窓を橙に染めていた。

 麻希は安堵とともに、塔のバルコニーで風にあたっていた。

 そこに、直哉がそっと現れる。

 「……すげぇな。マジで全員、黙らせたな」

 「……偶然だよ」

 「偶然で、あんな空気は作れない」

 そう言いながら、彼は麻希の隣に立ち、肩が触れるほどの距離で外を眺めた。

 「……実はね、すごく怖かったの」

 「うん、見ててわかった」

 「えっ、嘘……そんなに顔に出てた?」

 「うん。でも、だからこそすごかったんだよ」

 直哉の声が、思いのほか真っ直ぐで、麻希は思わず黙り込む。

 そして次の瞬間。

 彼の手が、そっと彼女の手に重ねられた。

 「……俺、今日改めて思ったんだ」

 「なにを?」

 「俺、やっぱり……お前に惹かれてる。前からずっとそうだったけど、今日の麻希を見て、“好き”って気持ちが止まらなくなった」

 心臓が跳ねる音が、自分の耳にまで聞こえる気がした。

 「……ほんとに、あなたって、ずるいよね」

 麻希は視線を外しながらも、ぎゅっとその手を握り返す。

 「わたしも……同じ気持ちだから。言わなくても、ちゃんと伝わってると思ってたけど……でも、言葉にしてもらえると……」

 「嬉しい?」

 「うん……すごく」

 彼女は、顔を伏せながら、そっと寄り添った。

 ふたりの肩が触れ合い、手と手が温もりを分け合う。

 どこか世界の喧騒から切り離されたような、柔らかな時間だった。

 「……約束しよう」

 「約束?」

 「この戦いが終わったら――もう一度、ちゃんと気持ちを伝える。今よりも、もっと堂々と、胸を張って」

 「……うん。そのときは……わたしも、ちゃんと伝える」

 夜風がふたりを撫でた。

 心が少しずつ、でも確かに通い合い、絆へと育っていく。

 ――中立都市に“連携”の種が蒔かれたその夜、ふたりの心にもまた、“未来”という希望が芽吹いていた。


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