表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ささやきの運命  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/120

第二部:第二十二章 グレオスの動向

 ルセリアの夜明けは、どこか張りつめた空気を帯びていた。

 塔の上から街を見下ろすラウラは、低く呟いた。

 「……帝国が動いている。いよいよ、ね」

 その報せは、ラウラの古い知己から届いたものだった。

 帝国ガルザーンの将校――グレオスが、ルセリアへの進軍を本格的に計画しているという。

 ラウラの研究塔に集められた直哉なおや麻希まき、ナディア。

 空気は、自然と重くなる。

 「彼は……“ささやき”を完全に掌握するために、動いているのか?」と直哉が問いかけると、ラウラは首を横に振った。

 「少し違う。彼は帝国を守るためなら、あらゆる手段を取る男。民を救うために“黒いささやき”に手を伸ばした……そういう報告もあるの」

 「つまり……“悪”とは限らないってこと?」麻希が慎重に問うと、ラウラは苦笑するように頷いた。

 「正義の形は、ひとつじゃないということよ。そして彼の正義は、私たちと真っ向からぶつかる可能性が高い」

 そのときだった。

 ふと麻希が、胸の奥に微かなざわめきを感じた。

 (……“ささやき”?)

 いつもと違う。もっと、低く、重く、そして苦しそうな声。

 「麻希、どうした?」と直哉が顔を覗き込むと、彼女は小さくかぶりを振った。

 「……ううん、大丈夫。ただ、少し……切なくなっただけ」

 「切ない?」

 「うん。なんだか、誰かが――すごく辛い場所にいる気がして」

 ナディアがはっとしたように目を見開いた。

 「それ……もしかして、グレオスの“声”かもしれない。彼が“黒いささやき”に触れているのなら、麻希さんの感覚が反応してもおかしくないわ」

 麻希は口元に手を当て、小さく震えた。

 敵として認識していた相手が、実は“誰よりも苦しんでいる”のだとしたら。

 そのとき、直哉がそっと麻希の肩に手を置いた。

 「無理しなくていい。けど、もしお前が誰かの痛みを感じてるなら――俺も、それを一緒に背負いたい」

 麻希は、思わず見つめてしまった。

 真剣な表情。どこまでも誠実で、まっすぐで。

 この人は、どんなときでも“共に”あろうとしてくれる。

 「……やっぱり、直哉ってずるい」

 「え、何が?」

 「そうやって、ちゃんと私の全部を受け止めようとするから……また好きになっちゃう」

 その瞬間、直哉の顔がぱっと赤くなる。

 「な、なに、それ、ずるいのはそっちだろ……!」

 「ふふ……じゃあ、これでおあいこ」

 そう言って、麻希は彼の手をそっと握った。

 互いの鼓動が、しっかりと掌に伝わる。

 ナディアはそのやり取りを静かに見守っていた。

 ふたりの間に流れる空気――それは、明らかに“共鳴”という言葉を超えた深い結びつきだった。

 (……このふたりが並び立つとき、“黒いささやき”すら届かない場所へ行けるかもしれない)

 その夜、麻希は眠れなかった。

 窓の外に広がる月の光を浴びながら、塔の屋上へと足を運ぶ。

 そこには、すでに直哉の姿があった。

 「……やっぱり来ると思った」

 「え?」

 「今夜の月、綺麗だから。麻希はこういう時、空を見に来る気がして」

 どこか照れくさそうに笑う直哉に、麻希もふっと笑った。

 「じゃあ……あなたがここにいるのも、わたしのこと待ってたから?」

 「うん。……もう、待つのにも慣れてきたかも」

 「じゃあ、これからは――待たせないようにするね」

 隣に並び、そっと寄り添う。肩がふれて、頬が近づいて、でもそれ以上は踏み込まない。

 ただ、確かに伝わる。

 この想いは、もう言葉がなくても届くと。

 「おやすみ、直哉」

 「……ああ。夢でも、隣にいてくれよ」

 麻希はそっと目を閉じ、微笑んだ。

 それは、心からの安堵と、ときめきが重なった夜の約束。

 ――グレオスという存在が動き出す中で、ふたりの絆もまた、新たな力へと変わろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ