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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第四章 盗賊の襲撃

 朝焼けの光が差し込む部屋の中で、直哉なおやはゆっくりと目を覚ました。隣では麻希まきが静かに眠っている。昨夜の出来事――“ささやき”の声と、二人に流れ込んできた謎の記憶。それは夢ではなく、確かな現実だった。

 麻希の寝顔を見つめながら、直哉はそっと息を吐く。

(なんで俺たちなんだろうな……)

 それは考えても答えの出ない疑問だった。悠聖ゆうせい紗江さえ。なぜ彼らの記憶が自分たちの中に流れ込んできたのか。そして“ささやき”とは、一体何なのか。

 直哉はふと、麻希の指先がわずかに震えていることに気がついた。昨夜、無意識のうちに彼の手を強く握り返していたことを思い出し、胸の奥がじわりと熱くなる。

 ――守りたい。

 それがどこから来る感情なのかは分からない。だが、この世界に放り込まれ、何も分からない中で頼れるのは彼女だけだった。

「ん……」

 麻希が小さく唇を動かし、ゆっくりと目を開ける。

「……直哉?」

「ああ、おはよう」

 彼が微笑むと、麻希はまだ寝ぼけたように目を瞬かせ、すぐに顔を背けた。

「な、なんでそんな近くにいるの……?」

「いや、昨日のことがあったし、ちゃんと眠れたかなって……」

「……それは、ありがたいけど……そんなに見られると、恥ずかしい……」

 麻希が顔を赤くしながら布団を引き寄せる姿に、直哉は思わず笑ってしまった。

「悪い悪い。でも、安心したよ。ちゃんと寝れたみたいだし」

「……うん」

 小さく頷いた麻希は、布団の中でこっそりと胸に手を当てた。昨夜のことを思い出すだけで、まだ心臓がドキドキしている。あの時の直哉の手の温もりが、今もはっきりと残っている気がして――。

(……こんなの、おかしいよね)

 自分の気持ちの正体がわからないまま、麻希は小さく息を吐いた。

 村長から、近くの街へ向かうための簡単な地図をもらい、直哉と麻希は準備を整えていた。

「ルセリアっていう都市に行けば、“ささやき”について詳しい人がいるらしいな」

「うん……ラウラさんっていう学者さんが、何か知ってるかもしれないんだよね」

 直哉は荷物を背負い、村の門へと向かう。

 ――しかし、次の瞬間。

「きゃあっ!」

 遠くから村の女性の悲鳴が聞こえた。

「何だ!?」

 驚いて駆け出した直哉の目の前に広がっていたのは、混乱する村人たちの姿。そして、黒い布で顔を覆った数人の男たち――武器を手にした盗賊だった。

「おいおい、何も怖がることはねえよ。ただ、ちょっとばかり金を出してくれればいいだけさ」

 リーダーらしき男がニヤリと笑い、村人たちを取り囲む。

「くそ……!」

 直哉は思わず拳を握りしめたが、村人たちは戦う術を持たず、なすすべもない。

 すると、麻希が静かに彼の腕を引いた。

「直哉……下手に動いたら、村の人たちが危ないよ」

「でも、このまま黙って見てるわけには……!」

 その時だった。盗賊の一人が、村の少女を引きずり出そうとした。

「やめろ!!」

 直哉は反射的に飛び出し、盗賊の腕を掴んだ。

「おいおい、なんだぁ? こんな若造が英雄気取りか?」

 男たちが嘲笑を浮かべる。しかし、直哉は怯まなかった。

「俺たちは、この村に世話になった。だから、お前らみたいな連中の好きにはさせない!」

「ほう、なら力ずくで止めてみるか?」

 盗賊たちが武器を構え、直哉に迫る。

「麻希、下がって――」

「……っ、私も戦う」

 麻希の瞳が、鋭く輝く。彼女はまだ戦闘の経験はないが、それでも無力なままでいるつもりはなかった。

「よし……やってやるか!」

 直哉が拳を構え、麻希が慎重に盗賊たちの動きを読む。その時――。

「フレイム・ブラスト!」

 突如、空中に魔法陣が現れ、炎の奔流が盗賊たちを吹き飛ばした。

「なっ……!?」

 驚いて振り返ると、一人の女性が悠然と立っていた。鮮やかな赤髪と、鋭い知性を宿した瞳。彼女は軽く微笑みながら、杖を肩に担ぐ。

「間一髪ってところかしら?」

 その名はラウラ。かつて“ささやき”について研究していた学者。

「あなたたち……もしかして“ささやき”に関係してる?」

 直哉と麻希は目を見合わせる。

 彼女こそが、二人の運命を大きく動かす存在になるとは、この時まだ知る由もなかった――。

 戦いが終わり、村に静寂が戻る。

 直哉は肩で息をしながら、麻希の方を振り返った。

「お前、無事か?」

「うん……でも、怖かった……」

 麻希は震える手をぎゅっと握る。直哉はそんな彼女を見て、そっと手を伸ばし、肩を抱いた。

「もう大丈夫だから」

 耳元で囁かれる言葉に、麻希の胸が強く高鳴る。

(……どうしてこの人に触れられると、こんなにも……)

 直哉の腕の中にいると、すべての不安が消えていくような気がする。

「……ありがとう、直哉」

 彼の温もりを感じながら、麻希はそっと目を閉じた。

 この世界に来て、まだ何もわからないことだらけ。でも、少しずつ――確かに、二人の距離は縮まっていく。

 盗賊の襲撃は、二人にとって試練だった。だが、それはまた、互いの想いを知るきっかけでもあったのだ――。


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