第四十三章 世界の分岐点
悠聖の額に落とされた唇の余韻が、紗江の心を甘く揺さぶる。
——ドクン。
この人がそばにいる限り、どんな記憶が蘇ろうとも、私は怖くない——。
「……思い出せるか?」
悠聖の低く優しい声が、耳元をくすぐる。
「……うん、少しずつ……でも……」
彼の手を握りしめながら、紗江はゆっくりと答える。
すると——
「ならば、見せてやろう」
管理者が手を掲げた瞬間、空間が歪んだ。
次の瞬間、紗江の視界が白く染まる——。
気がつくと、そこは見知らぬ場所だった。
古びた神殿の中。
石造りの床に、金色の魔法陣が浮かんでいる。
その中心には——自分自身がいた。
「これは……?」
過去の記憶。
紗江は、ただ呆然とそれを見つめた。
「私には……この力なんて、いらない……!」
過去の紗江が泣き叫ぶ。
その手には、光の結晶のようなものが握られていた。
「これは……“ささやき”の核……?」
すると、過去の紗江はそれを胸に抱き——
「こんなもの……忘れたい……!」
その言葉とともに、結晶が砕け、光が弾けた。
その瞬間——。
ズキン——ッ!
頭の奥が鋭く痛み、紗江は思わず膝をついた。
「紗江!」
悠聖がすぐに彼女を抱き寄せる。
——ドクン。
「……大丈夫か?」
彼の腕の中で、紗江は息を整えた。
「……思い出した……私は……」
彼女はゆっくりと目を開ける。
そして、震える声で呟いた。
「……“ささやき”の未来を決める、選ばれし者だった」
——ドクン。
悠聖の目が大きく見開かれる。
「紗江……?」
「私は……世界の未来を選ぶ力を持っている……」
そう告げた瞬間——
管理者がゆっくりと微笑んだ。
「ならば、選ぶがいい——世界の運命を」
戦場の風が強く吹き抜ける。
悠聖が紗江の手を強く握った。
「……お前がどんな道を選ぼうと、俺はお前の隣にいる」
——ドクン。
彼の言葉が、甘く優しく心に響く。
どんな未来を選ぶとしても——
(私は、悠聖と一緒に……)
彼の温もりを感じながら、紗江は強く誓った。
ここが、世界の分岐点——私たちが未来を決める瞬間だ。




