第四章 静かなる誓い
王城を抜け出し、悠聖と紗江は月明かりに照らされた静かな庭園へと逃れた。夜風がそよぎ、二人の間に微かな緊張感が漂う。
(……今、本当に私は異世界で逃亡してるんだ)
未だに信じられない状況に、紗江はふと足を止めた。
「……怖い?」
悠聖が問いかける。
彼の声は驚くほど穏やかで、まるで全てを受け止めるかのようだった。
「ううん……」
本当は不安で仕方がない。けれど、この人のそばにいると不思議と落ち着く。
それに——
手を離したくなかった。
悠聖の手は、しっかりと自分の手を握っている。温かくて、安心できる。
そんな自分の想いに気づいた瞬間、胸が熱くなった。
「……さっきから、君はすごく頑張ってるな」
悠聖が微笑みながら、そっと紗江の髪に触れた。
「っ……!」
指が優しく髪をすくい上げ、こぼれるように落ちていく。その動作があまりに自然で、心臓が大きく跳ねた。
「もう、頑張らなくていい」
低く甘い声が、夜の空気に溶ける。
悠聖の顔が近づいてきた。
視線が絡む。
触れそうで触れない距離に、息が止まりそうになる。
「君を守るよ、紗江」
名前を呼ばれた瞬間、体が熱くなった。
まるで言葉に込められた何かが、直接心に響いたかのように——。
「……本当に?」
無意識に問いかける。
悠聖は微笑んだまま、ゆっくりと紗江の手を引いた。
そのまま、彼の胸元に引き寄せられる。
「約束する」
心音が聞こえた。
鼓動のリズムが、不思議と自分のそれと重なっている気がした。
「俺は、君を絶対に守る」
そっと囁かれた言葉に、体の力が抜けていく。
「悠聖……」
気づけば、彼の胸にそっと額を預けていた。
まるで夢の中にいるような感覚だった。
——これが、恋なのかもしれない。
夜風がそっと二人を包み込み、甘い沈黙がしばらく続いた。