第三十六章 帝国の罠
冷たい石の床に、紗江はじっと座り込んでいた。
帝国の城の地下牢——。
ここに囚われて、どれくらいの時間が経ったのだろう。
(悠聖……)
名前を思い出すたびに、胸が締めつけられる。
「……絶対、迎えに来てくれる」
そう信じているのに、心細さが募る。
その時——。
「お目覚めか?」
扉が開き、一人の男が姿を現した。
長い黒髪、鋭い眼差し——帝国の研究機関を統べる男、ゼクリオ。
「君の“ささやき”……興味深い力だ」
彼は不敵に微笑む。
「帝国のために、その力を貸してもらおうか」
「……嫌です」
紗江は毅然とした態度で拒絶した。
ゼクリオは薄く笑い、ゆっくりと歩み寄る。
「君は……拒むことができる立場か?」
その言葉に、背筋が凍る。
「君の“心のささやき”があれば、人の本心を暴くことができる」
ゼクリオは紗江の顎に手を添え、無理やり視線を合わせた。
「この力を帝国に捧げれば……楽に生きられるぞ?」
——ゾクリ。
「……絶対に、嫌です」
紗江は強く拒んだ。
ゼクリオが目を細める。
「……なら、君を屈服させる方法を探さねばな」
そう呟くと、ゼクリオは扉を閉め、去っていった。
(悠聖……早く……)
目を閉じる。
その時——
「待っていろ、絶対に助けに行く」
ふいに、心の中に悠聖の声が響いた。
——ドクン。
(悠聖……!)
胸が熱くなる。
彼の声が、こんなにも心強いなんて——。
「……信じてる」
そっと呟くと、涙がこぼれそうになった。
(必ず、また会える)
そう信じて、紗江は悠聖の名前を強く心の中で呼び続けた。




