第三十五章 囚われた紗江
戦火の混乱の中で、悠聖は紗江の手を強く握っていた。
「……絶対に、離れるな」
彼の低く甘い囁きが耳元に落ちる。
——ドクン。
それだけで、紗江の心臓は大きく跳ねた。
だけど——
「確保しろ!」
次の瞬間、何者かの手が紗江の腕を強く引いた。
「っ!」
バランスを崩し、悠聖の手がするりと離れる。
「紗江!」
悠聖が叫ぶが、すでに兵士たちが間に割り込み、彼を押さえつけていた。
「やめて!」
紗江は必死にもがくが、帝国の兵士たちは容赦なく彼女を拘束する。
「貴様には“ささやき”の力がある……帝国にとって、貴重な存在だ」
指揮官らしき男がそう言い、紗江を無理やり連れ去ろうとする。
「待て……! 紗江に触れるな!」
悠聖が歯を食いしばり、兵士を振り払おうとする。
けれど、相手は圧倒的に多かった。
紗江は悠聖を振り返る。
「悠聖……!」
——ドクン。
涙があふれそうになる。
こんなにも、彼のそばにいたいのに——。
「紗江! 必ず、迎えに行く……!」
悠聖の声が、闇夜に響いた。
その言葉だけが、彼女の心を支える。
(信じてる……絶対に、悠聖は私を迎えに来てくれる)
強くそう願いながら——
紗江は帝国の手に落ちていった。




