第三十章 運命の試練
悠聖の腕の中に包まれたまま、紗江はそっと目を閉じた。
この場所がどんなに危険でも——彼の温もりがあれば、きっと大丈夫。
「……もう、怖くない?」
悠聖の優しい声が耳元に囁かれる。
——ドクン。
「……うん」
小さく頷くと、悠聖の手が紗江の背をそっと撫でた。
「お前は、俺が守る」
その言葉が、胸の奥まで染み込んでいく。
こんなにも、誰かを信じることができるなんて——。
(悠聖のことが……好き)
その想いを自覚した瞬間、胸が甘く痺れるように熱くなる。
——だけど、その時だった。
「——選べ」
突如、碑文から低く重い声が響いた。
「え……?」
紗江が驚いて顔を上げる。
すると、目の前の碑文が淡く光り、文字が浮かび上がった。
“真実を求める者よ——”
“この力を取るか、それとも捨てるか”
悠聖と紗江は、互いに顔を見合わせる。
「……“ささやき”を、選ぶかどうか?」
悠聖が小さく呟く。
碑文は続ける。
“この選択が、お前たちの運命を決める”
——ドクン。
全身に緊張が走る。
その時、悠聖はそっと紗江の肩に手を置いた。
「紗江、お前はどうしたい?」
真剣な瞳が、まっすぐに自分を捉える。
(どうしたい……?)
紗江は自分の心に問いかけた。
“ささやき”を受け入れれば、真実を知ることができる。
でも、それは——悠聖や自分の未来をも変えてしまうかもしれない。
「……悠聖が、選んで」
その言葉に、悠聖の目がわずかに見開かれる。
「お前の未来だぞ」
「ううん……違う」
紗江はそっと彼の手を握った。
「これは、二人の未来だから……一緒に決めたいの」
——ドクン。
悠聖の表情が、柔らかくほどける。
「……分かった」
そして、彼は紗江の手をぎゅっと握り返し——
「なら、俺たちは——」
静かに決断を告げた。
その瞬間、碑文が強く光を放つ。
——これは、二人の運命を変える試練。
彼らは、未来を選ぶための一歩を踏み出そうとしていた。




