第二十九章 君を守る理由
重々しく開かれた扉の先にあったのは、広大な空間だった。
高くそびえる天井には、古代の魔法陣が描かれている。
その中央に鎮座するのは、黒曜石のような光を放つ巨大な碑文——“ささやき”の真実が刻まれた場所。
「これが……」
紗江は思わず息をのんだ。
「君たちの力の正体を知る場所だ」
リゼルが静かに言う。
悠聖は紗江の手をそっと引いた。
「紗江、大丈夫か?」
——ドクン。
彼の指の温もりに、鼓動が速くなる。
「……悠聖がいるなら、大丈夫」
紗江がそう呟くと、悠聖は安心したように微笑んだ。
「なら、行こう」
彼は紗江の手を強く握り、ゆっくりと歩き出した。
碑文に近づくと、周囲の空気が重くなる。
すると、突然——
「紗江……」
どこからともなく、低い囁きが響いた。
——ゾクリ。
全身に鳥肌が立つ。
まるで、誰かが背後から囁いているような声。
「なに、これ……?」
紗江が不安そうに悠聖を見上げる。
その瞬間、悠聖は彼女をぐっと引き寄せた。
「っ……!」
彼の腕の中に閉じ込められる。
——ドクン。
耳元で感じる彼の鼓動が、妙に心を落ち着かせた。
「怖がるな」
囁くような声が、静かに響く。
「俺が……お前を守る」
その言葉とともに、悠聖の手が紗江の背に回る。
「……悠聖……」
彼の温もりが、全身を包み込む。
怖さも、不安も、全部溶けていく。
「俺には……お前しかいない」
——ドクン。
その言葉が、心の奥まで響く。
「……ずるいよ」
紗江は小さく囁くと、そっと彼の服を握った。
もう、離れたくない。
この人の腕の中が、世界で一番安心できる場所だから。
「……ありがとう」
そう呟いた瞬間、悠聖はさらに強く彼女を抱きしめた。
「これからも……お前のそばにいる」
彼の囁きが、甘く響く。
紗江の心は、もう完全に彼に囚われてしまっていた。




