第二十七章 魔王の城
悠聖と紗江は、魔族領フィエルデの奥深くへと足を踏み入れていた。
空気は冷たく澄んでおり、空には赤黒い月が浮かんでいる。王国とも帝国とも異なる異質な世界——それがここだった。
「……本当に来てしまったんだね」
紗江は不安げに周囲を見回した。
「でも、ここなら王国の手は届かない。しばらくは安全だ」
悠聖はそう言って、彼女の肩にそっと手を置いた。
——ドクン。
(この人の手……温かい)
魔族の領地にいるという恐怖が、彼の温もりによって少しずつ和らいでいく。
「大丈夫、俺がついてる」
囁くような声が、静かに心に溶ける。
「……うん」
紗江はそっと頷いた。
そして二人は、魔族領の中心地へと進んでいった——。
たどり着いたのは、黒曜石のごとき巨大な城。
そこには、魔王直属の軍が待ち構えていた。
「人間がこの地に足を踏み入れるとはな」
黒い鎧をまとった男が、冷ややかに告げる。
そして、その隣には——銀色の長髪をなびかせた青年がいた。
「これは興味深いな……」
彼は悠聖と紗江に目を向けると、ゆっくりと微笑んだ。
「私はリゼル。魔王直属の参謀だ」
「……俺たちに何の用だ?」
悠聖が警戒を強める。
するとリゼルは、紗江をじっと見つめ——
「君の“ささやき”……とても興味深い」
——ドクン。
背筋がぞくりとするほど鋭い視線。
まるで、心の奥を覗き込まれているようで——。
「……!」
紗江が思わず後ずさると、悠聖がすぐに彼女の腕を引いた。
「お前に紗江を触らせる気はない」
低く鋭い声。
——ドキン。
悠聖の手が、紗江の体を引き寄せる。
「……悠聖」
その腕の力が、決して離さないとでも言うように強い。
「俺が守る」
囁く声が、甘く優しく耳元に落ちた。
心が震える。
この場所がどんなに危険でも——
(この人がいるなら、私は……)
悠聖の胸にそっと身を預けると、彼はさらに強く抱きしめた。
「誰にも、お前を渡さない」
その言葉に、紗江の心は完全に囚われてしまった。




