第二十二章 未来を知る者
王国の城に囚われた紗江は、厚い扉の奥でじっと息を潜めていた。
悠聖が必ず迎えに来る——そう信じているのに、不安が胸を締めつける。
(……悠聖……)
名前を思うだけで、鼓動が強くなる。
すると、ふと——
「待っていろ、俺はすぐに行く」
どこからともなく、その声が聞こえた気がした。
——ドクン。
悠聖……!
彼のささやきが耳に届いた瞬間、胸の奥が温かくなる。
(やっぱり、信じていいんだ)
その時——
扉の向こうから、足音が近づく。
「勇者殿、お目覚めですか?」
鋭く、けれどどこか冷静な声が響いた。
入ってきたのは、王国の軍司令官・ライゼル。
「……また、あなた」
紗江は彼の視線を避けるように立ち上がる。
ライゼルは静かに彼女を見つめた。
「貴様の“ささやき”……興味深いな」
「え?」
「さっき……誰かの声が聞こえたのではないか?」
——ドクン。
(なぜ……この人がそんなことを……?)
何も答えない紗江を見て、ライゼルはゆっくりと歩み寄る。
「お前の“心のささやき”……王国のために利用できるかもしれんな」
「……利用?」
紗江の胸に嫌な感覚が広がる。
「人の本心を知る力——それが、もし王国の上層部の手に渡ったら?」
——ゾクリ。
背筋が冷たくなる。
王国の者たちが、彼女の力を必要としている——それは、戦争や陰謀に巻き込まれることを意味していた。
(悠聖……早く……!)
必死に祈るような気持ちでいると——
突然、扉の外から怒号が響いた。
「そこをどけ!」
——その声に、紗江の心が跳ねる。
「……悠聖!」
ライゼルの表情がわずかに動く。
「……来たか」
扉が激しく揺れ、騎士たちの慌てる声が響く。
そして次の瞬間——
ガンッ!
勢いよく扉が開かれた。
「紗江!」
息を切らしながら、悠聖が飛び込んでくる。
その姿を見た瞬間——
「……っ!」
張りつめていた気持ちが一気に崩れ、気づけば、紗江は駆け出していた。
「悠聖……!」
——ドクン。
次の瞬間、彼の腕が強く紗江を抱き寄せた。
「……迎えに来た」
低く甘い声が、耳元に落ちる。
「待たせて……悪かったな」
温かくて、力強い腕の中。
紗江はもう何も言えず、ただ彼の胸に顔を埋めた。
(この人が……迎えに来てくれた……)
それだけで、涙が溢れそうになる。
「……もう、大丈夫だからな」
囁く悠聖の声が、優しく、強く、紗江の心を包み込んでいた。




