第二十一章 囚われの勇者
夜の闇に紛れて逃げ続けたものの、王国の密偵たちはしつこく追跡してきた。
そして——。
「——くっ!」
紗江は気づけば、王国の兵士たちに囲まれていた。
悠聖の手が、強く紗江の腕を引いた。
「紗江、走れ!」
「……!」
必死に駆け出そうとするが、兵士の一人が紗江の腕を強く掴む。
「離せっ!」
「逃がすわけにはいかない……!」
瞬間、魔法陣が足元に展開される。
「——っ!」
気づいた時には遅かった。
紗江の体が強制的に魔法で縛られ、その場に倒れ込む。
「紗江!」
悠聖が駆け寄ろうとするが、兵士たちが剣を抜き、彼を包囲する。
「……くそっ!」
悠聖が悔しそうに拳を握る。
だが、その隙をつかれ、紗江の視界が一瞬にして暗転した。
次に目を覚ました時、紗江は見知らぬ部屋にいた。
天井には豪華な装飾が施され、部屋の隅には鎧をまとった兵士が立っている。
「ここは……?」
ゆっくりと体を起こすと、扉が開いた。
そして、一人の男が姿を現す。
白銀の髪に鋭い眼差しを持つ青年——王国の軍司令官、ライゼルだった。
「目覚めたか、勇者殿」
低く響く声が、紗江の肌を震わせる。
「……どうして、私を?」
紗江は警戒を隠さずに問いかける。
ライゼルはゆっくりと歩み寄ると、目の前で立ち止まった。
「お前は、本当に勇者ではないのか?」
「……私は、そんな力なんて……」
「それを判断するのはお前ではない」
ライゼルが紗江の顎をそっと持ち上げた。
——ドクン。
触れられた瞬間、背筋が凍る。
彼の目は鋭く、まるで何かを見透かそうとするようだった。
「貴様が本物であれ、偽物であれ、今や王国にとって重要な存在だ」
「……っ」
体がすくむ。
悠聖がいない。
それだけで、心細さが襲ってくる。
(悠聖……)
その時——
「待っていろ、必ず迎えに行く」
——ささやきが聞こえた。
悠聖の声。
まるで、彼がすぐそばにいるかのように。
(……信じてる)
紗江は、震える手をぎゅっと握りしめた。
彼が迎えに来る。
それだけが、彼女の心を支える唯一の希望だった。




