第二章 運命の交差
試験場の広場に差し込む陽光の中、悠聖は目の前の少女を見つめていた。
彼女は紗江——異世界に召喚された少女。勇者としての適性を持たず、王国から切り捨てられようとしている。だが、悠聖の「未来のささやき」ははっきりと告げていた。
(——「彼女を守れ。そうしなければ、全てが終わる」)
悠聖の胸の内に、焦燥感が募る。
そんな中、紗江は戸惑いながらも彼を見つめ返していた。
「……あなたは誰?」
その言葉が、風に乗って届く。
——その瞬間、悠聖は感じた。
少女の澄んだ瞳、頬をかすめる風、微かに震える声。ほんの数秒の出来事なのに、時間が引き伸ばされたように感じられた。
(この子は……俺にとって、特別な存在になる)
理屈では説明できない。けれど、未来のささやきとは別に、確かに「何か」が胸に響いた。
「悠聖……クラウディアだ」
答えながら、悠聖は紗江の手をそっと取った。
——ドキン。
紗江の心臓が大きく跳ねる。
「えっ……?」
触れられたのは、ほんのわずか。けれど、彼の指先の熱がじんわりと伝わり、まともに息ができなくなる。
悠聖の手は優しく、それでいて確かな強さを持っていた。まるで、どこかへ連れ去られてしまうような感覚。
「君は……大丈夫か?」
その言葉に、紗江ははっと我に返る。
「わ、私……」
不安でいっぱいだった。異世界に放り込まれ、勇者としての適性がないと見なされ、居場所を失いかけている。
けれど、目の前の少年のまなざしは——
強くて、真っ直ぐで。
「……助けるよ」
悠聖が囁いた瞬間、心の奥がざわめいた。
温かくて、包み込むような声。それなのに、なぜか胸の奥が切なくなる。
「ど、どうして……?」
震える声で問いかけると、悠聖は微笑んだ。
「未来のささやきが、君を助けろって言ったから——それだけじゃない」
悠聖の手が、紗江の頬にそっと触れる。
「君を見てたら……どうしても放っておけない」
——ドクン。
触れられた頬が熱くなる。
悠聖の指が、すべるように頬をなぞる。
「っ……」
心が暴れだす。鼓動が速くなりすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
「君は……俺を怖がる?」
悠聖の声が、さらに優しくなる。
「怖く……なんて、ない……」
かすれた声で答えた瞬間——
悠聖が、わずかに顔を近づけた。
——近い。
彼の瞳が、まるで覗き込むように揺らめいている。
風がそよぎ、二人の間の距離を縮めた。
それは、まるでキスをする前の距離で——
「……!」
思わず目を閉じそうになり、慌てて顔を背ける。
——心臓が、壊れる……!
「……可愛いな」
悠聖の囁きに、紗江の顔が真っ赤に染まる。
「そ、そんなこと……!」
必死に否定しようとするが、耳まで熱くなっているのが自分でも分かる。
悠聖は少し楽しそうに微笑むと、そっと紗江の手を握り直した。
「俺に……ついてこないか?」
優しく、しかし逃げられないように絡められた指。
その言葉が、まるで告白のように甘く響いて——
紗江の心は、完全に悠聖に囚われてしまった。