第十九章 闇の囁き
古文書庫の静寂の中、悠聖の手の温もりが、紗江の不安を和らげていた。
けれど、心のどこかで感じる違和感は、拭いきれなかった。
(“ささやき”は、過去の転生者たちの想い……?)
ならば、なぜ今この瞬間、胸の奥にひどく冷たいものを感じるのだろう——。
「……紗江?」
悠聖の声に、ハッとする。
「えっ……?」
「大丈夫か?」
彼の指が、そっと紗江の頬に触れた。
——ドクン。
「顔色、悪い」
その言葉に、紗江はぎゅっと唇を噛んだ。
たしかに、寒気がするほどの違和感があった。
「……なんだろう、何かが、違う気がする……」
そう呟いた瞬間——
突然、頭の奥に強いささやきが響いた。
「嘘よ」
——ゾクリ。
背筋に冷たいものが走る。
「っ!」
紗江は思わず、悠聖の腕を掴んだ。
「紗江?」
悠聖が驚いたように顔を覗き込む。
けれど、その声も遠く感じた。
(今の……何?)
ささやきが、ひどく濁っていた。
いつもの「心のささやき」とは違う。
それどころか——。
「あなたは、騙されている」
「……え?」
紗江の体が震える。
だが、その瞬間——。
「大丈夫だ、紗江」
悠聖が、そっと彼女の肩を引き寄せた。
——ドクン。
「悠……聖……?」
驚いて彼を見上げると、悠聖は真剣な瞳で彼女を見つめていた。
「怖いなら、俺がいる」
静かに、けれど強く囁く声に、胸が熱くなる。
「俺のことを信じろ」
そっと抱きしめられる。
体温が伝わり、不安が和らいでいく。
「……信じる」
そう小さく呟くと、悠聖は優しく微笑んだ。
それだけで、紗江の心の霧が少しずつ晴れていく気がした。
(きっと、大丈夫……この人がいるなら)
彼の腕の中で、紗江はそっと目を閉じた。
月明かりの下、二人の距離は、もう離れることのないものになっていた。




