第十六章 中立都市ルセリア
長い逃亡の果てに、悠聖と紗江はようやく目的地に辿り着いた。
ここは中立都市ルセリア。王国と帝国の影響を受けない、交易と知識の中心地。
「すごい……」
紗江は目を見張った。
石畳の広場には様々な種族が行き交い、露店からは異国の香辛料の匂いが漂う。
「しばらくここで身を隠そう」
悠聖がそう言いながら、紗江の手を引いた。
——ドクン。
何気ない仕草なのに、心臓が跳ねる。
(……いつの間に、こんなに意識するようになっちゃったんだろう)
手のひらから伝わる温もりが、ひどく安心できるものに思えてしまう。
「大丈夫か?」
悠聖が覗き込む。
「だ、大丈夫……!」
慌てて答えるが、彼はどこか納得していないような表情で、紗江の手を握る力を少し強めた。
「なら、ちゃんとついてこい」
まるで、逃がさないとでも言うように。
その言葉と仕草に、胸が甘く痺れる。
(ずるい……)
彼に守られているのが心地よくて、紗江はそっと彼の手を握り返した。
悠聖は驚いたように目を瞬かせ——
そして、優しく微笑んだ。
「……いい子だ」
低く甘い囁きが、耳に触れる。
それだけで、鼓動がさらに速くなる。
この人に、もっと触れていたい。
そんな想いがこぼれそうになって——
「……もう、私のこと放っておかないでよね」
気づけば、そんな言葉がこぼれていた。
悠聖の瞳が、わずかに揺れる。
「……放っておくわけないだろ」
そして、紗江の手をそっと引き寄せた。
すぐそばで、彼の鼓動が聞こえる。
その距離に、息が詰まる。
「俺のそばから、もう離れるな」
静かに告げられた言葉が、心を甘く満たす。
紗江はもう、この手を離せなくなっていた。




