第十五章 旅路の果てに
静かな森の中、夜露に濡れた草を踏みしめながら、悠聖と紗江はゆっくりと歩いていた。
王国の追っ手を振り切り、ようやく一息つける場所を見つけたのだった。
「はぁ……危なかったね」
紗江が胸を押さえながら息を整える。
「そうだな。でも、もう大丈夫だ」
悠聖はそう言いながら、そっと紗江の肩に手を置いた。
その瞬間——。
「……っ!」
紗江の心臓が、大きく跳ねた。
それは、さっきまでの緊張からくるものではなく——。
「紗江?」
悠聖が少し不思議そうに彼女を覗き込む。
近い。
呼吸が絡まりそうなほど近くて、紗江は思わず目をそらした。
「な、なんでもない……!」
「本当に?」
悠聖が、じっと彼女の顔を覗き込む。
「……そんなに俺のこと見るなよ」
彼の低い声が、夜の静寂に溶ける。
「み、見てない……!」
必死に否定するが、悠聖は意地悪そうに微笑んだ。
「じゃあ、なんでそんなに顔が赤いんだ?」
「っ……」
紗江は言葉を詰まらせた。
(ずるい……)
こんな風に囁かれたら、余計に意識してしまう。
「俺のこと……そんなに意識してる?」
悠聖がさらに顔を近づける。
その距離に、息が止まりそうになる。
「そ、そんなこと……」
「嘘だな」
囁くような声とともに、悠聖の指がそっと紗江の髪をなぞる。
「……悠聖……?」
「……お前が、可愛いから」
その言葉に、紗江の思考は完全に止まった。
——ドクン。
心臓が痛いほどに跳ねる。
「俺に……囚われてくれる?」
静かな問いかけが、心の奥を震わせる。
——もう、抗えない。
「……はい」
小さく頷くと、悠聖は微笑み、そっと彼女の手を引いた。
月明かりの下、二人の影は重なり、夜の闇に溶けていった。




