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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第五十四章 王都地下の異変

 王都オルディスの地下には、誰も立ち入らぬ“古層”がある。

 かつて王家直属の術師団が儀式を行っていたというその空間は、いまや封鎖され、記録の中からも消されかけていた。

 だが、そこに再び――“黒いささやき”の反応が現れた。

 「魔力の流れが歪んでる……これは、ただの残滓じゃない」

 ナディアが神聖術で空間を読み解き、表情を強張らせた。

 「“地下迷宮”の最奥に、何かが呼吸してる。息を潜めて……今、目覚めようとしてる」

 「行くしかないな」

 直哉なおやが剣を手に立ち上がる。

 その隣で、麻希まきも静かに頷いた。

 「うん。ちゃんと見届けないと、わたしたちの戦い、終われないから」

 彼女は言葉のあと、ちらりと直哉の顔を見た。

 「ねえ、ちゃんと……隣、いてくれる?」

 その問いに、直哉は微笑む。

 「当たり前だろ。お前が怖がる暇もないくらい、近くにいるから」

 「……じゃあ、手、貸して」

 差し出した手に、彼の掌が重なる。

 たったそれだけで、麻希の心はふっと軽くなった。

 ――やっぱり、わたしはこの手がなきゃ、前には進めない。

 王城地下。

 重く錆びた鉄扉を越え、空気が変わる。

 そこには、魔術的な装飾と呪文の刻まれた“旧儀式空間”が広がっていた。

 「……気をつけて。罠も、魔物も、ここでは“古代の理”で動いてる」

 ラウラが先導しながら進む。

 だが、進むほどに、空気が冷たく――何かに見られているような圧力が強まっていく。

 「ちょっと、怖い……かも」

 そう呟いた麻希が、思わず直哉の袖をぎゅっと掴む。

 「こ、怖いわけじゃないんだけど……なんか、こう、びっくりする系は苦手というか……」

 その仕草に、直哉がくすっと笑った。

 「だいじょうぶ。びっくりする前に、俺の腕の中に飛び込んでいいぞ」

 「そ、それ、言ってる本人が一番照れてるから……!」

 顔を赤くしながらも、麻希は直哉の腕にぎゅっと寄り添った。

 ふたりの距離が、ひとつ呼吸の幅でぴったりと重なる。

 「……でも、ちょっと落ち着いた。ありがとう、直哉」

 「うん。お前が笑ってくれるなら、俺は何回でもこうする」

 そのまま足を進めるふたりの間に、自然と優しい空気が流れていた。

 迷宮の奥、かつて“封印の間”と呼ばれていた場所。

 そこに残されていたのは、無数の呪術陣と、凝固した黒い魔力の痕跡。

 「……これ、王国が“ささやき”の研究をしていた証拠だ」

 ラウラが低く呟く。

 「つまり……わたしたちが怯えていた“黒いささやき”は、意図的に――?」

 麻希の声が、震える。

 「……それでも、過去は変えられない。でも未来は、わたしたちで変えられる」

 直哉の声は、確かな力を帯びていた。

 彼の手が、再び麻希の手をしっかりと包み込む。

 「お前がいる限り、俺は真実から目を逸らさない。怖がるな、麻希。お前の声は、この世界を“正しく導く”音なんだ」

 麻希の瞳が、まっすぐ彼を見上げる。

 「……そんなふうに言われたら、もう逃げられないじゃん」

 「逃がさないって言ってるんだよ」

 そのまま、ふたりの額が、そっと重なる。

 光のない地下で、ふたりの想いだけがやさしく瞬いていた。

 「……ありがとう、直哉。わたし、また一歩進めそう」

 「おう。お前の一歩を、俺がずっと支えてく」

 やがて、ふたりは封印の間に眠る“記録”を手に、再び地上を目指す。

 そして、そこから始まる“真実”に――ふたりは、しっかりと手をつないだまま、向き合うことになる。


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