表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ささやきの運命  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/120

第二部:第五十三章 巫女ナディアの決意

 王都オルディスの神殿区。

 荘厳な石造りの聖堂には、朝の光がステンドグラスを通して降り注ぎ、床に七色の模様を描いていた。

 その中心に、ひとり立つ少女――ナディア。

 清らかな白と金の巫女衣をまとい、背筋を伸ばした彼女は、これまでの旅路で確かに“覚悟”を育ててきた。

 「……正式に、巫女として任命されたのね」

 ラウラが穏やかな声で言うと、ナディアは静かに頷いた。

 「はい。ようやく、ここに立つ資格を得られました。――でも」

 彼女の目がかすかに曇る。

 「この力を“国のためだけ”に使え、という声もあるのです。“黒いささやき”の残滓を掌握し、国力として確保すべきだと……」

 「……それを、あなたはどう思ってるの?」

 麻希が問いかける。

 ナディアは、ほんの一瞬迷い――はっきりと答えた。

 「拒否します。私は“祈りの声”を人を支配するために使うつもりはありません。

 そのために、あなたたちと旅をして、学んだんです。人の心を響かせるものが何かを」

 ラウラは満足げに微笑み、麻希はそっと彼女の手を取った。

 「……わたしも、最初は“力なんて、ただの災いだ”って思ってた。

 でもね……あなたが“この声に意味がある”って言ってくれたから、いまのわたしがあるんだよ」

 ナディアの瞳に、光が宿る。

 その隣で、直哉なおやが小さく笑った。

 「もう完全に“仲間”って感じだな。頼りになる巫女さま」

 「ふふ、頼らせていただきます、騎士さま」

 軽口の応酬に、麻希が少しだけ頬をふくらませる。

 「……ちょっと、仲良すぎない?」

 「え、やきもち?」と直哉が意地悪く言うと、

 「ちがう! ただ……あなた、誰にでも優しいから……ちょっとだけ心配になるの」

 その言葉に、直哉は一歩近づいて、麻希の手を取る。

 そして――静かに、彼女の額にキスを落とした。

 「……お前以外には、こんなことしないから。心配しないでいい」

 「なっ……っ!」

 頬が一気に真っ赤になる。

 ナディアとラウラがくすくすと笑い、麻希は視線を逸らしてそっぽを向いた。

 「そ、そういうのは、もっと……ちゃんとしたときに……してよ……」

 「じゃあ、“ちゃんとしたとき”に、もう一回してやるよ」

 「ばか……」

 それでも――嬉しそうに笑ってしまう自分を、麻希は止められなかった。

 その夜、聖堂の中庭。

 月明かりの下で、ナディアはひとり、祈りを捧げていた。

 そこへ、麻希がそっと歩み寄る。

 「ナディア。ねえ、ちょっとだけ、時間くれる?」

 「もちろん。どうしたの?」

 麻希は少し言い淀んでから、意を決して口を開いた。

 「……あなたの巫女衣、すごく綺麗だった。まぶしいくらいだった。……わたし、ちょっと羨ましかった」

 「ふふ、でも麻希は、声だけじゃなくて心で人を動かしてるわ。

 それって――きっと、“誰よりも強い”力よ」

 「……ありがとう。じゃあ、お返しに言うね」

 麻希はナディアの耳元にそっと口を寄せ、囁く。

 「あなた、本当に綺麗だったよ。うっかり“好き”って言いそうになった」

 「――なっ、なにを……!」

 ナディアの顔がぱっと赤くなり、麻希は悪戯っぽく笑う。

 「冗談だよ? ……たぶん」

 その様子を、遠くから直哉が見つめていた。

 「……楽しそうだな、あいつ」

 ラウラが肩をすくめて言う。

 「嫉妬してるの?」

 「ちょっとだけ。……でも、まあ、楽しそうならいっか」

 そう呟いた彼の目は、どこまでも優しかった。

 そして、また新たな闇へと向かう準備が、静かに始まっていく――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ