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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第五十二章 再びの王都

 王国オルディス――。

 壮麗な白亜の城壁がそびえるその姿は、かつて麻希まきが“逃げるように去った”場所とはまるで別物に見えた。

 初めて訪れたときは、ただただ冷たく、閉ざされたような印象だったはずのその門が、いまは不思議なほど柔らかく映る。

 それはきっと――

 直哉なおやが、ずっと隣にいてくれるから。

 「……門、ちゃんと開いてる」

 「まるで俺たちを待ってたみたいだな」

 「ふふっ、言いすぎ。でも……うれしい」

 麻希はそっと直哉の腕に手を添える。彼は気づくと、手を握り返してくれていた。

 その温もりが、胸にじんわりと広がる。

 王都の街は騒然としていたが、かつてのような緊迫感は薄れていた。

 直哉と麻希の功績は、すでに帝国との戦いを通して広まっており、街の人々がふたりを英雄として認識していたのだ。

 「あなたが“調律の声”の麻希さまですか……!」

 「こちらが“閃光の剣”直哉殿!」

 どこへ行っても歓迎と尊敬の眼差しが注がれる。

 けれど、麻希はどこか落ち着かず、軽く肩をすくめた。

 「なんだか……気恥ずかしいね」

 「よかったな。逃げ出したくなったら、すぐ俺がおぶってやるから」

 「や、やめてよそれ……!」

 直哉が笑いながら小声で囁くと、麻希は思わず笑い声をこぼした。

 けれど、その手は、彼の袖をしっかりと掴んでいる。

 「でも、逃げない。……だって、今度はあなたが一緒だから」

 王城の中庭。

 騎士団が整列し、白銀の甲冑が朝日を反射して輝いていた。

 かつて麻希を疑い、捕らえようとした騎士たちが、いまは跪いて彼女に敬礼を捧げている。

 「光の導きに感謝を。麻希殿、ようこそお戻りくださいました」

 麻希は深く礼を返しながら、ちらりと直哉の方を見る。

 彼もまた、静かに頷きながら手を差し出した。

 「もう“囚われる側”じゃない。お前が、導く番だ」

 その言葉に、胸が熱くなる。

 彼がいる限り、自分はもう“逃げない”。

 声を出せる。想いを届けられる。

 「ありがとう……本当に、あなたがいてくれてよかった」

 「俺こそ、そばにいさせてくれてありがとな」

 麻希はそっと寄り添い、彼の肩に頭を預けた。

 「……もし、あのときあなたと出会ってなかったら、きっと今のわたしはないんだろうな」

 「俺もだよ。お前が俺に“ちゃんと好きだって言ってくれた”から、俺は自分を信じられるようになった」

 「……直哉」

 静かに名前を呼ぶ声は、空気を震わせるほどやさしかった。

 そのとき――風がふわりと吹いた。

 麻希の髪が揺れ、彼の頬を撫でる。

 直哉は、その柔らかな髪をそっと指ですくい、彼女の瞳を見つめた。

 「なあ……今、この瞬間に言ってもいい?」

 「……うん、いいよ」

 「俺、お前を“生涯の隣”にしたい。……もう、ひとりにはさせない」

 「……ふふ。言われる前に、わたしのほうが覚悟してたかも」

 そして、そっと額を重ねる。

 キスじゃない。だけど、それ以上に甘くて、強くて、心を震わせる触れ合い。

 ふたりの間に、誰にも邪魔されない、恋の音が確かに響いていた。

 ナディアとラウラが遠くからふたりを見守りながら、そっと微笑む。

 「恋って、こんなにも世界を動かす力があるのね」

 「うん……あのふたりが出会ってくれたことに、感謝したいくらいよ」

 こうして――

 ふたりの愛は、再び王都を包み込み、世界に“希望”という名の旋律を奏ではじめる。


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