第二部:第五十章 帝国再生と和解
帝都フォルニアは、ようやく――
本当の意味で、夜明けを迎えていた。
黒き残滓が完全に浄化され、空を覆っていた不穏な影が晴れていく。
壊れた街には、静かに鐘の音が響き、人々は互いの手を取り、再び“生きる場所”を築き始めていた。
そして、その中心に立っていたのは――
直哉と麻希。
◆
広場の仮設演壇。
グレオスが深く頭を下げ、民衆に向けて告げる。
「私は、この国を導く者として、再び立つ。だが、私ひとりの手では、何も築けない」
ざわつく人々の中に、まっすぐに立つふたりの姿があった。
「この国を救ったのは、私ではない。
闇に打ち勝ち、声を響かせ、命を賭して守ってくれた――この“ふたり”だ」
拍手が起きた。
最初はぽつりと、やがて波のように広がって、帝都全域がその音で満たされていく。
麻希は少しだけ肩をすくめて照れ笑いを浮かべる。
「わたし、あんまり人前に出るの得意じゃないのに……」
「でも、誰より目立ってる」
直哉が耳元でからかうように囁く。
「う……やめてよ、もう……!」
顔を真っ赤にしながらも、麻希は彼の袖をきゅっと引っ張った。
まるで――「逃げちゃダメだよ」と言いたげに。
「……でも、嫌いじゃない。あなたとなら、どんな場所に立っても、きっと大丈夫だから」
直哉はその言葉に、静かに微笑んだ。
「よし、じゃあこの先ずっと、隣にいてくれ」
「うん。……“ずっと”だよ?」
「“ずっとずっと”でもいい」
ふたりの笑顔に、空気が柔らかくほどけていく。
◆
数日後――。
帝都は急速に復興へと向かい始めていた。
グレオスは民衆と向き合いながら、少しずつ信頼を取り戻し、
ナディアは和平の象徴として王国との交渉を進めていた。
その夜。
静まり返った屋上のテラスで、麻希は風に髪をなびかせていた。
月明かりに照らされたその背を、直哉が後ろからそっと抱きしめる。
「……こんなに世界が静かだなんて、信じられないね」
「ずっと騒がしかったからな。お前の寝言以外は」
「なっ、ちょっと! 聞いてたの!?」
「“直哉のばか”って、はっきり言ってた」
麻希は顔を真っ赤にして、肘で軽く突く。
「うう……それは、夢の中のわたしのせいだから……!」
「それも含めて、お前が好きだって話」
その一言に、彼女の動きが止まる。
風が、ふたりの間をそっと抜けていったあと――
麻希は彼の腕の中で、小さく言った。
「……好きって言葉、いくら聞いても足りないんだね」
「じゃあ……何度でも言うよ。俺は、お前が、好きだ」
「わたしも……あなたが、好き」
その言葉が、そっと唇の間から零れると同時に――
直哉が麻希を抱き寄せ、額を合わせる。
「……次は、どこへ行こうか」
「どこでもいいよ。あなたとなら、草原でも、谷でも、雲の上でも」
「そっか。……じゃあ、ひとまず“ふたりの家”から始めようぜ」
「うん。白い壁と、大きな窓と、あなたの声が響く家」
ふたりは未来を夢見ながら、そっと唇を近づけ――
だが、触れる寸前で、止まった。
麻希が小さく笑う。
「……まだ、取っておくの。だって、ちゃんと家ができたら“初キス”にしようよ」
「お、おう……逆に緊張してきたんだけど」
「それでいいの。……あなたの“好き”を、もっと大事にしたいから」
ふたりは見つめ合い、頬を染めながらも手をつなぐ。
光が差し込む未来へと――しっかりと、ふたりの心が歩き始めていた。




