第十一章 決断の夜
夜の風が静かに街を駆け抜ける。
悠聖と紗江は、廃墟となった古い教会の影に身を潜めていた。
王城からの追っ手はすぐ近くまで迫っている。それなのに——
「……怖い?」
悠聖の声が、静かに紗江の耳に届いた。
「……ううん」
小さく首を振る。
怖くない、と言えば嘘になる。
でも、それよりも——
(この人のそばにいられるなら……)
そう思う自分がいることに気づいてしまった。
「俺がいるから、大丈夫」
悠聖は、そっと紗江の手を握った。
——ドクン。
その手は、驚くほど温かくて。
「……私、悠聖のこと……信じてる」
震える声で、けれど確かな想いを込めて紗江は言った。
すると——
「紗江」
彼は、そっと彼女の頬に触れた。
優しくて、包み込むような手のひら。
——近い。
彼の瞳に映る自分が、何もかも奪われそうで。
「俺も……君を信じてる」
静かな囁きが、夜の闇に溶ける。
風が吹き、二人の距離をさらに縮めた。
——キスしてしまいそうな距離。
「……っ」
紗江は息を止める。
悠聖の視線が、自分の唇にわずかに落ちたのが分かった。
(……ダメ、こんなの……)
けれど、目を逸らせない。
彼の指が、そっと髪を撫でた。
「……俺が守る」
囁く声が、直接心に響く。
紗江の心は、完全にこの人に囚われてしまっていた。
彼の温もりに包まれながら、紗江はただ静かに目を閉じた——。




