第二部:第四十九章 決意の一撃
闇の残滓を倒した――はずだった。
だが。
直哉と麻希、そして帝都の人々が息をつく間もなく、
地の底から再び、禍々しい脈動が響き始めた。
「……嘘、まだ終わってなかったの……?」
麻希の声が震える。
「ちがう。あれは……残滓の“核”が暴走してるんだ!」
ラウラが魔法陣を走査しながら叫ぶ。
――黒き核。
それは、“黒いささやき”が完全に浄化される前に自我を手放し、ただ破壊と呪いだけを残して暴走する、
最も危険な状態だった。
「逃げては間に合わない。これ以上暴れられたら、帝都全体が――!」
ナディアの叫びに、人々が戸惑う中、直哉が剣を握り締めて前に出た。
「俺が行く。止めてくる」
「だめ、無茶だよ!」
麻希が叫ぶ。だが、直哉はゆっくりと振り返り――微笑んだ。
「大丈夫。今度こそ、“決める”って、ずっと決めてたから」
彼の瞳は、どこまでも澄んでいて、迷いがなかった。
それが、余計に麻希の胸を締めつけた。
「……一緒に、行く」
「いや、今回は俺ひとりで行かせてくれ。お前は、最後の光を残しておいてほしい」
「そんなの、ずるい……」
麻希の唇が震える。
「もし、もし戻ってこなかったら、どうするの?」
直哉は、彼女に歩み寄り、そっとその涙を指で拭った。
「戻るさ。だって――お前の隣が、俺の帰る場所だから」
そして、不意に。
彼は麻希の頬を両手で包み、まるで吸い寄せられるように、額をそっと重ねた。
「好きだよ。こんな世界でも、お前がいるから、俺は立てる」
「……わたしも、好き。だから、絶対……帰ってきて」
頷いた直哉は、光の中へと飛び込んでいった。
◆
暴走する“黒き核”との対峙。
それは、まるで時空そのものがひしゃげたような異空間。
黒い結晶の触手がうねり、瘴気が全身を蝕む――だが、直哉は止まらない。
「俺は、もう迷わない。もう、二度と背を向けたりしない!」
全身が傷だらけになりながら、彼の剣が煌めく。
そして――
“逆転の閃光・真式”
それは、彼のすべての想いが凝縮された一閃。
麻希と過ごした時間、守りたいという祈り、愛しさと痛み――
すべてが剣に込められ、黒き核を貫いた。
眩い光が、世界を包み込む。
◆
……そして、静寂。
崩れた瓦礫の中、直哉は地に倒れ込んでいた。
その胸に、温かいぬくもりが触れる。
「直哉っ……!」
麻希が駆け寄り、彼の身体を抱きしめる。
「やった……倒したんだね……」
直哉はゆっくりと目を開けた。
「おかえり……麻希」
「うん……ただいま、直哉」
ふたりは、何も言わず、ただ強く抱き合った。
世界を救ったその腕は、もう剣を握らず――
たったひとりの“好きな人”を、抱きしめるためだけにあった。
「……ねえ、直哉」
「ん?」
「今度こそ、未来の話、していい?」
「おう。……ずっと、したかった」
「じゃあ……最初に言って。わたし、あなたの声で聞きたい」
少し照れながら、彼は笑う。
「じゃあ……俺と、一緒に暮らしてくれ」
「あなたのこと、ずっとそばで感じていたい」
「じゃあ……これからもずっと、一緒だな」
「……うん。世界が終わっても、わたしはあなたの隣にいる」
魔物も闇も消え去ったその地に、ふたりの恋がしっかりと根を張った。




