第二部:第四十八章 闇の残滓との決戦
翌朝。
穏やかだった帝都に、突如として“あの音”が響いた。
ゴォォォォ……という不気味な震動と共に、地面から黒煙が噴き出す。
人々が逃げ惑う中、空が歪み、まるで闇が逆流するように“それ”は現れた。
――黒き残滓。
封印されたはずの“黒いささやき”の断片が、帝都の地下に残されていた。
それが魔物のような形をとり、突如として市街を襲いはじめたのだ。
「……これが、最後の一片……!」
ラウラが歯を噛みしめながら叫ぶ。
「麻希、直哉! あれを倒せば、今度こそ“全て”が終わるわ!」
直哉が剣を抜き、麻希がその背を支えるように並ぶ。
「お前の声があれば、俺は絶対に負けない」
「わたしも、あなたがいてくれるなら、怖くない……!」
“黒い残滓”の巨躯が咆哮を上げ、二人へと爪を振り下ろす。
直哉がその一撃を剣で受け止めた瞬間――
「……今!」
麻希の“調律の声”が響いた。
その声に呼応するように、周囲の兵士たちやグレオス、ナディアが次々と立ち上がる。
「中央へ火弾を! 援護は右翼から!」
「急所は胸部の魔核よ! 麻希、指揮をお願い!」
戦場の混乱の中で、彼女の声はまるで光の道標だった。
直哉はその指示に従いながら、一気に前線を突き進む。
そして魔物の中心核へ、渾身の一撃を叩き込んだ。
ドォンッ――!!
黒き残滓の体が、眩い閃光と共に崩れ落ちる。
その場には、静けさと、魔力の霧だけが残された。
◆
戦いのあと。
瓦礫に囲まれた広場の中央で、麻希はその場に膝をついていた。
魔力を使い果たし、指先が少し震えている。
「……お前、ほんとすごいな」
直哉が静かに歩み寄り、彼女の肩を抱く。
「わたし……ちゃんと、できてた……?」
「当たり前だろ。……お前がいなきゃ、絶対に勝てなかった」
彼の言葉に、麻希は頬を染めながら、ぽつりと呟いた。
「……なら、少しぐらい“褒美”欲しいな」
直哉が意表を突かれたように笑う。
「なにがいい? 花束か? 晩ご飯奢るか? それとも――」
「“ぎゅー”って、してほしい」
小さく絞り出すように言ったその言葉に、直哉は一瞬きょとんとし、次の瞬間には、彼女を強く抱きしめていた。
「……よく頑張ったな、麻希」
「……ありがとう。あなたのぬくもり、大好き……」
その小さな告白に、直哉は少し顔を赤らめながらも、そっと耳元でささやいた。
「お前の全部が、俺の好きなものだから」
世界が壊れかけたその場所で。
ふたりは、互いの命を、心を、そっと確かめ合うように寄り添っていた。
――この手が離れなければ、未来はきっと、もっと優しくなれる。
そんな希望を胸に、夜が静かに降り始める。




