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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第四十七章 光をもたらす声

 帝都フォルニア――。

 瓦礫に埋もれかけていた街は、いまや再建の槌音に満ちていた。

 貴族たちの権力争いは収まり、民衆の間にも、わずかずつではあるが“未来”への眼差しが戻り始めていた。

 だが、それでもなお、混乱の爪痕は深い。

 都市の南地区では、いまだ一部の兵が暴徒化し、治安の回復には至っていなかった。

 そこで――グレオスは決断した。

 「あの声を、もう一度……帝都全域に響かせてくれ」

 それは、麻希まきへの依頼だった。

 「私の命令や威圧では届かない。“民の心”を動かせるのは、私ではなく――君の“声”だ」

 グレオスは、かつての将軍の姿ではなく、ひとりの男として頭を下げた。

 麻希は、しばらく沈黙してから、そっと直哉なおやの顔を見た。

 彼は迷わず頷いた。

 「やってこいよ。お前の声は、俺がいちばん信じてる」

 その言葉だけで、胸の奥にじんわりと熱が広がっていく。

 麻希は頷き、静かに歩き出した。

 帝都の中央広場。

 見上げるほどの高さの鐘楼の上に、ひとり立った麻希は、深く息を吸い込む。

 その隣には、直哉がいた。

 彼は彼女の手を握り、目線を合わせて言った。

 「下で聞いてる。ずっと、どんなときも。だから大丈夫」

 「……うん」

 そっと手を離し、麻希はひとり、鐘楼の縁に立った。

 「……お願い、“調律の声”」

 魔力が喉に集まり、風に乗って光が揺れる。

 そして、彼女の声が、帝都全域に届き始めた。

 「皆さん。どうか、聞いてください――」

 その第一声は、静かだった。

 けれど、その“静けさ”が、まるで心に沁みこむように響く。

 「争う理由が、正義だったこともあるでしょう。怒りや不安に突き動かされたことも、責めません。

 でも今……誰かの手を取って、“やり直したい”と思う心が、ほんの少しでもあるのなら――」

 風が止み、街中がしんと静まり返る。

 「わたしは、その声を、ちゃんと受け取ります。どうか、あなたの隣にいる人の手を、今度は“壊す”ためじゃなく、“守る”ために握ってください」

 その瞬間――

 帝都全域に、魔力の光が花のように咲き始めた。

 それは、怒りに染まっていた魔力が、静かに浄化されていく“調律”の証。

 ナディアが涙ぐみながら、ラウラの肩を握る。

 「……あれが、彼女の声の力」

 そして――鐘楼を降りた麻希が、直哉の胸に倒れ込むように寄りかかった。

 「疲れた……ちょっとだけ、休ませて……」

 「よく頑張ったな。お前、かっこよすぎた」

 「そんなこと言われたら、また頑張りたくなっちゃうじゃん……」

 麻希は彼の腕の中で、顔を埋めるようにしながら小さく笑った。

 「わたし、あんなに高いところ苦手だったのに……不思議だね。あなたが下にいてくれるだけで、どこまででも届く気がした」

 直哉は、彼女の髪をそっと撫でながら囁いた。

 「……俺の心にも、届いてたよ。お前の声」

 麻希が、胸元で彼の服をそっと握る。

 「じゃあ、今だけは……わたしの声じゃなくて、ぬくもりで感じて」

 その小さな願いに応えるように、直哉は彼女を強く、しかし優しく抱き締めた。

 静かに沈む夕暮れの中。

 帝都は、まるで深呼吸を取り戻したように静まり――

 ふたりの心もまた、深く、穏やかにひとつになっていた。


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