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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第四十六章 内乱と説得

 帝国首都フォルニア――。

 かつて石造りの大路を黄金の軍旗が練り歩いたこの街は、いまや火花と怒号に満ちていた。

 皇帝派と反皇帝派の対立は臨界を越え、市街の各所で小規模な衝突が相次いでいる。

 帝都の空は、騒乱の煙にかすみ、太陽の光すら鈍く翳って見えた。

 「急がなきゃ……!」

 麻希まきは胸元を押さえながら、瓦礫を踏み越えて駆ける。

 直哉なおやがすぐ後ろに続き、ナディアとラウラは結界と回復魔法で市民を援護していた。

 「このままじゃ、帝都が本当に壊れてしまう……!」

 「まだ間に合う。グレオスが民の前に立てば……きっと!」

 ふたりは焦りながらも、心のどこかで確信していた。

 今なら、届く。

 この国は、変われる。

 なぜなら――ふたりが愛する“誰かを守る強さ”を知ったから。

 中心広場。

 かつて演説や式典に使われた石造りの壇上に、グレオスが立つ。

 直哉と麻希は彼の傍らに立ち、周囲を取り囲む武装兵士たちと対峙していた。

 「民よ、兵よ、聞け!」

 グレオスの声が、地を震わせるように響く。

 「私は……過ちを犯した。かつて“ささやき”の力に手を伸ばし、この国を崩壊寸前にまで導いた張本人だ」

 「ならば死ね!」という罵声が飛ぶ。だが、彼は動じない。

 「それでも私は戻ってきた。なぜなら、まだ――“守りたいもの”が、この国にあるからだ!」

 その叫びに、少しずつ周囲の兵士たちの槍先が揺らぎ始める。

 そのとき――麻希が前へ出た。

 「皆さん、聞いてください! わたしは、この人の闇を知っています。でも……それ以上に、この人の“光”を見たんです」

 人々の視線が、彼女に集まる。

 震えそうになる脚を、直哉の手がそっと支えた。

 「彼は“間違った”。でも、わたしたちはその間違いを責めるためにここに来たんじゃない。

 “やり直す”ために、ここに来たんです!」

 「……そして、俺たちがその“やり直し”を手伝う。

 誰かが手を差し伸べなきゃ、もう誰も立ち直れなくなるだろ」

 直哉の言葉に、少しずつ民衆の表情が変わっていく。

 怒りが、困惑へ。

 そして、困惑が、わずかな“信頼”へ――。

 「……変われるのか? この帝国が……」

 「変えます。わたしたちが力を合わせれば、きっと……!」

 麻希がそう強く言い切ったとき、広場の奥でひとりの少女が小さく拍手をした。

 それが連鎖し、ひとり、またひとりと拍手が増えていく。

 やがてそれは、大通りいっぱいに鳴り響く、希望の音となった。

 その夜、帝都の高台にて。

 騒乱がようやく収まり、民が火を囲って食事をとる中――

 麻希と直哉は、誰もいない石畳の路地を歩いていた。

 夜風がそよぎ、彼女の髪を揺らす。

 「……なんだか、不思議だね。あんなに怖かった帝都の空気が、今日はやさしく感じる」

 「お前が声を届けたからだよ」

 直哉の言葉に、麻希は照れたように俯く。

 「……でも、途中で足、震えてた。あなたの手、なかったら無理だったよ」

 「じゃあさ、これからも震えるときは、俺が支えるから」

 「……ずっと?」

 「ずっと。……できれば毎晩」

 「な……っ、毎晩はちょっと照れるんだけど……!」

 直哉がニヤッと笑う。麻希は頬を赤らめながら、それでも彼の腕にそっともたれた。

 「ありがとう。今日……すごく、あなたの隣が心強かった」

 「俺も。今日のお前は、本当に……惚れ直すしかなかった」

 静かな街の灯りの中、ふたりはしばらく何も言わずに寄り添っていた。

 この夜が、永遠に続けばいい。

 そう思わせるほどの、穏やかな“愛”がそこにあった。


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