第二部:第四十五章 帝国の首都へ
瓦礫の街アクルスに、かすかな陽光が差し込んでいた。
それは、長く続いた“闇の時代”の終わりを告げる、かすかな夜明けの兆し。
だが、帝国はまだ完全には癒えていない。
グレオスが指導者として復帰したことで内乱は鎮静化しつつあるが、貴族同士の争い、兵の混乱、民の不安は根深く残っていた。
そして、直哉と麻希、ナディア、ラウラの四人は――
その“帝国の再生”を手伝うため、グレオスとともに帝国首都フォルニアへと向かっていた。
◆
道中、空気は緊迫していた。
「このままいけば、明日には首都に入れる……けど、問題は、向こうの反応よね」
ラウラが地図を畳み、口を引き結ぶ。
「グレオス将軍の帰還を快く思わない連中が、まだ多くいるはずです」
ナディアの声も硬い。
直哉と麻希は、並んで馬に乗っていた。
その距離は、ふとした拍子に指が触れそうなほど近くて――けれど、それが心地よかった。
「……ねえ、直哉」
麻希が、ぽつりと声を落とす。
「ん?」
「この旅が終わったら……本当に、一緒に住むんだよね?」
不意打ちのような言葉に、直哉は軽く目を見開き、笑った。
「今さら疑ってんのか?」
「そ、そういうんじゃなくて……ちょっと夢みたいで」
「じゃあ証拠、見せとくか」
そう言って、彼は馬を止めると、隣の麻希に向き直り、手を差し出した。
「改めて。麻希、お前がいい。……俺と、一緒に未来を歩いてください」
それは、戦場ではない。誰にも邪魔されない、青空の下の“プロポーズ”だった。
麻希は、息を詰めたまま、しばらくその手を見つめ――
小さく震える手で、そっと重ねた。
「……はい」
その一言で、空がいっそう澄み渡った気がした。
風がふわりと髪を揺らし、彼女の頬にかかる。
直哉がそっと指先でそれを払ったとき、彼女のまなざしが、思わず潤む。
「泣くなよ、せっかくいい雰囲気だったのに」
「だって、ずっと、あなたの“好き”を待ってたの……」
「じゃあもう一回言っとくか。俺はお前が好きだ。世界がどうなろうと、たぶんずっと」
麻希がふふっと笑い、馬のたてがみに顔を埋める。
「……わたしも、直哉が好き。言葉にしなくても伝わるって思ってたけど、ちゃんと、声にしたかった」
その愛の言葉を、風がそっと連れ去り、青い空に溶けていった。
◆
夕暮れ、首都フォルニアの外壁が見えてきた。
だが、門の前には重装備の騎士団が待ち構えていた。
その中心には――グレオスのかつての部下たちの姿がある。
「……戻ってこられたのですね、将軍」
「帝国を裏切り、混乱を招いた男が、何を言う」
厳しい言葉が飛び交う中、直哉と麻希は前に出た。
「彼は、誰よりも国を想っていた。だからこそ、過ちを認めて戻ってきたんだ」
直哉の声に、麻希も続ける。
「もう一度だけ、信じてあげてください。わたしたちも、命をかけて彼を支える」
騎士団の隊長が、麻希の目をじっと見つめ、わずかに表情を緩めた。
「……あの“調律の声”……あなたが、あの麻希殿か」
ざわめきが広がる。
直哉の隣で、彼女がすっと背筋を伸ばす。
「そう。わたしが“声を響かせた”者です。でも、響かせただけじゃ、何も変わらなかった。
本当に変えてくれたのは、彼――直哉なんです」
まっすぐに向けられた信頼の言葉に、直哉は顔を真っ赤に染めた。
「な、なんだよ急に……」
「たまには、わたしが守ってあげたくなるんだよ。……あなた、すぐ泣きそうな顔するから」
騎士団の面々が思わず笑みを浮かべ、緊張がほどけていく。
グレオスが小さく息を吐いた。
「……ありがとう。ふたりとも」
やがて、門がゆっくりと開かれる。
帝国の再生の旅が、いよいよ本格的に始まる――
そして、ふたりの恋もまた、世界の未来へと繋がってゆく。




