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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第四十二章 闇の残滓

 中立都市ルセリアの朝は、神殿とはまるで違う優しい光に包まれていた。

 遠くで鳥がさえずり、風が花を揺らし、世界が“平穏”という名の調べを取り戻しつつあることを告げていた。

 だが、静けさの奥には――まだ消えていない“残響”があった。

 ルセリア研究所の一室。

 麻希まきは柔らかな布団の中で、ふと目を覚ました。

 視界の先に、椅子でうたた寝している直哉なおやの姿がある。

 「……ん……なおや……?」

 直哉はすぐに顔を上げ、ほっとしたように微笑んだ。

 「起きたか。無事でよかった……」

 彼の声を聞いた瞬間、麻希の胸がじんわりと熱くなった。

 「わたし……ちゃんと、あなたの隣に戻ってこれたんだね……」

 「約束しただろ。何があっても、一緒に未来を見るって」

 麻希はゆっくりと手を伸ばし、彼の指をそっと握った。

 指先から伝わる温もりが、あまりにも優しくて、思わず涙が滲む。

 「……また泣いてるのか?」

 「違うよ……これは、嬉しい涙」

 そう言って笑う彼女を見て、直哉の表情がやわらかく崩れる。

 「……かわいすぎて、やばい」

 「え……」

 「正直、ちょっとだけ……泣いてるお前に、キスしたくなった」

 その言葉に、麻希の頬がぱっと赤く染まった。

 「な、なおやっ、ダメだよ……ここ、ラウラさんたちもいるかも……!」

 「わかってるよ。言っただけ。……でも」

 彼の顔が、ほんの少しだけ近づく。

 その距離に、麻希の心臓がドクンと跳ねる。

 「もし今ふたりきりだったら、間違いなくしてたな」

 「……っ、ずるい」

 「お前が泣くのが悪いんだよ」

 ふたりの笑い声が、ささやかな朝の静けさをやわらかく染めていった。

 けれど、その平穏を破るように――

 部屋の扉が勢いよく開かれた。

 「直哉くん、麻希ちゃん! たいへんよ……!」

 飛び込んできたラウラの顔は、明らかに強張っていた。

 「神殿は無事封印されたけれど……どうやら、“黒いささやき”の一部が完全には消えていなかったの」

 麻希が息を呑む。

 「そんな……じゃあ、また誰かが……?」

 「違うわ。あれはもう“個”ではなく、“世界に染み込んだ負の記憶”として残っている。

 今、一部の地域で魔物が急激に凶暴化している報告が入ってきているの」

 直哉は立ち上がり、麻希の手を離そうとした。

 だが――その手を、麻希がきゅっと強く握り返した。

 「待って……まだ、わたし……もう少し、こうしていたい」

 その声は、少しだけ震えていた。

 ラウラが気を利かせて、一歩下がる。

 「……少しだけよ。今のふたりにしか救えない未来が、また生まれようとしているんだから」

 扉が閉まり、再び静寂。

 麻希は、ぎゅっと彼の胸に顔を埋めた。

 「ねぇ、直哉……今度こそ、終わったって思ってたのに」

 「俺も。でも……もう怖くないだろ? 俺たち、どんな闇も超えてきた。次だって――一緒にいれば、きっと大丈夫」

 「うん……でも、だから、怖いの。あなたが傷つくのが……もう見たくない」

 「お前のためなら、何度だって傷つくよ。だって、俺の全部は、もうお前のもんだから」

 そのまっすぐな言葉に、麻希は胸の奥まで射抜かれたように、そっと目を閉じた。

 「……じゃあ、全部、わたしにちょうだい。あなたの痛みも、迷いも、やさしさも……好きって気持ちも、全部」

 「……喜んで、全部やる」

 ふたりの間に、ふわりと甘く優しい空気が漂った。

 まだ世界に残る“闇の残滓”――

 けれどそれに立ち向かう覚悟も、ふたりの間にはもう、はっきりと根づいていた。

 そして今――

 ふたりの愛が、第二部の本当の“始まりの音”を鳴らしはじめる。


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