第二部:第四十章 二人の共鳴
神殿最奥、封印の祭壇に再び静寂が訪れた。
闇は払われ、“黒いささやき”の核は砕かれた――。
だが、真なる封印を完了させるには、最後の“儀式”が必要だった。
ラウラがゆっくりと、神殿の中央に浮かぶ祭壇の核へと歩み寄り、
崩れかけた古文書を手に、静かに読み上げる。
「“共鳴者たちの心が、ひとつとなったとき、光は闇を包み、声は深き眠りにつく”……」
ナディアが、魔法陣を描きながら小さく頷く。
「この祭壇を起動できるのは、“心が完全に重なったふたり”だけ。……麻希さん、直哉さん。お願いできますか?」
ふたりは、自然と互いの目を見つめ合っていた。
すでに、言葉はいらなかった。
直哉が手を差し出すと、麻希は静かにその手を取り、そっと微笑む。
「準備、いい?」
「ずっと、できてる。お前となら、どこへでも行ける」
その手と手が重なると、魔法陣が光りはじめる。
同時に、ふたりの足元に“調律”の文様と“閃光”の紋章が浮かび上がり、共鳴の波が空間を満たしていった。
麻希は深く目を閉じ、胸の内から真っ直ぐな想いを紡ぐ。
「この世界を守りたい。大切な人と一緒に、未来を見たい。
――わたしの声は、彼と重なって、誰かを癒せる力になるって、信じてる」
直哉はその言葉に、まっすぐ応えるように言った。
「俺は、迷いながら進んできた。でも……この手を握ってくれたお前がいたから、俺は、俺でいられた。
だから、もう離さない。これから先も、全部、一緒に生きていくって決めたんだ」
その瞬間、ふたりの間に強い光が生まれ、神殿全体が振動した。
ラウラが目を見開く。
「……あれは、“完全共鳴”……!」
ナディアも、小さく祈るように手を胸に当てた。
「お願い……この光で、“ささやき”を静かに眠らせて……」
光の柱が天へと昇り、神殿の天井にあった古の封印盤が、長い時を超えて再び動き出す。
その光の中で――
直哉と麻希は、ゆっくりと顔を近づけ、額をそっと合わせた。
「直哉……」
「麻希……」
世界が光に包まれ、すべての音が遠のいていく中――
彼らの心だけが、深く、深く、共鳴していた。
その瞬間、祭壇の奥底に眠っていた最後の“黒の波動”が、光に浄化されていく。
――愛が、ささやきを閉じ込めたのだ。
◆
封印が完了した後、神殿は穏やかに崩れはじめた。
もう“役目”を終えた神殿には、これ以上の存在意義がなかった。
逃げる時間は――限られていた。
「行こう! もう道は開かれてる!」
ナディアの声に、ラウラが魔法陣で退路を展開する。
だが、ぐらりと揺れる床の上で、麻希の足がもつれる。
「きゃっ――!」
その身体を、直哉がすかさず抱きとめた。
「もう、目を離すとすぐコレなんだから……」
「ご、ごめん……でも、あなたが来てくれるって分かってた……」
その言葉に、直哉はわざと眉をひそめた。
「……なんか、また惚れ直しそうなんだけど、どうしてくれる?」
「じゃあ、ちゃんと責任とって?」
麻希の言葉に、直哉の表情が止まる。
「え……?」
「封印も終わったし、次は……“未来”の話、してもいいよね?」
まっすぐに笑う彼女の顔が、まぶしすぎて、思わず見惚れる。
「……ああ、もちろん。帰ったら、ちゃんと話そう。約束」
ふたりの手が強く結ばれ、光の退路を駆け抜ける。
――恋が世界を救い、そして未来へと走り出す。
それは、終わりではなく、ふたりが共鳴で手に入れた“はじまり”だった。




