第十章 逃亡の選択
夜の闇が静かに街を包んでいた。
王城を抜け出し、悠聖と紗江は人気のない路地を進んでいた。逃亡者としての身であることを自覚しながら、それでも紗江の手を離すつもりはなかった。
「……どこへ行くの?」
紗江が小さく尋ねる。
「安全な場所だ」
悠聖は即答する。その言葉に、紗江の心が少しだけ軽くなった。
(この人は、私を本当に守ってくれるんだ)
ただの言葉じゃない。彼の手のぬくもりが、それを証明していた。
「……もう少しだけ、走れる?」
優しく尋ねられ、紗江は力強く頷く。
「うん……!」
だが次の瞬間、遠くから騎士たちの怒号が響いた。
「……見つかったか」
悠聖が低く呟く。
そのまま手を引かれ、さらに走り出そうとした瞬間——
紗江の足元が絡まり、バランスを崩した。
「——きゃっ!」
倒れかける紗江を、悠聖がすぐに抱きとめる。
「大丈夫か?」
顔を上げると、彼の腕の中だった。
——ドクン。
鼓動が速くなる。
「ご、ごめん……」
紗江が小さく謝ると、悠聖は優しく微笑んだ。
「謝ることじゃない」
彼はそう言って、紗江の頬にそっと手を添えた。
「俺の方こそ、無理をさせたな」
その声が優しすぎて、心が震える。
「でも……俺は君を絶対に守る」
強い瞳が、紗江の心をまっすぐ射抜いた。
気づけば、彼の顔が近づいていた。
「……!」
夜風が頬を撫でる。
悠聖の指が、そっと紗江の髪を撫でた。
「紗江」
名前を呼ばれた瞬間、胸がいっぱいになる。
「……うん」
小さく頷くと、悠聖は微笑み——
彼の腕が、そっと紗江を包み込む。
「君は……俺が絶対に守るから」
囁くような声に、体の力が抜けていく。
(どうしよう……この人に、どこまでもついていきたくなる)
悠聖の温もりが、心を溶かしていく。
——こんなにも、誰かに触れられることが愛しく思えるなんて。
夜の闇の中、二人はただ静かに寄り添っていた。




