第一章 転生と召喚
眩い光に包まれ、意識が遠のく——。
悠聖は確かに、事故で命を落としたはずだった。だが次に目を開けた時、彼は石造りの天井を見上げていた。重厚なシャンデリアが煌めき、周囲には華やかな装飾が施された豪奢な部屋。
「……ここは?」
視界の端に映るのは、巨大な鏡。そこに映るのは、見覚えのない美少年だった。艶やかな黒髪に端正な顔立ち。自分のものとは思えない繊細な手が、戸惑いながら鏡に触れる。
——生まれ変わった?
混乱の中、頭に流れ込んでくる記憶。ここは「エルヴァリア」と呼ばれる異世界であり、自分は貴族「クラウディア家」の次男として生を受けたのだという。そして、自身に宿るスキルは——「未来のささやき」。
これは、まだ曖昧だが未来を示唆する声が時折聞こえてくる力。だがそのスキルが何を意味するのか、この時の悠聖はまだ知らなかった。
一方、神聖王国オルディスの王城。
荘厳な大広間に描かれた魔法陣が突如光を放ち、静寂を打ち破った。騎士たちは一斉に剣を構え、王族や神官たちが息をのむ。そして、光の中心に現れたのは——
「……っ」
青みがかった黒髪がふわりと揺れる。一人の少女が、その場に膝をついていた。制服姿の彼女は、状況を理解できていないように怯えながら周囲を見渡した。
「成功だ……! 勇者召喚が!」
王の声が響くと、騎士たちが歓喜の声を上げる。しかし、少女は混乱していた。
「ちょ、ちょっと待って……ここ、どこ……?」
彼女の名前は紗江。つい数分前まで、教室にいたはずだった。だが気づけば異世界の大広間に立たされ、見知らぬ人々に囲まれている。
「あなたは選ばれたのです。世界を救う勇者として」
神官の言葉に、紗江は硬直した。
「勇者……? え、そんなの……」
だが、次の瞬間——
「適性を調べよ」
魔法師が紗江に向けて杖を掲げる。瞬間、光が彼女を包むが——
「……っ!? まさか……!」
神官が驚愕の表情を浮かべる。
「この者には、勇者としての適性が……ない」
場の空気が凍りつく。勇者召喚は失敗だったのだ。
「嘘……私、ただの高校生なのに……」
王は不満げに眉を寄せ、周囲の騎士たちが次々と顔を曇らせる。
「無能な勇者など、不要だな」
その言葉が、紗江の胸を刺した。まるで、価値がないと突きつけられたようで——。
王城の騎士試験場。
悠聖は、ある予兆を感じ取っていた。
(——「試験場に向かえ。そこに、お前の運命がある」)
未来のささやきが囁いた言葉。その意味を探るため、悠聖は王城の試験場へ向かっていた。
そして、そこにいたのは——一人の少女。
彼女は不安げに周囲を見つめていたが、その瞳が悠聖をとらえた瞬間——
(……この人、何かを知っている)
理由は分からない。ただ、確信めいたものが胸に広がる。
「君……」
悠聖が声をかけた瞬間、紗江の心臓が高鳴った。何だろう、この感覚は。
初めて会ったはずなのに、懐かしいような、安心するような——けれど、同時に心を掻き乱されるような。
「……誰?」
戸惑いながらも、紗江は目の前の少年から目を離せなかった。