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第一章/第4話:星

以降は3000文字は最低限で確保しようと思います。

大樹祭2日目


大海の先の水平線から太陽の光が煌々とエルグリンドを照らす。

大人達は昨日の晩からずっと飲んでいるのか、早朝にも関わらず延々と騒ぎ続けている。

まったく、みすぼらしい限りだ。


ルフトは今日もまたいつものように街の通りを歩いていた。


「どこもかしこも酔っ払った大人ばっかりだな……。」


それもそのはず、国民たちにとって一番大事なのは、この2日目なのである。

なにせ大樹祭2日目には、一大イベントである、戴冠式が行われるのだ。


戴冠式はその年で初めて国王が姿を現し、そしてその年の戴冠者を指名する。

指名された者は、次の日までに世界樹の内部へとつながる門、通称「ヘヴンズゲート」を通らなければならない。

門とは言うものの、見た目は門というよりドデカい鉄の扉といった感じだろうか。

世界樹の壁にめり込むように鎮座していて、高さはメタセコイヤの木くらいであろうか。

少し離れて見るだけでも中々に重厚感が感じられる。

錆びているように見えるその門は、本当に人の力で開くのだろうかと不思議に思うほどだ。


普段はその門に一般人が近づくことは許されていない。

ただ、国王に選ばれた戴冠者達のみがその門を通過することを許される。

こっそりにでも神域に入りたくとも、一人では到底開くことのできないであろうこの門に行く手を阻まれるのだ。

故にそんな馬鹿なことをしようとする者は存在しない。


「うーん……なんだか今日は早くに目が覚めちゃったな。戴冠式まで結構時間があるみたいだし、どうしたものか。」


現在の時刻は午前6時、戴冠式は午後から行われる。

それにしても相変わらず街は騒がしい。

祭り気分になって、わいわいと賑やかすのは良いことだが、こうも早朝から騒がれては騒音と形容されても仕方がないことだろう。

だが、大樹祭の開催期間の2日間はずっと店が開いているのは有り難い。

酒場や飲食のできる出店だけじゃない。

服屋や骨董品屋などの幅広い店なども、大樹祭の期間を売り時として戴冠式以外の時間帯は、大概の店が閉店することはない。


ルフトは、母に「これで朝ごはんでも食べてきなさい」と渡された小遣いで、空いた小腹を満たそうと出店を見て回っていた。


「おや……そこの僕。」


「え、僕ですか?」


「そうそう君だ。」


道沿いに多くの屋台が並ぶ中、家と家のすき間の路地から突然若い女性のような声の、ローブを深く顔に被った人物に声をかけられた。

()()()()な占い師である。


「ちょっとこっちに来てみろ。占ってやる。」


「僕今、朝ごはんとして食べるもの探してて……」


「なぁに、直ぐに終わるさ。」


隠れるように薄暗い路地裏で占いをやっている……怪しい事この上ない。

ただ、占いというものには少し興味がある。

現実主義者なアンジェロと違い、非科学的なものであっても、信じてしまうのがルフトである。(ついでにハンスも)

一抹の不安と期待の混ざった心境のルフトは占い師に向けて歩を進めた。


「まぁ座りたまえ。」


ルフトは言われた通り、占い師に向かい合うようにして置かれた質素な椅子に腰掛ける。


占い師は、ローブだけでなく、鼻背にまで上げたマスクのようなもので顔を隠している。

故に、占い師の顔は目元しか見えていない。

しかしながら、褒める訳では無いが目元だけでもこの占い師が整った顔立ちをしているであろうことは分かる。

金色の大きな瞳に、長いまつ毛、加えて整った眉毛。

マスクの下はさぞ妖艶な顔立ちなのであろう。


「……そこまで熱烈な目で見られるとさすがに照れるぞ。」


「あっ、すいません。」


気づかぬうちに見入ってしまっていたらしい。

どうも穴があったら入りたい気分になった。


「さて、さっそく貴様を占ってみるとしよう。」


「っとその前に、お代とかって……」


「ふむ、私から(けしか)けた事だ。そんな物はいらん。」


「じゃあ何のために僕を…?」


「なあに、ただの興味本位だ。遠目で見た貴様から、少し妙な気配を感じてな。」


「そう…ですか……。」


妙な気配……多少の引っかりを覚える僕を差し置き占い師は何やら、(ふち)に12個程のマークが描かれた円盤を取り出した。


「これは……?」


「ふむ、これは占星術せんせいじゅつだ。多少、我流を混ぜてはいるがね。」


「……?」


名前を聞いてもわからない。

まぁおそらくは星に関係のある占いなのだろう。


「さて貴様、生まれはいつだ?」


「えっと……12月13日です。」


「時刻は分かるか?」


「えっと……午前1時頃だったと聞いてます。」


「ふむ、場所はどうだ?」


「ちょっとそこまでは……。」


「そうか……まぁいい。大体掴めた。」


いくつかの質疑応答を淡々と繰り返した後、占い師は手を動かし、本格的に占いの作業に入った。

自分には一体何をしているのかさっぱりわからない。

しばらくして、占い師は手を止めた。


「ふむ、成程。」


そういって占い師は、円盤に見入るような姿勢をとった。

結果が気になる。


「まぁ、そう焦った顔をするな。占い結果が出た。」


「ど、どうでした?」


そういってゴクリと唾を飲む。


「ふむ、貴様……全く()()の一般人だ。向こうの人生、平穏な暮らしを送れるだろう。」


「えぇ……。」


()()か……。予想はしていたものの、ここまでもったいぶられた上、「妙な気配」なんて事を言われた末に出された結論としては、満足ができるはずがない。多少ショックを受けてしまう。


「はははっ。そう落胆した顔をするな。厄事が起こらないのは良いことではないか!」


「いや、てっきり僕には「秘められた力」的な何かがあるのかと……。」


「ふむ、()()()()()()ねぇ……。高望みをするものではないぞ、少年。」 


「なんだぁ……結局時間の無駄だったじゃないかぁ。お腹ぺこぺだよぉ……!」


「まぁ、そういうな。代わりと言ってはなんだが、これをくれてやる。」


手渡されたのは、今までで見たこともない果実だった。

お世辞にも美味しそうとは言えない見た目をしている。

なんというか……こう……刺々しい?というのだろうか、表面が凸凹(でこぼこ)した拳より一回りほど大きいサイズの果実だ。

赤黒くて、少しグロテスクな見た目をしている。


「空腹なのであろう?これで腹でも満たすんだな。」


「美味しいんですか?これ。」


「ふむ、食えばわかる。家に帰ってからでも食ってみるといい。」


いくらお腹が空いているとは言え、この見た目ではどうしても食欲がわかない。

森の木にこの実がなっていたとしても、微塵も食べたいとは思わないだろう。


「あ、ありがとうございます……。」


ルフトはもらった果物を持っていたカバンの中にしまい、軽く会釈をしてから占い師のもとを離れた。


その後ルフトは、屋台で焼きトウモロコシを食べた。


______________________________________________


薄暗い路地裏から蒼天を見つめるその人物は、先ほどまで少年の相手をしていた、しがない占い師だ。




「こんなところで出会えるとはな……。」


さっきの少年、間違いないだろう。

あいつめ、あんな子供に押し付けるとは、ホント良い趣味してるな。


『僕には秘められた何かがあるのかと……』


占い師は、あの少年が言ったことを思い返す。


「……あるさ。それもとんでもないのがね。」


誰に向かってなんてこともなく、ただただ小さい声でそう呟く。


「ふふふふ……我ながら傑作だね。彼が一生()()に暮らせるだなんて。さて、彼の見る景色の先にはどんな物語が広がっているのかな?楽しみだね、全く。」


意味深な事を呟く占い師は、ローブのフードとマスクを外し、無限に広がる空に微笑みをこぼした。


占い師は、今作で割と重要なキャラであったりなかったり……

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