第一章/第2話:大樹の膝元にて
鐘が鳴り、祭りが始まってからというもの、街のそこら中に酒の空き瓶が転がり、空からは常に紙吹雪が舞っている。
そんな中、街のちょっとした高台の上でルフトとアンジェロが2人で話し込んでいる。
ハンスはというと、ついに怒り狂った父親に見つかってしまい、首根っこ掴まれて連れて行かれてしまった。
「そりゃないぜ親父ぃ!これから遊びに行くってのによぉ!!」と言いながら、ズリズリと引き摺られていくハンスの様は、しばらくはネタに出来るほどに、実に滑稽であった。
「ルフト、お前は明日の戴冠式、見に行くのか?」
大樹祭は2日に渡り行われる。
1日目は「降臨の儀」という儀式を執り行い、2日目に「戴冠式」という戴冠者を選定する行事が行われるのだ。
「うーん…僕はいいかな。見たところでって感じだし。」
「そっか。」
「アンジェロはどうするの?」
「俺はいくよ。一般人が国王サマを拝むことのできる、唯一のチャンスだしね。戴冠者になること自体は興味ないけど、誰が戴冠者になるのかは少し気になるしね。」
「あー、確かに。でも戴冠者になることに興味ない人なんて、僕たちぐらいじゃない?」
「そうだな……皆ハンスみたいに、「国王になれる」っていう目先の利益しか頭にないからね。そういう奴らは、それに至るまでの過程ってものが見えてないのさ。」
この国で戴冠者になる、ということはこれ以上ない名誉なことであると言うのが世間の理である。
故に、アンジェロのように、戴冠者になることに無関心であったり、ルフトのように多少なりとも疑念を持つものは、ほんの限られた数しかいないのであった。
「じゃあアンジェロはさ、もし戴冠者に選ばれたとしたら、神域に入りたい?」
「入りたいも何も、入らされるじゃないか。戴冠者に選ばれた者は神域に入る、それがこの国の民衆が決めた風潮さ。「はいる・入らない」は一応自由とされてるけど、入らなければ神聖な戴冠者の称号を穢した非国民扱いだなんて、強制以外の何ものでもないね。」
「じゃあさ、どうして戴冠者たちは一人もこの国に戻ってこないのかな…?」
「………。お前、さっきから俺に聞いてばっかりだな。」
アンジェロはルフトの方を見て、少し怪訝な顔をした。
思い返せば確かにアンジェロにばかり質問しているな、とルフトは少しだけ反省した。
「まぁ、それは俺も気になってたことではあるから、いいんだけどさ………。世界樹の内部は森が広がってるって話じゃん?」
アンジェロはいつも物知りで、聞いたことには何かしらで答えてくれる。
そして、彼は時々、長々と語りだすことがある。
ルフトは、アンジェロが語るそんな話が好きだった。
何より、彼が何かを語りだす時、彼の目には、いつよりも輝きが灯っている。
そして話は戻る___
「うん、それで中の森は、まるで天国みたいな自然が作った楽園が広がっているって聞くよね。」
「そうそう。それで、大樹祭が始まって大体30年ちょい、毎年15人の戴冠者が選ばれてるわけだから、単純計算で大体500人くらいの戴冠者が中にいるわけだ。」
「そうだね…。つまり?」
「なんたって500人の規模だ。内部で村みたいな物を作ってるんじゃないかな。神域って天国みたいなんだろ?だから神域から出たくない、的な。」
ありえなくはないと思う。
だが、500人もの戴冠者がいて、1人たりとも帰りたいと思わないなんて、少しおかしいような気もする。
「ほんとに…世界樹の中は天国なのかな……。」
「んなもん知るかよ。俺たちのもとには王様が開示してる情報しかないんだ。何も知らない俺たちは、その情報を信じるしかないんだよ。」
「………」
アンジェロの話は、多少ぶっ飛んだ内容のことがある。
だが今回の話には、妙に納得できるところがあった。
しかし、500人もの戴冠者がいて、誰一人帰ってこない。誰も家族に会いたいとは思わないんだろうか。
それ程までに世界樹の内部は美しいのだろうか。
心の何処かに取っ掛かりを抱えつつも、アンジェロの言った通り、答えなんて実際に行ってみないとわからない。
そう話し込んでいるうちに、時刻は2時を過ぎようとしていた。
少し説明口調になりすぎたかな?と書きながら思ってました。
読者の方もそう思ったかもしれません。
だとしたらごめんなさい。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。