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親友の意義とその優位性

「ねえ凛、怒っている?」


「別に……怒っていないわよ」


 私はそっけなく答えた。


「やっぱり怒っているじゃない、だから何度も謝ったでしょう⁉」


例によって例のごとく、中庭で昼休みの食事をしている私と葵の会話である。


「仕方がないわよね、葵にとって私よりマサシさんの方がずっとずっと大切でしょうから」


私は皮肉交じりの口調で葵に言うと、チラリと彼女の顔を見る。


やはりというか予想通りというか、私と葵の月面旅行は唐突に終わりを告げた


それは仕方がない、そういう事態は想定内であったしいずれはそうなると覚悟をしていたから……


しかし想定外だったのは、その時期があまりに早く訪れたという点であった


葵と彼が【マチコン】で出会ってたった六日間で私の暫定王者の地位はマサシという挑戦者の前に無残にも引きずり降ろされた


もうあの青く美しい地球を目にすることは二度とないのだ。


「だって、しょうがないじゃん、マサシがどうしても私と月面見たいっていうし……」


葵は唇を尖らせながら言った、勿論これは嘘だろう。葵とは中学からの付き合いだからよく知っている


間違いなく葵の方から〈一緒に月面見よう、貴方と見たいの〉と言い出したのに決まっている


それをいけしゃあしゃあと嘘八百を並べ立て、その責任を彼に押し付けるあたり良くも悪くも葵である


そこを突き詰めていけば簡単にボロを出すのも葵なのだが、そこまですると逆切れしてヒステリックになってしまうので、ここは別の手で制裁を加えてやる事にしたのだ。


「別に怒ってないと言っているでしょう、早くお弁当食べないとお昼休み終わっちゃうよ」


「こんな所でお弁当なんか食べられないよ‼」


葵が懇願する様に発した言葉はあながち的外れではない。


親友に見限られ葵のアプリを共有できなくなった私は、未だ葵との共有設定してある私のアプリを起動させて、お昼休みに入った


今、私の起動させている【風景体験型アプリ】の場所は勿論〈氷河期のマンモス狩り〉である。


私達の周りでは吹雪の中、集団でマンモスを狩っている原始人たちが雄叫びを上げている


何本もの槍を突き刺し、マンモスを仕留めようとする原始人たちに対して


必死に抵抗するマンモスはもがく様に暴れ、激しく降り注ぐ雪の空に怒りの咆哮を上げていた、この殺伐とした空気の中で私は一人黙々と弁当を食べる。


「もう止めてよ‼凜のアプリでもお花畑とか海岸とか定番スポットがあるでしょう?


寧ろ何も起動していない校庭の中庭でもこれより百倍マシよ、だから早く……きゃあああ‼」


今、葵の真横でマンモスの巨大な足が一人の原始人を踏み潰した


グチャリという生々しい音が耳に残り非常に不快な気分になり、とても食事という気分では無い


しかし私は必死に平静を装い、やせ我慢で何事も無かった様に平気で弁当を口に運ぶ


正直言って吐きそうだが、この演技を意地でも止めるつもりは無かった。


「ゴメンって言っているじゃない、本当に凜はしつこい性格しているわね


アンタは頭が良くてそんな清楚な見た目している癖に、異常な程負けず嫌いだし、勝ち気だし、執念深いし、気が短いし……」


葵は苛立ち交じりに私の性格的な欠点を並べ連ねた。そんな自分の性格は葵に言われるまでも無く十分承知しているのだが


こうして改めて言われると少し腹が立ってくる。人間とは不思議なモノである。


「ねえ、葵、私がどうして怒っているのかわかる?」

 

私は意味深な言葉を葵に対して発した。


「何よ、それ?その言葉は女が男を追い詰める時に使うセリフよ


言葉の使用法を間違っているのではないかしら、どうせ私がマサシを優先したから怒っているんでしょ⁉」


今度は葵がイライラし始めたのがわかる、この子も私同様、意外と怒りっぽいのだ。


「そんな事で怒る程、私の心は狭くはないわ」


「そんな訳無いじゃない、アンタの心は猫の額より狭いわよ‼」


激しく憤る葵の頭上を、巨大なマンモスが通り過ぎていた。


「本当に心当たりは無いのね?」


「ある訳無いじゃない、言いたいことがあるのなら言ってみなさいよ‼」


そう言い放った葵の周りを何人もの原始人が駆け抜けていったが、はもはや興奮状態の葵は周りの光景が目に入っていない様子であった。


「そう、じゃあ聞くけれど、ここ三日ばかり私の個人PCに対して不正アクセスが殺到しているのだけれど、あなた何かその原因に心当たりは無い?」


 その瞬間、葵の顔から怒りの表情が掻き消えた。


「あ……」


 葵は明らかに〈ヤバい〉という表情を見せた。


露骨に視線を逸らし〈どうしよう〉という態度でソワソワし始めた。こういう態度に出てしまうあたり、良くも悪くも葵である。


「やっぱりあるのね、心当たり……」


「いや、その……何て言うか……よくわからないわ、ハハハハハ……」


 猛吹雪の中で葵の乾いた笑い声が聞こえてくる。


当の本人は挙動不審にも程があるといった不審者丸出しの姿でこちらを見られずにソワソワしていた。


「じゃあ私が言ってあげる。葵、あなた私の事をSNSにあげたでしょう?


良からぬ輩にとって私は格好のターゲットみたいだから、今まで私にたどり着く情報は入念に遮断してきたのよ


それが三日前からどこぞのハッカー、クラッカー共が大挙して押し寄せてきたのよ。変だな?


と思って調べてみたら、貴方のSNSから私の個人的な情報が漏れていたみたい


さる匿名掲示板ではご丁寧に【電脳姫に挑んで名を上げる勇者集まれ】というスレッドまで立っていたわ


これでもまだ〈知らぬ、存ぜぬ〉を決め込むつもり?ねえ葵、答えてくれないかしら」


 私は冷ややかな目で親友の顔を見るとさすがの葵も言葉が出ないでいた。


代わりに大量の汗が噴き出していて、何をどう言おうか必死で考えている様子である。


「ゴメン、凛、実は先日SNSで貴方の事を載せたの、まさかこんな事になるとは思わなくて……本当にゴメン‼」


 もう言い訳のしようがないと観念したのか、さすがの葵も両手を合わせながら深々と頭を下げ謝罪罪してきた。


「全く、しょうがないわね……まあ本当に悪いのはハッキングして来る奴らだけれどね


これ見よがしに名前も名乗らず私のPCにアタックを仕掛けてくる馬鹿共のしつこい事といったらもう……」


「それで、大丈夫だったの、凛?」


 さすがに自分のせいで私に実害が出ていたらシャレにならないと思ったのか、葵は心配そうな顔でこちらの顔色をうかがっていた。


「とりあえず大丈夫だと思うわ、その掲示板を含め、私の個人情報は漏れていないみたいだしね


【KOEG】にも出られないド素人が私の築いたファイアウォールを突破しようなんて十年早いわよ


来年おいでって感じで追い返してやったわよ。あまりにしつこい奴にはそいつのIPアドレスをつきとめて


逆に私特性のウイルスをプレゼントしてやったわ、いい気味よ」


 私の言葉を聞き、ようやくホッと胸をなでおろした様子の葵。


「良かった、私のせいで凜に迷惑がかかったらどうしようかと思ったわ」


「いや。十分迷惑かかっているけれど……本当に気を付けてよ」


 すると葵は舌をペロリと出しおどけた感じで微笑んだ。


「ごみ~ん、それにしても、複数人の男の猛アタックを苦も無く退け誰にも近づけさせないとか


凜は【電脳姫】というより【かぐや姫】みたいね」


もうすっかり安心しきっている葵、口調もいつもの調子に戻っていた


何やかんやと言ってもこれが普段の私達だ。


昔から私と葵はこんな感じで、色々口論になっても最後はうやむやになる。


どことなく憎めないお調子者、それが私の親友、上坂葵である。


葵は無意識なのだろうが最後に月に帰ってしまった【かぐや姫】と、二度と月面に降り立つことは無い私


そんな私に対して【かぐや姫】とは、随分と皮肉な話である。


「ねえ、そういえば凜の【マチコン】は明日だっけ?」


「うん、まあね……期待と不安が入り混じったような、味わった事の無い不思議な気分よ」


「楽しみじゃないの?」


「楽しみではないかな……私に合う男性ってどんな相手なのか?という興味はあるけれど、正直あまり乗り気ではないわね……」


これは私の偽らざる正直な気持ちだ。葵だけでなく【マチコン】を受ける生徒は男子も女子も期待に胸を膨らませ


ワクワクしながらその日を待つのが普通の様だ。


【マチコン】を受ける直前と受けた後は、男子も女子もこの話題で持ちきりである


教室内でこの事を興奮気味に話している他生徒をよく見かけるし、その様子を見ていれば誰が受けたのかも一目瞭然である。


今の生徒達にとって、【マチコン】は【学園祭】や【修学旅行】をしのぐ程の一大イベントなのだ


実際に現在付き合っている彼氏彼女がいる者すら【マチコン】を受ける人間が多い。


そんな皆の様子とは裏腹に、どうして私はこんなに気分が乗らないのか、自分でも少し不思議だった。


「会ってみてから考えればいいじゃない。凜は考えすぎよ、私の見立てだと案外意気投合してすぐにくっついちゃうと見たわ


その時は私に任せなさい、凜には散々私とマサシのラブスト

ーリーを聞いてもらったからね、今度は私が聞く番よ


もしよかったら私達とダブルデートとか、面白そうじゃない⁉」


 私の【マチコン】なのに私以上にテンションが高い葵、もういつの間にかダブルデートの日取りとデート場所まで決められていた


このまま放置しておいたら、〈結婚式の友人代表〉と

か言い出しそうな勢いである。


「少し落ち着きなさい、どんな相手で何の話をしたかはちゃんと報告するから……」


「必ず報告しなさいよ、全て包み隠さずね、わかっているわよね、親友に隠し事とか絶対にダメだからね‼」


 何度も何度も念を押され、いい加減こちらもウンザリしてきた。


しかし葵は本当に私の事を思っての発言だし、悪気が無いのがわかっているだけに無下にできない辛さもある。


しかしこの時ふと思った、本当に迷惑な人間というのは〈悪気の無い人間〉ではないだろうか?


そもそも〈親友に隠し事は絶対にダメ〉と言っている葵は数分前に私の個人情報が漏れた件をどうにか誤魔化せないかと必死で考えていたはずだ


〈どの口が言っているのだろう?〉と思ったが、また険悪な雰囲気になるのも嫌なので、ここはあえてその件に関してはスルーである。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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