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新たな環境

刑が確定した私はそのまま刑務所へと移送された、収監先は【青梅刑務所】の女性刑務所


東京都の青梅市に近年建てられたばかりの新しい刑務所である


ここはいわゆる〈知能犯〉と呼ばれる人間が収監されている施設でここに投獄される人間はそれほど多くない為


他の刑務所に比べても建物自体はややこじんまりしていた。

 

私は子供の頃から伸ばしていた髪をバッサリと切りショートヘヤ―にされた


上下薄いグレーの繋ぎの様な囚人服を着せられ手錠をはめられたままこの施設の所長の前へと案内された。


「私は本施設の所長を務める伊藤忠彦という者だ、君が高垣凛か、話は聞いているよ


本日から君の囚人番号はAS―102番だ、まずは本刑務所での服役内容の説明から始めさせてもらおうか……」


この刑務所の所長と名乗る伊藤という男が腕を後ろで組んだまま淡々と説明を始めた


見た目細身だがガリガリという訳ではなく、鍛えられ引き締まった体といった感じであり見た目もかなり若い


まだ三十代半ばといったところだろうか?この年で新設された刑務所の所長を務めているのだからかなり有能な人間なのだろう。


「この刑務所で服役中、君はしばらくの間働いてもらう、だがそれは肉体労働的なモノではなく頭脳労働


つまり色々な企業や政府から依頼された情報システム関連の業務をおこなってもらう


平たく言えばシステムエンジニアという訳だ、そしてその成果の内容によって減刑される仕組みになっている


早い話が〈成果を出し続ければ刑期がドンドン短くなる〉という事だ

君は若いが非常に優秀と聞いているから期待している、ここまでで何か質問は?」


「いえ、特にありません……」


〈成果を出せば刑期が短くなるのだからやる気を持って頑張ってくれ〉と言いたいのだろうが


私に下された判決は〈懲役231年〉である。ちょっとやそっと短くなったところで意味があるとは思えないからそこについて触れる事はしなかった。


私が何も質問しなかった事にやや驚いた表情を見せた所長だがすぐに気を取り直し、説明を続けた。


「あと本刑務所ではいじめや虐待などを全面的に禁止している。


もちろん倫理的な問題もあるが、ここではチームを組んで作業に当たる事が多い為


仲間内でそんな問題を抱えていれば作業効率が悪くなるからだ。


だからそういった事態が起きない様、我々も常に注意を払っているしそんな事をやった者は厳重な処罰の対象となる


もしその様な被害を受けたらすぐに報告してくれ、そしていじめる側に回った場合はしかるべき処置で対応するから肝に銘じておいてくれ、以上だ」


 この短い伝達事項を聞いただけでこの伊藤という所長が切れ者であることがわかる


それと同時になぜ私が【死刑】にならなかったのか、その理由がようやくわかった


五人の女神達は〈有能な者は殺してしまうより死ぬまで使い潰した方が得〉という判断なのだろう、実にAIらしい合理的な考えだ。

 

説明を終えた伊藤所長はおもむろに机の上に置いてある呼び鈴を鳴らす、随分と前時代的な演出だ


〈チーン〉という乾いた音が室内に響くとドアから一人の女性が入ってきた


背は私より一回り大きく、横幅は私より二回り以上大きい。


だが太っているという感じではなく重量級の柔道選手のようにガッチリした体型をしている。


「はい、何でしょうか所長」


「佐藤くん、この人をグループの人達に案内してくれたまえ」


「了解しました、囚人AS―102をAグループに案内します」


佐藤と呼ばれたその女性は軽く頭を下げると私を連れて部屋を出た


囚人番号で呼ばれると自分が罪人であることをあらためて実感させられた……

 

私を引き連れ無言のまま二人で廊下を進み作業場へと向かう。


建物内は白で統一されており新設された建物のおかげか非常に清潔さを感じる


パソコン作業をする関係からか館内は空調も効いていて寒さも暑さも感じない


刑務所というともっと劣悪な環境をイメージしていただけに少し意外であった


ここは刑務所というよりどちらかというと研究所のような印象だ。


「一旦作業を中止しなさい、これから新入りを紹介する」


案内役の佐藤という女性はある部屋に入りパソコンで作業中の三人に声をかけた


言われた通りに手を止めこちらに視線を移す三人の受刑者


その人達はまるで私を物色する様な目でこちらを見てきた。


「こいつがナオミの後釜かい?随分と若いけれど大丈夫なのか」


一人の女性がいぶかしげな目で私を見詰めてそう言い放つ。


「囚人番号AS―102だ、これからこのグループとして君たちと一緒に作業をしてもらう、よく連携をとってやるように」


佐藤はその女性の質問には答えず、事務的な口調で端的に説明を済ませる


私はどうして良いのか分からず、口を閉じ、何となく軽く頭を下げた


先ほど質問してきた女性が少し不満そうな顔を見せたがそれ以上問いかけてくることはなく、そのまま自己紹介を始めた。


「私は囚人番号AS―95、刑期はあと五年だ。サチって呼ばれている」


サチと名乗ったその女性は年齢二十代後半といったところか。


茶色がかった髪に鋭い目つき、一昔前のヤンキーと呼ばれた人種の容姿に酷似している


先程の発言からもわかるように物事をはっきりと口にするタイプのようだ。


「わ、私は……囚人番号AS―89、け、刑期は後七年……エミです……」


二人目のエミと名乗った女性は上目遣いでどもりながらボソボソと小声で自己紹介をしてきた


年齢はサチと同じくらい二十代後半といったところか?


見た目は痩せていて色白、長めの黒髪が印章的だがどこかオドオドとしている、どうやらあまり喋るのが得意ではないらしい。


「私は囚人番号AS―63、刑期は後十二年、一応ここのリーダーをやらせてもらっている、アケミと呼んどくれ」


最後に自己紹介をしてきたのがアケミと名乗る女性、年齢は四十代半ばといったところか?


見た目普通のおばさんといったところだが、目つきが鋭く強い意志を感じる


リーダーをやっているというだけあって態度や言葉遣いが落ち着いていて貫禄の様なものを感じさせる。


 三人の自己紹介が一通り終わったところで再び佐藤が口を開いた。


「皆に伝えておく、今からこのチームのリーダーはこのAS―102にやってもらう、異論反論は認めない」


 相変わらず無感情な説明口調で事務的に伝える佐藤、だがその発言に驚いたのは私だけでなく、ここにいる全員がそうであった。


「ちょっと待てよ、何でリーダーがアケミじゃなくそのガキなんだ⁉︎そんなの納得できるか‼︎」

 

問答無用の決定に対し真っ先に立ち上がったのはサチ、激しい口調で反論すると佐藤を睨みつけ猛烈な勢いで食ってかかった。


「止しな、サチ」

 

興奮状態で激しく憤るサチを制したのは意外にもアケミであった。


「でもよ、アケミ、こんなの納得できるねーよ……」

 

憤懣やる方ないといった様子で言葉を飲み込むサチ。だがそんなサチとは裏腹に、アケミは静かな口調で佐藤に問いかけた。


「佐藤さん、異論反論は認めないとおっしゃいましたが、なんの説明も無いのでは私達も納得できませんよ


これから一緒に作業するという仲間同士に軋轢が生まれてもいいのですか?


それは伊藤所長の意図する事に反すると思うのですが?」


 アケミの鋭い指摘に鉄仮面の様だった佐藤の表情が一瞬強ばる


所長の名前を出されて正論で反論されたのでは流石に何の説明もなしとはいかないと悟ったのであろう


そしてその表情の変化を見逃さなかったアケミはニヤリと口元を緩め、再び語り始めた。


「別に私はリーダーに固執している訳じゃない、だがこのAチームというのはこの刑務所の中でも選りすぐりの精鋭だろ?


そのリーダーをやるということは〈この刑務所内で一番の腕を持っている〉という証明でもある


私も自分の腕にはそれなりに自信を持っているからね


それがいきなり現れたどこの馬の骨とも知れないお嬢ちゃんにリーダーの座を奪われたとあっては納得できないのもわかるだろう?これはプライドの問題だ」


 口調は穏やかだがその言葉には自信と誇りを感じる、そしてアケミは話を続けた。


「それにリーダーの実力によってそのチームの作業成果と実績は大きく変わる


受刑者である私達はその成果と実績いかんによって減刑される訳だからそのリーダーはチーム全員の人生を左右するといっても過言じゃない


そんな大事な役割であるリーダーの座を何の説明も無しに

こんな若いお嬢ちゃんに任せろと言われても納得できないのは当然だろう?


しかもシステム構築の途中で刑期を終えていきなりリーダーが抜けたらその後の作業に支障が出てしまう


このお嬢ちゃんが外でどんなことをやらかしたのかは知らないがリーダーを任せたはいいがニ、三年でいなくなられては困るんだ


その点私は刑期がまだ十二年も残っているしこの中では年長者だ


その点を考慮しても客観的に見て私の方がリーダーとして適任だとは思うのだけれどねえ」

 

含みのある言い方で佐藤の顔を伺うように言葉を投げかけるアケミ


しかし佐藤の方は相変わらずの無表情でその疑問に答えた。


「実力云々の件ならば問題ない、このAS―102の技術と知識は間違いなくこの中で№1だ


それにリーダーとして刑期が短いとその後の作業に支障が出るとの事だがその点は心配無用だ


なぜならばこのAS―102の刑期は231年だ」


 その言葉を聞いた瞬間、アケミを始め三人は目を丸くし、驚きを隠せない様子を見せた。


「ちょ、ちょっと待てよ、懲役231年って……何じゃそりゃ⁉︎一体何をやればそんな馬鹿な刑期になるんだよ‼︎」


「に、日本の……ほ、法律で……そ、そんな事が……有り得るの?……」


「一体、このお嬢ちゃんは、何をやったというのだい⁉︎」

 

最初は疑心の目で私を見ていた三人だったが今では興味津々といった好奇の目でこちらを見ている。


「このAS―102は、知人のUSDを使ってファントムシステムを構築しそれを使って


日本の誇るスーパーAIコンピューター【アウクソー】に対してハッキングをしかけ


その中のデータを盗み出して世界中に公表した、よって【懲役231年】という判決が出たというわけだ」

 

藤の説明を聞いていた三人はしばらく呆然としていたが、その沈黙を破るようにいきなりアケミが大きな声で笑い始めたのである。


「わっはっはっは、そりゃあいいねえ、あのすました女神様のスキャンダルをすっぱ抜いてスクープとして世間様にばら撒いたというのかい


こりゃあ傑作だ、なるほど腕は相当のモノの様だねえ、いくら私でもあの女神様を秘密をハッキングしようなんて考えもしなかったからね、ハハハハハ」


 急に上機嫌で笑い続けるアケミ。そして次の瞬間、今度はサチが私の方を指さして〈あっ⁉︎〉と叫んだ。


「髪型が違っているので最初はわかんなかったけど、アンタもしかして高垣凛じゃねーの⁉︎」


 いきなり正体がバレた、別に隠すつもりはなかったがこういった形で身バレするとどういう対応をしていいのか正直困ってしまう。


「何だい、サチ、このお嬢ちゃんの事を知っているのかい?」


 アケミの問いかけにサチは大きく頷いた。


「ああ、よく知っているよ、私は学生時代【KOEG】の静岡予選でベスト8まで残った事が自慢でさ


その後の大会もよく見ていたんだ。この高垣凛って女は全国の猛者どもを相手に中学二年生の身でいきなり準優勝したとんでもない女さ


【日暮里の電脳姫】とか呼ばれていてその後も四年連続で全国大会準優勝という華々しい成績を収めている


ここにぶち込まれてしまったから今年の大会結果は知らないけれど…」


 サチが不思議そうな目でジッとこちらを見ている。すると今度はエミが目を丸くしながら口を開いた。


「も、もしかして……た、高垣凛……って、ふぁ、ファントムシステムの……き、基礎理論を……こ、構築した天才少女って……ゆ、有名になった、あの?」


 こんな場で自分のプロフィールを晒される事はむしろ恥辱に思えた


私は思わず目を伏せ皆から視線を逸らす。だがそんな私に対して空気を読んでくれないサチが素朴な疑問をぶつけてきたのである。


「でも、アンタみたいな超エリートがどうしてそんな馬鹿な事をしたんだよ?」


答えられなかった。恥ずかしいと思っているわけではないのだが口に出して、言葉にする事が嫌だったのだ。


「止しな、サチ」

 

そんな私に助け舟を出してくれたのは意外にもアケミだった。


「どうしてだよ、気になるだろう?」

 

サチが食い下がるがアケミは小さく息を吐いた。


「人間言いたくない事だってあるさ、特にこんなところに来る女は……」


「でも今から仲間として働くのだから、事情ぐらい説明してくれてもいいじゃねーか、事細かに話せとは言わないけど……」

 

サチは私が事情を話さないことにやや不満げな表情を見せた


気になったらそのまま聞いてしまうという人間はどこにでもいるし特に女性に多い、このサチという人もそうなのだろう。


「言いたがらない奴にしつこく聞いているんじゃないよ、サチ。女が身を持ち崩す理由なんて一つしかないだろ……察してやりな」

 

それを聞いて何かに気づいたサチはそれ以来何も言わなくなった


私的にもアケミの言葉にはどこか釈然としなかったが、目くじら立てて否定するほど違っているわけではない


実際に蓮の事でブチギレて大罪を犯したのだからあながち間違ってはいないからだ。


「そういう訳だから、今からAS―102をリーダーとして作業に戻れ、これから引き継ぎやチーム活動が円滑に行くように貴方が調整しなさい」


 佐藤は相変わらずの無感情のままアケミに伝える。


「わかったよ、で、その〈チームを円滑に〉ってやつも、私の減刑ポイントに加えてくれるんだろうね?」


「所長には伝えておく」


「よろしく頼むよ、佐藤さん」


事務的な口調で淡々と答える佐藤にどこか含みを持たせた皮肉めいた言い回しで話しかけるアケミ、この言い回しは少し蓮を彷彿とさせた。

 

佐藤がいなくなりいきなり三人での作業をすることとなった私はとりあえず自己紹介をする。


「高垣凛です、よろしくお願いします」

 

再び軽く頭を下げ名乗るとアケミが小さく頷き、すぐさま説明に入った。


「私らの自己紹介は済んだから早速仕事の話に移るよ、今依頼されているのは日本政府からの依頼で……」

 

意外だった、伊藤所長から聞いてはいたが本当に日本政府からの依頼であった


アケミの説明もわかりやすくこの人たちが非常にレベルの高い技術を持っていることがわかる


クライアントがどこであれ、我々は依頼主の要望でシステムを組むという作業をするだけだ


私が罪を犯さず社会に出ていたとしてもおそらくシステムエンジニアとして同じような仕事をしていたであろうから特に違和感や不満はなかった。



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