決着、そして…
私が【アウクソー】に対してハッキングを開始してから三十分が過ぎたが中々目的のファイルまでは到達できない
アングラサイトの掲示板も開いてそちらの経過も見守ってはいるが、どうやらそちらの方でもまだ誰も辿り着いてはいない様だ
今回の目的は【サイバーテクノロジー社】の陰謀を暴くというモノなので、別に私自身がそれを行わなくとも良いと考えていた
ぶっちゃけ私以外の誰がやってくれても良いのだ。
そんな時である、私の背中に何か突然寒気のような悪寒が走った。
「来た……」
明確に何かが示された訳ではない。だがモニター越しに確かに感じたのである。奴らが来た……
女神【アウクソー】を守る白き騎士達、そう【ホワイトナイト】である。
「ハッキングを開始してからまだ三十分しか経っていないのに……予想よりも早い⁉︎」
おそらく彼らは非常事態の緊急連絡を受け、会社ではなく自宅からパソコンを繋げているのだろう
正直ここまで早い対応は想定外である。私は焦る気持ちを抑えつつ【アウクソー】攻略に全力を傾けた。
それから五分が過ぎた頃、アングラサイトの掲示板にも異変に気づいた人がポツポツと現れ始める。
〈なんか変じゃね?〉
〈急に相手側の抵抗が強くなったような……〉
〈【サイバーテクノロジー社】が飼っている例の番犬どもが来たんじゃね?〉
〈【ホワイトナイト】といかいういけ好かないホワイトハッカーどもか⁉︎〉
〈いやいや、いくら何でも早過ぎるだろ、気のせいだって〉
〈しかし現にこちらの攻撃が防がれ始めている、この抵抗は人為的なモノだろう〉
〈ヤベっ、パクられる前に俺バックレるわ、じゃあ……〉
最初は勢いとノリで参加し私と共に猛攻撃を加えていた連中だが、いざ形勢が傾き始めるとさっさと逃げ出す者が出始めた
元々が希薄な繋がりしかなく強い信念とか決意とかとは無縁の連中なのでこれは致し方がない
逃げる連中を引き止めるという無駄な行為に時間を費やす余裕はないのだ。
状況は刻一刻と変化を告げている。思ったよりも早く【ホワイトナイト】達が現れたのは想定外だった
事態はあまり好ましくない方向へと進んでいるが深刻な状況になれば逃げ出す連中が相当数出るのは想定済みだ
それでも掲示板を見ていると約半分は残っている様である
正直これは嬉しい誤算であった。この犯罪者予備軍の様な連中に親近感と感謝を覚える時が来るとは思いもしなかった。
「あった、多分これだ‼︎」
ハッキングを開始してから四十五分が過ぎた頃、ようやく私はそれらしきファイルを見つけたのだ
胸は高鳴りアドレナリンが体内を駆け巡る。体温が上昇しているような錯覚さえ覚えたが
頭はあくまでも冷静に、的確に、焦らずに作戦を遂行するのみだ、自分にそう言い聞かせ、はやる気持ちを抑えながら【アウクソー】の深い部分へと侵入していく。
「よし、見つけた‼︎これをFTP〈ファイル トランス プロトコルの略、離れたパソコンからファイルをコピーする仕組み〉
でファイルごと送るようにSQLインジェクションをかけて……」
*【SQLインジェクション】セキュリティの不備を利用してデータベースに対し不正な命令を実行させる攻撃法
喜びも束の間、アングラサイトの掲示板が突然騒ぎ出したのである。
〈やべーよ、見つかった⁉︎〉
〈急いで撤退、逃げ遅れたらゴートゥー刑務所〉
〈めちゃくちゃ早い、やっぱりすげーよ【ホワイトナイト】〉
【ホワイトナイト】達はもう我々を特定し各人の検挙に動き始めたようだ
私もいくつもの海外サーバーを経由しこの場所を特定しにくくしているものの
彼らにかかれば時間稼ぎにしかならない。もう数分後にはここに警察が押し寄せてくるだろう
その前にファイルをコピーし奴らの悪事を全世界のマスコミに対してばら撒いてやることができるか?という勝負である。
今、データのダウンロードを始めたところだ、全てをダウンロードし終わるまで時間にしてみれば数分のことだろうが今日に限ってはやけに長く感じる。
物静かな深夜の住宅街に甲高い警察のサイレンが鳴り響き、どんどんこちらに近づいてくる、もう一刻の猶予も無い。
しかしまず初めは警察のドローンによる接触だろうから対応は可能だ
そいつらにはウイルスによる不正プログラムを送り込んでやれば勝手に誤作動を起こしかなりの時間は稼げるだろう
こういった事態も想定し警察ドローンの管理システムはすでに掌握済みだ
だが問題はその後なのである。急行してくるドローンを退けたとしてもその後で押し寄せてくる生身の人間
つまり警察官か軍の人間に対しては打つ手がないのである。
「まだなの⁉」
目的のファイルのダウンロードのゲージが中々上がらず、パーセンテージはようやく50%を越えたあたりである
気持ちだけが焦るがこの時点で私が出来る事は何もない
ダウンロードが終わるのをただジッと待っている事しかできないのだ。
警察のサイレンが自宅前まで迫って来たので私はドローンの管理システムに仕込んだ不正プログラムを起動させる
すると次の瞬間、外で〈ガシャーン〉という激しい衝突音がいくつも聞こえてきた、どうやら上手くいった様子である
夜中とはいえこれ程の騒ぎになるとさすがに近所の住民も気づき始め〈何だ、何だ?〉と外に出てきてにわかに騒ぎ始める
下の階からも声が聞こえてきて、どうやらウチの両親も起きてきたようである。
「もう少し、もう少しよ……」
私はダウンロードのゲージを祈る様な思いで見つめている。今やっと70%を越えたところだ
だがっその瞬間、下の階で玄関のドアを激しく叩く音が聞こえてきた。
「もう来た、無駄に優秀ね、日本の警察は‼」
思わず悪態交じりの言葉を吐くがここに乗り込まれたら私にはどうする事も出来ないのだ。
〈何ですか、あなた方は⁉土足でずけずけと家に上がってきて、警察を呼びますよ‼〉
ヒステリックに叫ぶママの声が聞こえてくる、その入ってきた人達が警察かそれに準ずる人間だという事を知らないのだろう
両親に事情を説明する事も無く強硬的に家に入ってきたところを見ると
どうやら問答無用といった感じで話し合いによる時間稼ぎは出来そうにない
そして結構な人数が要る様だ。女子高生一人に随分と物々しいとは思うが私がやっている事を思えば致し方が無いだろう
ドアの外からドカドカと階段を駆け上がって来る音が聞こえてくる
一応部屋の鍵はかけてあるがこんな物、向こうがその気になれば一分も持たないだろう
ダウンロードのゲージはまだ85%を越えた辺りだ。
〈ドンドン〉という部屋のドアを激しく叩く音がして外の人間がドアノブをガチャガチャと回すが鍵がかかっていてとりあえずは侵入を防いでくれた。
「開けなさい、中にいる事はわかっているんだ‼」
相手は交渉のテーブルに着く様子は微塵もなく、もう〈待った無し〉といった感じである
ダウンロードのゲージはようやく90%を越えた、どうにか時間を稼がないと……
「ちょっと待って、今、着替えているんだから……」
苦し紛れの言葉だが、これしか思いつかなかった、しかしそんな私の言葉を素直に聞いてくれるほど人のいい集団ではない様だ。
「早く開けなさい、さもなくば強行突入するぞ‼」
最後通告というヤツだろうか、さすがに女子高生の部屋のドアをぶち破って入るのは少し抵抗がある様だ
だがその躊躇も何秒持つか?という雰囲気だ。
「ちょっと待って、って言っているじゃない、今着替えているんだから、入ってきたらセクハラで訴えるわよ‼」
国家反逆罪を犯している私が捕まえに来た側をセクハラで訴えると言っているのだから支離滅裂である
もちろんそんな理屈が通る訳がない、ドアの向こうで男の話声が聞こえてくる。
〈仕方がない、強行突破だ〉
その直後、ドカンという衝撃音と共にドアのノブを止めているネジが吹き飛ぶ、もうドアの鍵も持たない
私は息を飲みながらモニターに視線を移すとダウンロードは98%と示されていた。長い、この数秒間がまるで悠久の時のように感じる
胸の鼓動は早くなりやたらと喉が渇く、お願いだから早く終わって……
次の衝撃音と共に部屋のドアノブがボトリと落下し、とうとう部屋の中に数人の男達が入って来た
全員が迷彩服を着て手には自動小銃を構えている、完全に【対テロリスト】用の特殊部隊だ
だがその瞬間、モニターには〈100% ダウンロード完了〉の文字が映し出されていた
私は用意してあった各送り先にそのファイルを素早く転送する、数人の男達に銃口を向けられ
「動くな‼」
という警告の言葉を浴びせられるが、私はホッと胸をなでおろし、思わず微笑んだ。
「一歩遅かったようね、今全世界のマスコミに向けてファイルを送ったわ、私の勝ちよ」
勝ち誇る私の言葉を無視する様に数人の男達が私に近づいて来て私の体を床に組み伏せた
腕を後ろにねじり上げられ、顔を床に押し付けられるように抑え込まれた。
「ちょっと、痛いじゃない、もっと優しく扱いなさいよ‼」
だがそんな訴えは当然無視される、後ろに回された手に手錠を掛けられ、身動き取れない私に向かって一人の男が言い放った。
「高垣凛だな、内乱罪及び国際法違反で身柄を拘束する」
私は床に組み伏せられながら土足で次々と部屋に入って来る男達を見ていた
その男達は用意してきた段ボールに次々と物を入れていく。
よどみない作業に手慣れた手つき、こういった場面になれているのか明らかに訓練を受けた動きである
パソコン周辺機器も次々と運ばれていき、一人の男が蓮のファントムが入ったパソコンに手を付けようとした瞬間、私の中で何かが弾けた。
「それに触るな‼」
無抵抗だった私が突然叫んだので周りの男達は少し驚いた様子だったが、すぐに何事も無かったかのように作業を始める。
「触るなって、言っているじゃない、止めてよ‼」
ありったけの声で叫びながらもがく様に激しく抵抗するが、屈強な男達に組み伏せられていてビクともしない
そんな自分の無力さに涙が出てくるが、特殊な訓練を受け鍛え抜かれた男性と一介の女子高生では比較にならない事は明白である
しかし私は暴れた、無駄な抵抗とわかっていてもそうする事しかできなかった……
蓮のファントムが入っているパソコンは全てのケーブルが抜かれ電源ランプが消えた
アビゲイルやマリーも同時に回収され段ボールの中に納められる
対象外だと判断された例のウサギのぬいぐるみがいつの間にか床に落ちていて
搬出作業をする男達に無造作に踏みつけられていた
私は声にならない叫び声を上げるがそれでどうなる訳でも無く、私の戦争はここで幕を閉じたのである。
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