復讐計画
翌日の朝、ふと目を覚ましムクリと起き上がると体の節々が痛い
どうやら昨夜あのまま泣き寝入りしてしまった様だ。床に床に転がっているウサギのぬいぐるみが視界に入ってきて
昨日の出来事が夢でなかった事を証明している、現実に引き戻され朝からブルーな気持ちになるが
日常の時間というのは待ってはくれない、もう学校に行く準備をしなければいけない時間だ……
でも何も気力がわかない、何をすればいいのか、これからどうするのか
頭の中でそんな答えの出ない自問自答を繰り返す、何の気なしにふとぬいぐるみと共に送られてきたプリクラに視線を移す
保存した画像で何度も見たはずの写真だったが、現物の写真を見ると再び昨日の感情がぶり返してくる
ここでまた泣いても何も進めないと思った私は、必死で感情を抑え今度は蓮の支援AI【アビゲイル】の方へと視線を移したが
その時、そのAIが梱包されていた箱の中に何かを見つけた。
何だろうと手に取ってみてみると、それはUSDであった、おそらく蓮の物だろう。
自分の相棒【アビゲイル】と共にUSDも送ってきた様である
この二つはいわば自分の分身の様なモノであり、せめてそれを私に託したかったという事だろう
そんな蓮の意図を知ってしまうと余計に感情が揺さぶられ思わず唇を噛みしめた
だがその瞬間、私の頭に稲妻の様な衝撃が走った。〈分身〉というワードが強烈に引っ掛かったのだ。
「止めなさい、何を考えているのよ、私は……」
自分で自分を言い聞かせる様に呟いた。今の今まで悲しみだけが支配していた心私の心に、ドス黒い感情が溢れてくる
〈私達のあの戦いを汚し、蓮を殺した奴らを絶対に許せない‼〉
という憎悪の感情だ。だがあの結城蓮でさえ【アウクソー】の秘密をハッキングして
世間に公表するという事を試みて失敗したのだ、私が挑んだところで結果は同じだろう……
だが、二人なら……そう、私が考えているのは蓮のUSDを使って〈蓮のファントム〉を作るという事だった
だが【ファントムシステム】は人間のクローン技術と同じく国際法で禁止されている
それほどにヤバい秘密だからこそそれを知った蓮は抹殺されてしまったのだ
そして日本政府の誇る五体の女神の一人【アウクソー】にハッキングを仕掛けるという事は
刑法の【内乱罪】に相当する、これは言い換えると【国家反逆罪】に相当する
いくら私が未成年だとはいえ国際法を破り国家反逆罪を犯せば間違いなく死刑だろう。
もし【サイバーテクノロジー社】の陰謀を暴き、ハッキングと世間への暴露が成功したとしても
その後は確実に見つかる。つまり必ず極刑に処されるという事だ
こんなに割に合わない所業は無い。これからどうするべきかなど考えるまでも無い
これ程のリスクを背負う事がわかっていて実行するのはもはや狂人の域である……
だが心の中に湧き上がる衝動は抑えられなかった、私の理性が〈止めろ、止めろ〉と何度も忠告しているが
それと同時に蓮のUSDを使ってどうやって【ファントムシステム】を構築するか
という理論を頭が勝手に始めていた。理性と感情、相容れぬ思いがぶつかり合い
心の中で激しくせめぎ合うが私自身、どちらを選択するのかは最初からわかっていた
そう、私は気が短く負けず嫌いなのだ。
私はその日から学校に登校する事を止めた。現在の学校では年間80日間の自宅でのリモート授業参加出席が認められており
私は今まで二日しか消化していなかったのであと78日は自宅でのリモート出席が可能なのだ
だがもちろん授業など受ける気など無い。授業を受けるフリをして
その間に【アウクソー】攻略法と蓮の【ファントム】を制作する事に専念する為だ
当然授業に遅れ勉学はおろそかになるが、そもそも大罪人として捕まれば卒業できないし就職する事も無いので
授業についていけなくなっても何の問題も無い。無断欠席や退学などしてしまうとさすがに
【アウクソー】や【サイバーテクノロジー社】に目を付けられるかも……という懸念から
周りに悟らせない様にこの措置をとったに過ぎない。だが葵にだけは一言告げておこう
理由は〈相手の男に振られたショックでしばらく学校には行かない〉とでもでっち上げて伝えよう
万が一にも葵を巻き込む訳にはいかない、多分葵にはもう会えないだろう
私の唯一の友達、中学時代からの親友である葵に何の相談も無く
勝手に暴走して勝手に逮捕されて勝手に死刑になったら、葵は怒るだろうな……ゴメンね。
私は早速、蓮の【ファントム】用になるべく高性能なパソコンを購入し、自分のパソコンも買い替えた
今までの【KOEG】で獲得した賞金と両親が私の嫁入りの為に貯金してくれていたお金をこっそりと拝借し
その全てを投入した、何という親不孝な娘だろう……
それと同時に私のサポートAIである【マリー】にも手を加えた
一年前の【KOEG】団体戦で〈ホワイトナイト〉に完膚なきまで叩きのめされてそれ以来いじってはいないのだが
リベンジの為に蓮が改良を加えていた【アビゲイル】を参考に【マリー】を高性能化しバージョンアップさせる
今回は時間もお金も十分にある、それをたっぷりつぎ込んで全能の女神【アウクソー】に挑むのだ
もはや私は復讐の為だけに生きる鬼と化していた、それからというもの私は寝食を忘れて【アウクソー】攻略の為に全てを投じた。
学校にも行かず自室に引きこもってから一か月が過ぎた
両親はさすがに心配になって来たのか、ちょくちょく〈大丈夫なの?〉という質問が来るようになったが
〈研究したいことがあって論文を作成中だ〉と答えるとそれ以上は追及しては来なかった
自宅からのリモートでの授業参加は学校でも認められておりちゃんとオンラインでは授業を受けている為
学校側からも特に何も言われることは無く両親もそこまで強くは言ってこなかった
中学の時【ファントムシステム】の論文を書いた時も一週間ほど学校に行かずに夢中で論文を作成していたので
そこまで深刻な事だとは思わないのだろう。まさか自分の娘がその【ファントムシステム】を組んでいるとも知らずに……
私は【アウクソー】攻略の為に粛々と計画を遂行していく
まず手始めに行ったのは【APTアタック】と呼ばれるモノだ
APTとは〈Advanced Persistent Threat〉の略でありサイバー攻撃の種類のうちの一つだ。
〈高度で執拗な脅威〉という意味があるこの攻撃は長期間にわたりターゲットを分析して侵入
潜伏し攻撃する緻密なハッキング手法であり、【標的型攻撃】とも呼ばれている。
【IOT化】〈Internet of Thingsの略、車や家電製品など色々な物をインターネットに接続する技術の事〉
が進んでいる現代では完璧なセキュリティを組むことはほぼ不可能であり
必ずどこかに【セキュリティホール】〈コンピューターの欠陥、脆弱性〉が存在する
特に【アウクソー】を含む五人の女神達はこの世のありとあらゆる物に繋がっており
侵入手段や攻略法はかなり豊富にある。私は標的である【アウクソー】に対して
マルウェア〈悪意のあるプログラム〉による〈バックドア不正プログラム〉を送り込み
〈辞書攻撃〉と言われる【パスワードクラック】を仕掛け、来るべき決戦の日に備えて着々と準備を整えていった。
不登校を始めてから二か月以上が過ぎた、リモートによるオンライン授業の限度日数を越えてしまったがもちろん登校する気などさらさらない
学校側からも私の様子を伺う為の問い合わせが来たりしているようだが、私にとってはそんな事はどうでも良かった。
そんな日が続き両親の心配も日に日に大きくなる
〈このままじゃ、留年しちゃうわよ‼〉と注意されたが、そもそも卒業する気も無いので気にも留めない
ただ毎日のように連絡をくれる葵の言葉に心苦しく思ったが止める訳にはいかない、もう引き返せないのだ……
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