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消えた蓮

「まだ彼からの連絡はないの?」


「うん……」


蓮とのデートから一週間が過ぎた、しかしあれ以来彼からの連絡はない


最初はワクワクして待っていたのだが、この頃になると〈自分のやったことを考えれば来ないのが当然〉


と思い始めてきて、激しい自己嫌悪とともに落ち込む日々が続いていた。


「あれ、おっかしいなあ、すぐに連絡来ると思ったのだけれど……」


葵は頭をかきながら首を傾げていた。


「やっぱり私の事……」


考えれば考えるほど落ち込んでしまう。今更ここまで落ち込むぐらいならば最初からちゃんと対応しておけよ‼


というごもっともな言葉が私の頭を駆け巡る。本当に今更である。


「しかし凛って、本当にわかりやすいわね、男の事でここまで落ち込むとか……


それに少し痩せたんじゃない、ちゃんと食べている?」


「うん、最近少し食欲がなくて……」


「ダメよ‼男はね、スレンダーなモデル体型より少しぐらいふくよかな女性を好むの


食欲はなくとも体型維持のためのサプリは飲んでおきなさい


彼と会った時にガリガリの骨女とかになっていたら本当に嫌われちゃうわよ」


「本当も何も、もう嫌われていたらどうしようもないじゃない……」


ネガティブなことばかりが頭に浮かぶ。私は今まで異性のことで一喜一憂している他の人達の事を


馬鹿な連中と冷ややかな目で見ていたのに、いざ自分の事となるとまさかこんなにウジウジしてしまうとは


まるで想像もしていなかった。


「凛、前も言ったけれど諦めちゃダメよ、このまま何もしないで後悔するより自分から動いて道を切り開くの


果報は寝ていてもやってこないわ、自らの手で勝ち取りなさい‼︎」


精一杯の助言とエールを送ってくれる葵、言っている内容に疑問符が付く点はままあるが、それも含めて今の私には有り難かった。

 

「うん、わかった……でも、それでもダメだったら……」

 

「今からダメになった時の事を考えてどうするのよ、あと三日、あと三日待っても連絡が来なかったら自分から連絡するのよ、いいわね⁉︎」


「うん……そうする……」


こうして私は蓮からの連絡を待ったのだが、それから三日間経っても、彼から連絡が来る事はなかった。



その日は学校が終わると急いで家路へ向かう。今日一日、授業の内容などまるで頭に入ってこなかったが


そんな事は今の私にはどうでもよかった。自宅へたどり着くと勢いよく玄関の扉を開け、乱暴に靴を脱ぎ捨て二階の自室へと急いで駆け上がった。


部屋に入ると下からママの声で〈何ですか、年頃の娘がはしたない‼︎〉


という注意が聞こえてきたが今の私はそんな事にかまっている余裕は微塵もない。


制服を着替えることもなく机に座ると急いでパソコンのスイッチを入れブックマークに登録してある


【マチコン】のホームページへのボタンをクリック、蓮へのアクセスを試みた。


【マチコン】で一度マッチングされた相手はどちらか一方が拒絶しない限りこのホームページからアクセスが可能になっている


もちろん個人アドレスを知っていればここから繋ぐ必要はないのだが多分


〈アドレスを教えるほどではないけれど、関係を切ってしまうのはどうか……〉


という人たちのための救済措置みたいなものなのだろう。


製作側の本意や意図はわからないが私にとっては凄くありがたい機能だ。


彼へとつながるまでの間、私はドキドキしながら待っていた。


葵に言われた通りにしたものの、いざこちらからアクセスして繋がった場合、一体何を話せばいいのか?


今日一日、いやここ数日そんなことばかり考えていたのだが明確な答えの出ないまま今日という日を迎えてしまったのだ


この件に関しては葵も〈そんなの自分で考えなさい‼︎〉と助けてはくれなかった。


〈他人から教えられた言葉をなぞるより自分の思ったことを言葉にしなさい、そういうのが相手に伝わるのよ〉


というド正論で返され、それ以上は何も言えなかった。


でもこういう助言は本当に嬉しい、今まで意識すらしたことがなかったが友達という存在がどれほど有り難いモノか改めて感じた、ありがとう葵……


だが目の前のモニターに現れた表示はそんな私の思惑を打ち砕くものであった。


「何よ、これ……」


【マチコン】のホームページからアクセスしたその結果は


〈該当する人物は存在しません〉というモノだった。


もし相手が拒絶していたならば〈先方が貴方からのアクセスをお受けできないと回答がありました〉


という表示があるはずだ。私は自分の個人IDと蓮と会った日にちを再度入力し改めてアクセスを試みるが結果は同じだった。


【マチコン】にてマッチングされた記録は一ヶ月の間、政府の巨大サーバーに保管される


当人が望むなら記念としてその時のデート映像をダウンロードすることも可能なのだ


しかし帰ってきた答えは〈該当する人物は存在しません〉という意味不明な返事


私と蓮が過ごしたあの時間を〈そんなモノは無かった〉というのである


急いで運営側に問い合わせてみるが結果は同じであった


〈個人ID、もしくは日にちをお間違えなのでは?〉という通り一辺の言葉が返ってくるだけだった


だんだん腹が立ってきた私は別の手段で蓮へのアクセスを試みる


フェイスバックやトイッターなどの各種SNSなどにも繋げてみたがダメだった


繋がらないというよりそれらのアカウント自体が消滅していたのだ、何だ、これ……


もしかしたらもう私に会いたくないから逃げたのだろうか?という考えが少し頭をよぎったが


それにしてはあまりにもやる事が大袈裟である。これは蓮自身が雲隠れしてしまったというよりは


まるで蓮が神隠しにでもあっていなくなってしまったかの様な錯覚すら覚えた


私はさらに別の手段で蓮へのアクセスを試みたがどれもダメだったので仕方がなく蓮の通う学校に問い合わせてみる事にした


蓮は両親を事故で亡くし、その時の保険金で一人暮らしをしていると聞いている


私は蓮の親戚のIDを偽造し学校に問い合わせのメールを送った。


〈普通科三年生、結城蓮の親戚の者ですがこのところ連絡が取れません、ちゃんと学校へは通っているのでしょうか?〉


という当たり障りの無い内容だ。これなら学校に通っているかどうかの確認だけなので


〈アクセスしたIDが偽造か本物かを詳しく調べることもないだろう〉という意図もあり


それほど問題にはならないだろうと考えたからだ。思惑通り学校側からはすぐに返事が来た


だがその内容は我が目を疑うモノであった。


〈本校に在学していた普通科三年生 結城蓮君は先週自主退学しております〉という返答であった


三年生のこの時期に自主退学する理由などまるで思いつかない


だがこれで蓮へのアクセス手段は完全に途絶えてしまった


その時、私は何か嫌な予感がしてすぐさま【KOEG】の公式ホームページを開いた


トップページには【大会のルール】や【出場規定】、【開催日時】や【開催場所】といった案内が載っているのだが


そこには今まであったはずの項目が消えていた。それは【過去大会の成績】という項目だ。


この五年間は結城蓮が〈前人未到の五連覇〉という偉業を成し遂げており


その事をこのホームページでも大々的に掲げていたのであるがその記録自体も綺麗さっぱり消えているのである


まるで結城蓮という存在がこの世界から抹消されてしまったかのような現実、何だこれは……一体何が起こっている⁉︎


わからない、まるでわからない……だが、蓮の身に何かとんでもない事が起こっている事は確かだ


嫌な胸騒ぎが止まらない。思い返してみると私がデートの最後に〈また私を誘いなさいよ〉と言った時の蓮の笑顔は何か不自然だった


まるで自分が消えてしまう事をわかっていたかのような不思議な笑顔……


考えすぎかとも思うが、まさか蓮自身この事態を予期していた⁉︎でもなぜ……


いくら考えてもわからない。蓮への別のアクセス手段がないか再び探ってみたが結果は同じであった


私は遠方にくれ思わず天井を見上げる。


「どこに行ったのよ、蓮……」


その時、私の頭に稲妻のような衝撃が走った。


「そうだ、蓮はあの時【メルオク】で服を落札したと言っていた。


ならば【メルオク】用のアカウントがあるじゃない‼︎」


私は藁にもすがる思いで【メルオク】のページへと繋ぎ〈結城蓮〉という名前を検索するが該当者は見つからなかった


おそらく本名ではなくハンドルネームを使用しているのだろう


考えてみればここまでの流れを考慮すれば本名で登録していた場合


ここでも〈垢BAN〉を食らっているはずだ。だがどうやって蓮のハンドルネームを見つける?


闇雲に探したところで見つかるはずもない。それは大海原で一枚の木の葉を見つける様なモノだ


しかし諦めきれない私は思いつく限りのネームを入力してみたが結果は予想通り、見つからなかった。


「教えてよ、蓮……どんな名前をつけたのよ……」


デートで撮ったプリクラの画像を見ながらその中の蓮に問いかけた


写真の中で笑っている彼を見ているとなぜか涙が出てくる


涙で薄ぼけた視界の中である文字が目に止まった


それはプリクラ撮影の際に蓮が入力した謎の文字〈W12L11〉という暗号のような文字列


暗号?もしかしてこれは私に伝えるための……


考えすぎかとは思ったが何せ他に手がかりがない以上、可能性が1%でもあるのならそこに賭けてみたい


そんな思いが私を突き動かした。考えろ、蓮が私に何を伝えたかったのか⁉︎


〈W12L11〉これは何だろう……何かサイズか?それともパスワード、何かのIDか、どこかの住所、それともホームページのアドレス……


いくら考えてもわからない。そうしている内にだんだん自分の非力さに腹が立ってくる


もう一度プリクラの画像を見てみると笑っている蓮の横で仏頂面の私がいた


【モグラ叩き】で負け、クレーンゲームでお金を使い果たして不機嫌になっている時の表情だ


今思えば馬鹿じゃないのか?とさえ思える。人の気も知らないで何を仏頂面しているのよ‼︎


と過去の自分に立腹するという不毛で愚かな行き場のない感情をぶつけていた。その瞬間、あることに気がつく。


「もしかしてこれって Winner12ポイント Loser11ポイントってことじゃないの⁉︎」


12対11、そう、私と蓮の〈モグラ叩きの〉の結果だ。さりげなくこういった事を混ぜてくるのはいかにも蓮らしい


だがそれがわかったところで謎が解けたわけではない。少し嬉しさもあったがガッカリ感の方が強かった


私はダメ元で【モグラ叩き】というハンドルネームで検索したがやはり〈該当なし〉という結果に終わった


やっぱりという言葉が胸に渦巻く。どうせならば、と〈モグラ叩き〉の英語訳、〈Whac–A–Moie〉と入れてみた


すると一件ヒットしたのである。意外な結果に私は興奮し驚きとともに胸が高鳴る


その人物が出品していたのは【KOEG】の競技用デバイスであるサポートAIだ


しかしそれは三世代も前の型であり今時誰も使わない古い代物


しかもそれが定価に近い価格で出品されていたのだ。


現在の相場では定価の十分の一でも買い手がつくかどうか怪しい骨董品


今ではパーツ用のジャンク品か、お金のない初心者が取りあえず練習用で使ってみるぐらいの価値しかない


だからこそますます怪しく感じる、蓮の匂いがプンプンする。私はその商品を落札するためにボタンをクリックする


モニターに〈落札、ありがとうございました、お届けは三時間後になります〉


という文字と音声アナウンスが流れ、ようやく一息つき肩の力が抜けた私はそのまま椅子の背もたれに体を預けた。


 


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