覚悟と決意
厳密にいえば蓮の正体は誤魔化しているけれど、それはまた別腹である。
「実は……」
私は先日のデートの詳細を葵に話した、もちろん蓮の正体だけは隠してである
強引に誘われ渋々付き合ったゲームセンターが思いの外面白かった事
罰ゲームが嫌で泣いてしまい、彼が謝りながら抱きしめてくれた事
卓球をしてすごく盛り上がった事。綺麗な景色の丘でお茶をしながら彼と話した時に
些細な事で私が怒って帰ろうとした際、彼は私を引き止めるためにキスされた事など
包み隠さず話した。その話を聞いた直後の葵の反応は口をあんぐりさせ驚きと呆れで言葉を失い
文字通り〈空いた口が塞がらない〉といった様子であった。
「何やっているの、凛?」
「何って……どういうことよ?」
「相手の男は最高にいい奴じゃん、優しいし、男らしいし、まあ強引にキスした事をドラマティックととるか
やりすぎのセクハラととるかは別としても概ねかなりの優良物件であることは確かじゃん
しかもかなりのイケメンなのでしょう?」
「うん、まあね……」
「それに比べてアンタは何をやっているのよ、二人で取り決めた罰ゲームが嫌で突然泣き出すとか
ブチギレて帰ろうとするとか、どうせ喧嘩だって凛の短気が原因でしょう?
そういうのを世間一般では逆ギレって言うのよ。恋愛マスターの私の見立てでは相手の彼には90点はあげていいけれど
凛、アンタは0点よ。友達として贔屓目に見ても10点ぐらいかしら、女として完全に落第よ」
えらい言われようである。しかし客観的に聞かされると私の言動はとんでもないメンヘラ女に聞こえるのは否めない
相手があの結城蓮であり、そこまでの流れで色々あったのだと説明したところでせいぜい0点が20点ぐらいになるのが関の山だろう
事実、彼の私に対しての言動は〈紳士的であったか?〉と問われればやや疑問符がつくものの
優しさと気遣いに溢れた対応だったことは間違いない。それに比べて私の言動は〈淑女〉とは程遠いモノであったことは否定できない
弁明しようにも〈言い訳〉と〈彼に対する謝罪〉しか思い浮かばない時点で私の有罪は確定したといえるだろう。
「ねえ葵、どうすればいいと思う?」
私はここに至り、素直に助言を求めた、〈蓮に呆れられてこのまま消滅〉という事態だけは避けたいからだ
ここまでくるともう見栄とかプライドとか言っていられない
葵にすがってでもなんとかしたいというのが偽らざる本音なのだ。
「凛はその彼と関係を続けたいのでしょう?」
その問いかけに対し、私は無言のまま大きく頷く。
「それで、次回につながる様な布石は打ったの?」
「まあ、一応……〈次にゲームや卓球がしたくなったら私を誘って〉とは言ったけれど……」
「アンタにしては上出来じゃない、今までの話を聞いたところ、私が思うに多分相手の彼も凛に気があると見たわ」
「本当?本当にそう思⁉」
「うん、多分間違いないわ、【マチコン】で会ったのならばお互い相手の個人IDはわかったのでしょう?
だったらすぐに次のお誘いが来ると思うわ、もし来なかったらコッチからガンガン行っちゃえ‼︎」
「えっ、コッチから⁉︎それはちょっと……」
蓮に対して自分から積極的にアタックをかけるという行為は私の頭の中にはなかった
もし私の方から仕掛けた場合、蓮が例のしたり顔で〈何、お前、そんなに俺のことが好きなの?〉
とか言われたら死にたくなりそうだからである。
「この後に及んでまだそんな事を言っているの⁉︎いい凛、恋とは戦いだよ
そんないい男を他が放って置くと思っているの?
ただでさえ凛は女子力低いのだから、何もしなければそこで試合終了だよ
いざとなれば色仕掛けで迫るぐらいの覚悟を見せなさい‼︎」
相変わらず散々な言われ様である。我が親友が冷静かつ客観的に分析した結果がそうなのだろうから
あながち間違っているとは思わないが私と蓮ではそこまで釣り合わないのだろうか?
理解はできても納得し難い提案に私が少し躊躇していると、葵は続けてこう言った。
「凛、このまま何もしなくてその相手の男が別の可愛い子とゲームや卓球でよろしくやっていたらどう思うの?
言っておくけれど普通の女子は初めてのデートで突然逆ギレしたり
意味不明に泣き出したりしないのだからね?
男はそういう面倒臭い女を一番嫌うのだから、素直で可愛い別の女に取られてもいいの?」
その時、私の頭の中にある想像が浮かんだ。それは蓮と謎の美少女が楽しそうに卓球をしている光景であった。
〈ほら行くぞ、二十一回目のラリーだ〉
〈は〜い、うふふ、私達相性ピッタリね〉
〈そうだな、六回しか続かないメンヘラ地雷女とは違うな〉
〈わざわざ地雷を踏みに行く事はないじゃない、世界平和のために地雷は撤去されるべきよ、そんな女忘れてしまいなさ〜い〉
〈そうだな、もう凛の事は忘れるよ〜ハハハハハハハ〉
〈それがいいと思うわ、ホホホホホホホ〉
自分で想像した妄想に最悪の気分になってしまった。胸の奥からドス黒いものが込み上げてきて負の衝動が抑えられなくなっている
何よこれ、初めて味わう感情だ……これが嫉妬というやつだろうか?
「凛……アンタ今、物凄い顔していたよ、取られるのがそんなに嫌ならいい加減腹を括りなさいよ
凛は見た目だけは良いのだから、冗談じゃなく色仕掛けも辞さない覚悟で死ぬ気で頑張りなさい‼︎」
女子高生が友達に送る助言として倫理的、内容的にどうかとは思うが
言っていることは的確な気がする。私は葵に言われた通り腹を括り、大きく頷いた。
「うん、わかった……ありがとう葵」
「何の、何の、親友の恋の応援をするのも恋愛マスターとしての義務でござるよ
また恋の悩みがあるのならばどんどん私に相談してくれたまえ、カッカッカッカ」
両手を腰に当て鼻高々に高笑いする葵。何のキャラになりきっているのかは意味不明だが
この際そんな事はどうでもいい。私は葵の力にすがってでも蓮との関係を続けたいのだ
ふと我に返り自分を客観的に見てみた時、そんな自分自身の姿に少し驚いていた
しかしそんな私の思いとは裏腹に想像していた展開にはならなかったのである。




