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屈辱の異名

政府の後押しもあって日本のIT技術は向上し、学校では子供の頃からキーボードによるタイピングや


プログラムにおける基礎知識、技術試験などが行われた。


授業内容にもゲーム感覚で取り組めるようプランニングされた為


子供達はどんどん知識を吸収しもの凄い速度で上達していった


優秀な子であれば幼稚園の頃からスクリプトを組む事もできたりした


小学生の高学年ともなれば、夏休みの課題では簡単な【ゲーム制作】や【アプリの開発】などが宿題として出され、優秀な物は企業に買い取られる事すらあった。


そんな中で私は中学二年生の頃に夏休みの課題として【USDとAIを活用した独自システムの技術躍進と将来の展望】


という論文を発表した、それは〈USDに自分の思想パターンや知識をトレースすることによって


感情を持たない各個人の思考AIの制作を可能にする〉というモノだ、平たく言えば〈各個人の脳のクローンAIを作る〉という事である。


USDというのはそれぞれ個人においてもはや生活の一部となっており


その機能は初歩的な〈ネット通販のおすすめ商品〉とか〈ヨーチューブのお勧め動画〉といった好みのパターン解析から


〈食事メニューの推奨〉、いつ寝て、いつ起きるか?という〈生活リズムの管理〉


各人が何か迷った時の〈より良い選択や適した行動の示唆〉、そして〈各人の思想パターンに応じた思考誘導のサポート〉までしてくれるのである。


私の理論はこれを利用し、各人の知識、思考パターンからその人がどう考えどう行動するかを解析し


本人の代理としてAIが独自判断でサポートする事、つまり、この脳のコピーAIがあれば宿題や面倒な手続き


事務処理など全て代わりにこのシステムがやってくれるという訳である


しかもシステムなので、疲労も感情による誤差もない、二十四時間ずっと本人の代わりに働き続けてくれるという訳だ。


私はこれを自分の脳の擬似分裂人格という意味合いを込めて【ファントムシステム】と名付けた


これは科学誌にも掲載されるほど話題となり、私は一時期【天才少女現る】などともてはやされ、時の人扱いを受けた


しかしこの【ファントムシステム】はいわば〈クローン人間の制作〉と同じく、倫理的な問題として定義され、世界各国の国際規約として禁止された。


このシステムの大きな問題は〈一人の優秀な脳があれば、それをAI化し、複製、並列化することによって


他の人間は不必要になってしまう恐れがある〉という事だ


本当に少数の天才がいれば未来永劫その人間の【ファントムシステム】があれば全てにおいて事足りる


つまり〈個々の人間の価値〉というものが根本的に崩れてしまうのである。


もちろん当時中学生の私はそんな事まで考えてはなかった


ただ単に〈面白そうだから〉という理由で論文を書いてみたのにすぎない


そんな〈人間の尊厳と存在価値〉などという哲学的な大問題を引き起こすとは想像もしていなかったのである。


そんな時、私は【サイバーテクノロジー社】という企業からある誘いを受けた


それは〈【KOEG】に出てみませんか?〉というモノだった


【KOEG】とはKing Of Encampment Gameの略であり、簡単にいうと〈電子戦による陣取りゲーム〉の大会である。


これの出場資格は十八歳以下の高校生までで、己のコンピューターセキュリティ能力、つまりハッキング技術を競う競技だ。


別名【ハッカー甲子園】と呼ばれるこの大会を主催する【サイバーテクノロジー社】は五つの女神のうちの一つ


〈アウクソー〉を制作した会社であり、その資金力や経営規模は日本でも有数の大企業だ


この大会は〈若者の健全な育成と成長の為の手助け〉という理念で設立したらしいが


本当の目的は〈優秀な若者を早い内から取り込みたい〉といういわゆる〈青田刈り〉であることは誰の目にも明らかであった


現にこの大会の上位入賞者はかなりの確率で【サイバーテクノロジー社】に就職しており、それ目的で出てくる人間も多い。


そんな大会に私は〈特別枠〉として招待された。


この大会の出場者は厳しい地区予選を勝ち抜いてきた者ばかりで、本来ならばいきなり飛び入り参加できるモノではないのだが


そこは主催企業の匙加減、なんやかんやとよくわからない理由をつけて無理やり私を出場選手としてねじ込んだ


その理由は当時有名になった私の話題性である。有り体に言えば〈大会を盛り上げる為の客寄せパンダとして招待された〉という訳だ。


出場者のほとんどが厳しい県予選を勝ち抜いてきた高校生の猛者共という中で女子中学生の私が勝てると思っていたものは誰もいなかった


この大会は政府公認で賭けの対象となっており、戦前予想では私の評価は大会出場者50名の中の49番目、つまりブービー人気だったのだ


主催者側も含め誰も私が勝つと思ってはいなかったのである。


しかし主催者側の思惑がどうであれ、大人しく客寄せパンダに徹してやる義理はない


そう、私は負けず嫌いなのだ。そして私は可愛い皮を被った殺人パンダとなって対戦者の喉笛を次々と食いちぎり、勝ち上がって行った。


この【KOEG】という競技は、〈制限時間内に相手の陣地にある拠点をどれほど攻略したか〉で勝敗を決する


もしくは〈各拠点を全て攻略し敵の本陣をも攻略して中のパスワードを解読すればその時点で試合終了〉というモノ


それはボクシングで例えるならばKO勝ちだ、私は皆の予想に反して全ての試合でKO勝ちを収め、決勝へと勝ち進んだ。


最初はまぐれ扱いで、見ている者達も〈おいおいマジかよ⁉︎〉くらいの感覚であったが


私が次々と勝ち進むと徐々に皆の見る目が変わってきた。


そして準決勝において優勝候補筆頭といわれていた男子高校生をKO勝ちした時点でようやく皆が私を認めた


大会運営側も嬉しい誤算に大いに喜び、観客の盛り上がりも最高潮に達した


その際に私が通っていた学校の地域から【日暮里の電脳姫】という嬉しくもないニックネームがついたのである。


そしていよいよ決勝戦、私はもう優勝した気でいた。ここで大会優勝最年少記録を大幅に塗り替え華々しいデビューを飾る……はずだった。


私は相棒〈マリー〉と共に決勝の舞台へと上がる。


派手な火花が飛び出す仕掛けやレーザービームといった過剰気味な演出はまるで大きな格闘技の大会のようであった


観客は否が応でも盛り上がり、テンションは最高潮に達した。大音量の音楽と歓声で耳が痛くなったほどだ。


ちなみに〈マリー〉というのはこの競技における私のサポートAIの事である


この大会は個人のハッキング能力を競うモノだが、一台だけサポート用のAIを使用しても良い規則になっている


やはり計算速度は人間には限界があるので、それをサポートするための補助AI、それが私の作った相棒〈マリー〉だ


このサポートAIは競技用に市販されている物もあるのだが、この大会ではそんな市販品を使用していてはとても勝ち上がることはできない


特にこの全国大会に出てくるような連中は、カリカリにチューンしたオリジナルサポートAIを自作してくるのが通例である


当然〈マリー〉も私が三日も徹夜して組み上げた、自慢の相棒である。


ちなみにこの〈マリー〉という名前は、十八世紀【フランス革命】で処刑された悲劇のヒロイン〈マリー・アントワネット〉から引用した。


派手な演出で決勝の舞台に上がった私は対戦相手を見てざわついていた。


なぜなら私の相手は戦前予想で出場者50人中、50番目の最低人気の選手、私より唯一評価が下の出場者だったからだ。


その男は私と同い年で、中学生にもかかわらず福岡県代表を勝ち取った男子だった。


レベルの高い【ハッカー甲子園】の決勝戦でまさかの中学生対決。


見ている者達は盛り上がっていたが、私にしてみれば同い年の人間には負けられない、絶対に勝ってやる‼︎という気持ちであった。


私は勝つ気満々で闘志を燃やし決勝へと挑んだ……


しかし結果は惨敗、初めてのKO負け、あまりの結果に私は現実を受け止めきれず、茫然自失となって表彰式での記憶も不確かな程ショックを受けた


今まで何をやっても上手くいき、負けた事などなかった。


今回も並みいる高校生達を女子中学生である私が撫で切りにしていくのは爽快だった


しかしよりにもよって同い年の人間に負けたのだ、しかも完膚なきまでに……私は人生で初めて悔し涙というものを流した。


だがそれでおとなしく引っ込んでしまう程私は潔くはない。


葵の言う通り私は諦めが悪く、異常なまでの負けず嫌いなのである


それからというもの、〈マリー〉に改良を加え、敗因を研究しもう一度彼に挑むことにした


負けたままなんて私のプライドが許さない、絶対に勝つ‼︎あの男にも私と同じ屈辱を味合わせてやると心に誓った


それから四年間、私は〈マリー〉と共に【KOEG】に予選から挑み


東京代表として出場、四年連続で本大会の決勝に進み、そして四年連続決勝戦で敗退した……


五年目である今年は出場しなかった、色々理由はあるがここでは割愛させてもらう


だから【KOEG】の大会中継も見なかった、葵から結果だけは教えられ大方の予想通りアイツが優勝したと聞かされた


私が出場しなかった事で彼の単勝オッズは1・1倍だったらしい。


葵の言う【過去の栄光】というのは【KOEG】四年連続準優勝という記録のことだろう


他の人から見れば【全国二位】というのは華々しいものなのだろうが、私にしてみれば一番以外は全て敗者である


だからこそ【電脳姫】というあだ名も、自分が負け続けた苦い記憶の副産物にすら思えた


栄光などとは程遠い屈辱の象徴、それが【電脳姫】という二つ名、だから嫌い、大嫌いなのだ……


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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