モグラの逆襲
「何よ、ここは……」
彼に連れて行かれた場所は想像の斜め下をいく所であった
先ほどの雑踏など比べ物にならないほどの雑音。見た事もない物が数々並んでいて、耳障りな甲高い電子音が空間内に飛び交い
会話をするのですら支障が出そうなやかましさである。
「知らないのか?ここは1980年代のゲームセンターだ」
「ゲームセンター?昔アミューズメントスポットとしてあったとかいうアレの事?」
「やや言い方がひっかかるが、概ねそんなところだ。今ではSNSアプリやネットゲームが主流で数こそ激減したが
東京にはまだ現存しているんだぜ、確か、新宿と原宿と池袋だったかな?
渋谷にはもうなくなってしまったけれどな、福岡にも一軒だけ現存している
この時代は携帯もなかった時代だからな、子供や若者はこうしてゲームセンターにたむろしていたらしい」
この騒然とした空間の中で何故か目を輝かせて嬉しそうに語る結城蓮、どうやらここに来たかったというのは本当の話のようだ。
「ふ〜ん、それで、この大昔のゲームセンターという魔空間に私を連れてきた理由は?」
「理由、そんな事もわからないのか?」
「わからないから聞いているんでしょうが‼︎」
やや苛立ち気味に答えた私に対し、ヤレヤレとばかりに首を振る結城蓮、そのリアクションがイチイチ腹立たしい。
「そんなの簡単だ、俺がこの空間が好きだからだ、だからお前を連れてきたかった、それだけだ」
〈それが当然〉とばかりに言い放つ結城蓮、まあそうでしょうね、そうだと思っていました
ええわかっていましたとも、この男に〈ロマンチック〉だとか〈オシャレな場所〉とかを期待していた私が馬鹿でした
このムードもへったくれも無い謎空間が私にお似合いだと思ったのでしょう、少しでも期待した私が間違いだったのだ。
「何、ふてくされているのだよ、お前は?」
「別に……ただ前から思っていたのだけれど、その〈お前〉っていうの、止めてくれない」
私は精一杯の抵抗を試みた、何でもいいからコイツに言ってやらないと気が済まなかったからだ。
「じゃあ、何とお呼びすればよろしいのでしょうか、姫ですか?」
「止めてよ、それ絶対ワザと言っているでしょう⁉」
「じゃあ、どう言えばいいのだよ、高垣か?」
「ハア……別に、凛でいいわよ」
私はため息交じりにそう答えた、何かわからないが疲れたのである。
「下の名前か……いいのか?」
「お前とか言われるよりよっぽどいいわ、友達にもそう呼ばれているし」
「お、おう、わかった……これからお前の事はそう呼ぶよ……じゃあ、俺の事も蓮でいいぜ」
「はいはい、じゃあよろしくね、蓮」
私にしてみれば特に気にする事でもなかったのだが、蓮は妙にソワソワしている
何なのだろうコイツは?まあいい、どうせ考えるだけ無駄なのだろうし。
「それで、ここで何をやるの?」
「そうだった、まずはコレだ」
蓮が指さした先にあったのは謎のゲーム筐体、色鮮やかな緑と黄色のコントラストが目を引いた。
「何よ、コレ?」
「これは【もぐら叩き】というゲームだ」
そうか、この穴の中からこちらを覗き込んでいる様な謎の物体はモグラを模している物だったのか⁉
あらためて見てみると、何か愛嬌があるというか、可愛いらしくも見える。
「これ、どうやってやるの?」
「ここにあるハンマーで飛び出してきたモグラの頭を叩く、時間内にどれだけ叩けるかを競うゲームだ」
まるで水を得た魚のように意気揚々と説明する蓮、本当にこの手のゲームが好きな事が伝わって来る
だがこちらにしてみればどうにも釈然としない為、少し意地の悪い事を言ってみた。
「そんな事をして、面白いの?」
「四の五の言わずにいいからやってみろって、頭で考えるんじゃない、感じるんだ」
誰の言葉よ、それは?私は言われた通り渋々ながらハンマーを手に取りゲームを始める事にした。
「じゃあ、行くぜ、スタート‼」
ゲームが始まると、穴の中からピョコっとモグラが顔を出し私はすかさずその頭を叩く
順番に出て来るモグラを叩いているという単純な行為なのだが、何だろう?やっている内に少しずつ面白くなってきたのである。
「何よ、これ簡単じゃない」
「バーカ、ナメてかかると痛い目見るぜ、ここからが本番なのだよ」
いつもの意地の悪い口調で忠告してきた蓮、しかしこの程度のゲームに私が手こずるとでも思っているのかしら?
これでも【KOEG】では最速プレイヤーと呼ばれていたのよ、ナメているのはそっちの方でしょう、見てなさい‼……
って、あれ?
途中からモグラの動きが早くなって来て、私のハンマーが追い付かなくなってきた
しかも小癪な事に二匹同時に顔を出すとかの連係プレーまで駆使し始めたのだ
全く私の攻撃が当たらなくなってきた。先程まで愛らしいと思っていたモグラの顔が、急に憎たらしく感じてくる
まるで〈そんな攻撃じゃ当たらないぜ、このノロマ、へっへっへ〉と嘲り笑っている様に見得てきたのである
何だ、コイツ等、おとなしく私に叩かれなさいよ‼
しかし焦れば焦るほど攻撃は当たらない、私の苛立ちはドンドン高まっていった。
「どうした凜、さっきまでの大口は?」
ただでさえ苛立っている時に挑発する様に茶々を入れる蓮、コイツは本当に性格が悪い。
「うっさいわね、ちょっと黙ってなさいよ‼もう少しでコイツ等のアルゴリズムを解析して仕留めてやるんだから‼」
「アルゴリズムとか言っている間に終わってしまうぞ、頭で考えるんじゃない、反射神経だ」
多分蓮の忠告は正しいのだろう、しかし今はその忠告を素直に受け入れられる精神状態ではないのだ
私にはピョコピョコと不規則に顔を出すモグラたちが〈バーカ、バーカ〉と言っているようで益々頭に血が昇る。
「何よ、コイツ等、CPUが入っているのかも怪しいレトロゲームのくせして、私の本気はここからよ‼」
こうして私はモグラたちに散々馬鹿にされ、弄ばれ、結局見せ場も無くゲームは終了した。
「ひでえ成績だな、凜、とても【KOEG最速】と呼ばれた者とは思えない点数だぞ?」
例によってニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、挑発的な言葉をかけて来る蓮
本当に本当にコイツは性格が悪い、死ねばいいとすら思えた。
「ハアハア……うっさいわね……だったら……アンタが……やってみなさいよ‼」
乱れた息を整える間もなく言い返した、私の負けず嫌いも大概である。
「わかった、じゃあやってみせてやるよ」
相変わらず自信満々の態度でハンマーを手に取る蓮、ゲームスタートのボタンを押し、彼のプレイを後ろから見守る
しかしその後、私は全く予想だにしないモノを目の当たりにしたのである。
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