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初デート?

「遅いわね、何をやっているのよ……」

 

私は苛立ちながらUSDで表示されている時間を何度も確認した


周りには行きかう人達の雑踏でガヤガヤとしており、余計に落ち着かない


そもそもこの様な人ごみは慣れていないので余計に神経が高ぶっているのかもしれない。

 

「おう、遅くなった、悪い」

 

そんな言葉と裏腹に少しも悪びれることなく現れたのは結城蓮、そう私は彼と待ち合わせをしていたのだ


彼の〈一度だけ会って欲しい〉という願いを断り切れなかった


心の中にある〈彼との約束を破った〉という呵責の念がそうさせたである。

 

「遅いわよ、何やっていたのよ‼」

 

「たった五分遅れただけじゃねーか、相変わらず短気な女だな」

 

「アンタがどうしてもっていうから来たんじゃない、なのにその態度は何よ


こうして会うことは出来たのだし、もう帰ってもいいわよね」

 

「いいわけねーだろ、どんだけ気が短いんだ、お前は?」

 

一年ぶりの再会だったが、私と彼の話といえば終始こんな感じである。

 

「で、色々聞きたい事はあるけれど、まずはどうして待ち合わせ場所がここなのかしら?」

 

私は半ば呆れ気味に問いかけた、周りには溢れんばかりの人、人、人である


あちらこちらから聞こえてくる会話と騒音が入り混じった音が嫌でも耳に入ってきて不快な気分にさせられるのだ。

 

「待ち合わせっていえば、ここだろう?渋谷のハチ公前」

 

「いつの話をしているのよ⁉そもそも仮想空間で会うのに何でワザワザ1980年代の渋谷なのよ?」


 私達が会ったのは現実の場所ではなく仮想空間なのである、さすがに東京と福岡では距離がありすぎるし


一応彼とは【マチコン】によってカップリングされたのだから


この政府が用意した仮想空間も使用許可が下りている。しかしワザワザ待ち合わせ場所を〈1980年代の渋谷ハチ公前〉に指定したのは完全に彼の趣味だろう。


「仮想空間やUSDによるリモート通話が通常化した現代で、今時こんなに人ごみがある場所なんてどこにもないわよ」


「人ごみに紛れて待ち合わせっていうのがいいんじゃねーか。風情というか情緒というか、まあそんな感じだ」


 風情や情緒を語るのならばもっとふさわしい場所があるとは思うが


ここでそこを追求するのは止そう、出会っていきなり口論になりかねない。

 

「で、これから何処に行くの?」

 

「それは、お楽しみという事で」

 

でた、私の質問に対し相変わらずのはぐらかし。だがここでイラついてはダメだ


またコイツにペースを持っていかれる。何処に連れていかれるのかは少々気になるが


あまりに気に入らない場所だったら強制終了で帰ってしまえばいいと思っていた、なにせここは仮想空間なのだから。

 

結城蓮の背中を見ながら目的地へと歩いていると周りの光景が嫌でも目に入って来る


今では考えられない程の人ごみ、仮想空間なのでワザワザ通行人を避ける必要はないが


これが現実ならば人をかき分けて進むという非効率的でストレスのたまる行動をとらなければいけない


考えてきればUSDはおろか携帯電話も無い時代、周りの風景を含め私にとってはある意味新鮮であった、中でも若者が多い事に驚いた。

 

「この頃の渋谷って、若者が多かったんだね?」

 

「ああ、その昔、渋谷は〈若者の町〉とか呼ばれていたらしいからな、今じゃ昔を懐かしむ年寄り共の巣窟だから考えられねえけどな」

 

そんな他愛のない会話をしていると、結城蓮がジッとこちらを見つめてきた。

 

「な、何よ?」

 

「いや、最初会った時に思ったんだけどよ、お前今回は妙におしゃれしているなと思ってさ」

 

改めて指摘されると何だか急に恥ずかしくなってくる。最初に出会った時に言われたならば対処も出来ただろうが


こんな不意討ちの様に言われたのでは言葉に詰まってしまう。

 

「だって、折角だからオシャレしたいじゃない、仮想空間とはいえ私、男の人と出かけるの何て初めてだし……悪い⁉」

 

「悪くはねえよ、いや、ていうか結構似合っているぜ、こうしてみると、やっぱりお前可愛いな」

 

「なっ……」

 

いきなりとんでもない事を言い出す結城蓮、私は思わず言葉を失った


どうしてそういう事をサラリと言えるのか、その神経がわからない。

 

「黙っていれば美人なのによ、勿体ないな」


 一言多いのも相変わらずである、今回私が身に付けている服は仮想空間の中でとはいえ


きちんとしたとしたアパレルメーカーがネットにて販売をおこなっている正規品である


勿論現物の本物よりは安価ではあるが高校生の私にとっては結構な買い物だ


仮想空間で身に付けていた服を本当に現実で会う時にまた着ていくというのが今の流行りなのだと葵から聞いた


それだとデータと現物で同じ服を二着買う羽目になるのだが、そこは〈セット販売〉という割引があるらしい


アパレルメーカーも中々商魂たくましいと要らぬ関心をしたものだ。


目の前に居る結城蓮は女性の服装とか容姿とかを褒めるキャラでは無いと思っていただけに不意に


〈それが似合っている〉と言われて、戸惑いもあったが素直に嬉しかった


これでも一応年頃の女の子だ。しかしそれを素直に表現する事が苦手というだけなのである。


「それはどうも、でもそれを言うならアンタだって同じじゃない」

 

「は?何がだよ」

 

「見た目の事を言っているの」

 

結城蓮は中々のイケメン男子である、ややウエーブのかかった髪に整った顔立ち


たれ目がちな眼差しが知性と優しさを感じさせる、昔風に言うと〈癒し系アイドル〉といった感じか?


見た目と中身が正反対なのは私といい勝負だろう。

 

「俺達世代は例の〈日本国民美人化計画〉の申し子みたいな存在だからな、美形が多いのは必然だ。だが大事なのは中身だろ」

 

「それっぽい事を言っているんじゃないわよ、アンタが相手でも私は頑張って精一杯のオシャレをしてきたのに、アンタのその恰好は何よ⁉」

 

「ん、変か?」

 

「一応自分からデートに誘っておいて、その恰好は何よ、一年前の【KOEG】の大会の時と全く同じ格好じゃない」

 

そう、彼の服装は赤いポロシャツにジーパンという非常にラフなスタイル


一年前に大会会場で会った時の現実の格好と全く同じなのだ。

 

「いつもこればかり着ているからな、赤じゃなくて青の方が良かったか?」

 

「問題にしているのは色じゃないわよ‼もういいわ、一応それなりに気合入れてきた私が馬鹿みたいよ、この服結構高かったのに……」


 私はため息交じりに独り言の様に呟いた、自分ばかりが空回りしている気がしたのである。

 

「そっか、悪い、悪い」

 

誠意も何も感じられない謝罪である、しかもやたら嬉しそうだ、私をからかうのがそんなに楽しいのだろうか?

 

「一応【メルオク】で服を検索してみたのだけれどな……」

 

「へえ~アンタが【メルオク】やるんだ、意外ね?」

 

【メルオク】とは販売店ではない素人同士が、物を出品し販売や購入をおこなうことが出来るネットショップサービスである


USDを経由すれば立体映像でその品物の状態まで確認で

きるという優れモノだ。


 

「まあな、たまにPC周辺機器とかの出物があるんだよ、それで服の中古が安く販売されていないか見てみたのだが


どいつもこいつも高い‼正規の店で新品を買うのと五百円しか変わらないんだぜ⁉そんなのアホ臭くて買えるかよ‼」


 彼は珍しく苛立ち交じりの口調で吐き捨てる様に言い放った。

 

「まあ、中古とはいえ仮想空間で着用する服はあくまでデータだからね


中古と新品に差なんか無いし、値段が変わらないのもうなずけるわ


一説ではメーカーサイドが値崩れを起こさない為に価格の操作をおこなっているとか聞いてけれど……」

 

「けっ、そんなところだろうと思ったぜ、本来は【公正取引委員会】が取り締まらなきゃいけない事案だろ⁉


こんな時代になってもネットビジネスに対しての法整備はまだまだ甘いぜ」

 

デートの開始早々、色気のない殺伐とした会話で盛り上がる?私達


このままではいけないと思った私は話題を切り替える事にした。

 

「で、これからどこに連れて行ってくれるのかしら?」

 

「だから、それは後のお楽しみだって、さっきから言っているだろ、せっかちな女だな」

 

相変わらず薄ら笑いを浮かべながら、人を小馬鹿にするような言葉を発する結城蓮


折角気を利かせてこちらから話題を変えてやったというのにこの態度……ここでブチギレて、帰ったとしても私は悪くないはずだ


ここまで言われて〈はい、そうですか〉と素直に従うほど私は人格者ではない


しかし今回は特別なのである、そう、私が約束を破ったという負い目がある以上


今日だけは黙ってコイツに付き合うと決めたからだ、もちろん〈私の忍耐力が持つまで〉


という条件付きではあるし、察しの良い方々にはわかってもらえると思いますが


もうすでに私の堪忍袋は限界寸前だということも。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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