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事の真相

〈さあ始まりました、【KOEG団体戦】優勝の【ダークプリンセス】VS【サイバーテクノロジー社】が誇る【ホワイトナイト】によるスペシャルマッチ


個人戦、団体戦と連覇し勢いに乗る【電脳姫】と【ダークプリンセス】


その勢いのまま【ホワイトナイト】をも撃退してしまうのか⁉


それとも【女神アウクソー】を守る白き騎士達がその誇りと威厳を見せつけるのか、勝負の行方は全くわかりません‼〉


 事前には何も聞かされていなかった観客達は団体戦が終わり、大会も終了だと思っていた為


このサプライズおかわりに大いに盛り上がっていた、常識で考えれば私達に勝ち目など無い


しかし私は負ける気がしなかった、何故そう思えたのかはよくわからない


でも結城蓮と共に戦う時の言いようの無い無敵感は理屈では無かった。

 

〈さあ入場してまいりました、チーム【ダークプリンセス】、瞬殺の天使【電脳姫】と魔界の貴公子【ダークプリンス】という強力タッグ


なんとたった二人で団体戦を勝ち抜くという仰天技を我々に見せつけてくれました


また奇跡を起こすのか⁉それともこの二人にとっては奇跡では無いのか⁉


心なしか【スマイルキャッチ プティキュア】の曲も板に付いてきました、さあ我々を導いてくれ、戦いと笑いのワンダーランドへ‼〉


 テンションが上がっていく実況と観客席とは裏腹に、心が落ち着いている自分自身に驚いていた


人間とは恐ろしい生き物で、あれ程嫌だった入場曲の【スマイルキャッチ プティキュア】も


観客席からのプティキュアコールも少し慣れて来たのか、私の集中力が乱されることは無かった。


本音を言えば〈もう好きにしてくれ〉という気分である。


〈そして彼らに立ちはだかるのはこの人達、【ホワイトナイト】のメンバー達だ‼


ブルクハルト・ハイネマンを先頭に、李明星、雨宮宗一郎と入場してきます


普段裏方に徹している彼らがこの表舞台に出てくる事は非常にまれであります


ベールに包まれていたその実力が白日の下にさらされる日が来ようとは誰が想像できたでしょう


どれほどの力を持っているのか、どれほどの技を見せてくれるのか、女神を守護せし白騎士達の力、とくとご覧あれ


今伝説のハッカー達がここに降臨、我々がこの世に生を受けたのは、この戦いを見届ける為だったのかもしれません


歴史の証人としてこの戦いを、そして彼らの一挙手一投足を見逃すな‼〉


右手を上げ観客の声援にこたえる様に入場して来る【ホワイトナイト】のメンバー達


私達と違って気負いも緊張感も感じられない、三人とも終始にこやかな表情で姿を見せたのである。


「ちくしょう、余裕ぶりやがって」

 

「彼らにしてみれば私達なんて格下もいいところでしょうからね」

 

「その余裕の表情を蒼白に変えてやる、見てやがれ」

 

さすがの結城蓮も余裕は無い様だ、審判員が前に出てきて試合開始の準備を始める。

 

「両チーム、準備はいいですね?」

 

「ああ、いいぜ」

 

「こちらもOKですよ」

 

「それではチーム【ダークプリンス】対、チーム【ホワイトナイト】のエキジビションマッチを開始いたします‼」


 大画面に〈オンユアマーク〉の文字が浮かび、それに合わせる様に開始を告げる審判員の右手が上がる


〈Ready〉の声と共に、緊張感は最高潮に達し、審判委員がその右手を勢いよく振り下ろすと同時に


大画面モニターに〈GO‼︎〉の文字が映し出され私を含めた競技者が一斉にキーボードを激しく叩きはじめた。 

 

「行くぞ、奴らをぶちのめす‼」

 

「アンタも死ぬ気で守りなさいよ‼」

 

こうして日本最強の呼び声高い【ホワイトナイト】と私達の戦いは火ぶたを切った……


 

「これより表彰式を始めます、入賞チームの方々は前に」

 

大会も終わり、各チームの表彰式へと移った。目の前では準優勝のチーム【タイタン】が銀の盾をもらい会場から大きな拍手に包まれていた。

 

「それでは、記念すべき第一回【KOEG団体戦】栄えある栄光を手にしたのは、チーム【ダークプリンセス】


結城蓮くん、高垣凛さんです、おめでとうございます‼」

 

会場は先程よりも一段と大きな拍手、そして歓声に包まれた


祝福と称賛の嵐の中、大きな金の優勝カップを手にしてプレゼンターとして現れたのは


【ホワイトナイト】の一人であり、この【KOEG個人戦】第一回の王者でもある雨宮宗一郎である。

 

「おめでとう」

 優勝カップを渡され、更に大きな拍手が巻き起こるが、私達はそれを素直に喜ぶことは出来なかった


そう【ホワイトナイト】とのエキジビションマッチは私達の完敗、しかも完膚なきまでのワンサイドゲームで負けたのである


力の違いというより格の違いを見せつけられたといってもいいだろう


しかし私としてはそれほど悔しくはなかった、そもそも最初から勝てるとは思っていなかったからだ。


彼ら【ホワイトナイト】は百戦錬磨、我々とはくぐって来た場数が違う


兵器で言うならば〈コンバット・プローブン〉戦闘証明済み、という事である


しかも彼らの使用している支援AIは我々が使っている自作のAIとはモノが違う


大企業である【サイバーテクノロジー社】がその豊富な資金と膨大な知識と技術


そして優秀な人材を惜しみなくつぎ込み、会社の威信をかけて作り上げたカリカリのモンスターAIなのだ


したがって一高校生が自作で作ったプライベートAIとはハッキリ言って性能が違う


人もAIも格が違うのだから勝てる可能性など皆無である


それは言い換えれば〈ちびっこ相撲大会〉で優勝した子が、大相撲の現役横綱とガチンコで戦う様なモノである。


 優勝カップを渡された後、プレゼンターの雨宮宗一郎がインタビューアーに


〈【ダークプリンス】の二人と戦った感想はどうだったか?〉と聞いていた、雨宮宗一郎は笑顔を浮かべながら。


〈強かったですよ、彼らが三人だったら我々が負けていたかも〉とか


〈もの凄い才能を感じる、数年後が楽しみ〉とか耳障りのいいことを言ってくれてはいたが


直接手合わせした私達が一番わかっている。言い訳もできない程の完敗、戦いというより一方的な蹂躙といった方が

適切だろう


そう、まるで歯が立たなかったのだ、それ故にこの言葉も単なる社交辞令であり、リップサービスである事は誰よりも私達が一番理解している


だからこそ、余計に惨めで素直に喜べないのだ。逆に言えばここまで力の差を見せつけられると悔しくなかった


この雨宮宗一郎のサービスコメントは釈然としないモノの、私は案外さっぱりとした気分であった。

 

「さすがに強かったわね、でも彼らは……」

 

私が結城蓮にそう話しかけた時、彼の表情を見て驚いてしまった


何故なら彼は雨宮宗一郎を睨みつけ、口惜しさを全面ににじませていたのである。

 

「ちょっと、何を悔しがっているのよ、向こうは百戦錬磨で企業制作のモンスターAIを使っているのよ


そんな連中に二人で勝てる程、甘くはないでしょう?」

 

私は至極当然のことを言っているつもりだった、しかし彼にとっては違ったのである。

 

「お前は悔しくないのかよ⁉あんな舐め腐ったコメントされて……


俺は悔しい、アイツらを本気にさせる事すらできなかったんだ


ちくしょう、絶対に奴らをぶちのめしてやる、あの余裕ぶった顔を必ず顔面蒼白に変えてやるからな‼」

 

考えてみれば彼が公式の場で負けるのを見たのは初めてだ、しかしこれ程の力の差を見せられて、〈絶対に勝つ〉とか、その精神構造に驚いてしまったのだ。

 

「でも〈絶対に勝つ〉と言ったところで、もし仮にこの後リベンジ戦を挑んだところで結果は同じでしょう?どうするつもりなのよ?」

 

すると彼は、真剣な表情で私の方をジッと見つめてきたのだ。

 

「な、何よ……」

 

「来年だ、来年までにアイツラを倒す準備を整える、ぶっ潰すぞ、俺らでアイツらを……」

 

「えっ、私も?いや、そんなの無理でしょ」

 

「無理じゃねえ‼お前と二人ならアイツらを倒す事も不可能じゃない


いいか、来年だ、来年の団体戦でアイツらぶちのめすぞ、俺達が倒すんだ、いいな‼」

 

結城蓮はあれ程の力の差を見せられてもまだ諦めず勝てると思っている


いや、もしかしたらこの男ならば来年には【ホワイトナイト】と互角に戦える力を付けてくる可能性もある


しかし私はどうだ?本当にたった一年でそこまでの力を付ける事が出来るだろうか?


もし彼だけがきちんと力を付けて私だけが置いてきぼりになったら


私が足を引っ張ったせいで来年も完敗したら、何より彼に〈やっぱりお前じゃ無理だ〉と見限られたら……

 

怖かった、初めて怖いという感覚を味わった、敗北の屈辱よりもそれが何倍も怖かった


私は彼と同等でいたいのだ、ライバルと思っていた彼から幻滅される事は、私にとって何よりも耐えがたい苦痛だったのだ


だから私は逃げたのだ、〈見限られるぐらいならば戦わない〉という卑劣で姑息な選択をした


もちろん彼に対して後ろめたい気持ちは残ったが、〈幻滅されるよりはマシ〉


という私の中の優先順位によって翌年の大会は出場を見合わせた、これが結城蓮のいう私が〈約束を破った……〉という真相である。


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