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戦いを終えて

〈あっと、ここで異変が⁉何と、チーム【ダークプリンセス】が追い上げを開始


怒涛の勢いでチーム【タイタン】との差を縮めにかかる


運命の電撃スプリント戦の行方は全くわからなくなってきたぞ‼〉


その実況を聞いたタイタンの連中の顔に驚きが浮かぶ。


「嘘だろ?」

 

「これは想定外。でももう遅い、このまま押し切れるべ」

 

「ええやん、ええやん、そう来なくちゃな、このまま勝つのはどうかと思うとったんや


熱いでお前等、もっとや、もっとワイを熱くさせい‼」

 

〈チーム【タイタン】も全力で逃げる、勢いは止まらない、そして今第4ポイントを攻略‼


一切手を緩めないチーム【タイタン】、相手が女性だろうが、二人だろうが全力で叩き潰しにかかる


ここで【電脳姫】も第四ポイントを攻略‼その差は3秒に縮まった、何が彼女を駆り立てるのか‼〉


 もっと速く、もっと速く指を動かせ、頭を回せ、余計な事を考えず、脳のリソースを全て使い切れ、勝つのよ、絶対に勝つ‼


〈【KOEG団体戦】の決勝もいよいよ終盤、全く目の離せない展開が続きます


勝利の女神はどちらに微笑むのか、勝者の栄誉と名声はどちらの頭上に輝くのか


どちらが勝ってもおかしくない、さあ、勝つのはどっちだ⁉〉


 観客席は大いに盛り上がり、割れんばかりの声援と熱意を私達に向けていた


しかしそんな凄まじい観客の声も私の耳には入っていなかった


何も聞こえない、何も感じない、只々目の前のキーボードと画面に集中し他のモノは一切入って来なかった。


〈ここでチーム【タイタン】第五ポイントを攻略、続いてチーム【ダークプリンセス】も第五ポイントを攻略


その差は僅かに1・5秒‼両チーム残るは最終、本陣のみ、わからない、全くわからなくなってきました‼


チーム【ダークプリンセス】結城蓮の本陣は個人戦でも一度も攻略されたことがありません


これはいわば〈難攻不落〉の巨大城であります、しかしその鉄壁を誇る悪魔城がチーム【タイタン】の【バリスタ】によって城門を無理矢理こじ開けられ落城寸前だ‼


しかし【電脳姫】も負けてはいません。悪魔城以外の城を全て陥落させてきた超速女神が


チーム【タイタン】の無人の城の天守閣目掛けて駆けあがっていく


ここにきてさすがにチーム【タイタン】のメンバーからも余裕の表情が消えた


決着の時が迫る、さあどっちだ、勝つのはどちらか⁉〉


 あれ騒がしかった場内も固唾を飲んで勝負の行く末を見守る


決着をつけるべく私とチーム【タイタン】のリーダー尼崎和臣がほぼ同時にフィニッシュのEnterボタンを叩いた


そして両チームのメンバー全員がすかさず巨大モニターに視線を移し、勝負の行く末がどうなったのか注目したのだ。


大画面モニターに映し出されていたのは【WINNER チーム 〈ダークプリンセス〉コングラチュレーション‼︎】の文字が表示されていたのだ。


「勝った……私達の勝ち……なの?」


 試合に集中していたせいで、どこか信じられないというか、実感が湧かない私は思わず横の結城蓮を見つめる


すると彼は小さく頷き、右手の親指を立てた、その瞬間、例えようもない喜びが全身を駆け抜けたのである。

 

「やったー‼︎勝った、勝ったよ‼︎」

 

私は思わず彼に駆け寄り、人目もはばからず全身で喜びの表現を示した。

 

「お、おう……しかしお前、こんな大勢の人の前で、しかも全国中継されているのに、中々大胆だな……」

 

彼の言葉にハッと我に帰ると、私は喜びのあまりいつの間にか彼に抱きついていたのである


それを指摘され急に恥ずかしくなった私は慌てて彼から離れると必死で言い訳を模索した。

 

「べ、別に変な意味じゃないから、ただその……つまり、アレよ……単に喜びの表現がややラテン寄りだったというか、変な勘違いしないでよね‼︎」

 

苦しい言い訳だが、自分としては特に他意はなく、嬉しさのあまり無意識のうちに抱きついていたのだからしょうがない


しかし相手はあの結城蓮である、こちらの方を見ながら例の如くニヤニヤと愉悦交じりの笑みを浮かべていた。


「おいおい、何だ、よそのツンデレのテンプレのような香ばしいセリフは?」

 

「デレてないわよ、そんな訳ないじゃない‼︎」

 

そこですかさず実況がすかさず話を挟んできた。

 

〈おっと、【電脳姫】、相棒である暗黒王子に抱きついたと思ったら急に離れた‼︎


これは照れているのか?それともデレているのか?さあどっちだ⁉︎〉

 

「デレてないわよ‼︎」

 

私はすかさず大声で反論する、私達競技者の近くには小型マイクが設置してあるので会場中に私の〈デレてないわよ‼︎〉の声が響き渡った


しかもご丁寧にエコーとハウリング付きである、その一言に観客は大いに盛り上がり、またもや爆笑と失笑の渦に巻き込まれる私


この時、ネット視聴者数と書き込み数が最大値を記録したらしい


しかしそんな事は私にとってはどうでもよく、ただただ恥ずかしくて、恥ずかしくて立っていられないほどであった。

 

「おい、そこまで体を張って笑いを取りにいくとは、お前、中々のエンターテイナーだな、お笑い芸人でも目指すのか?」

 

「そんな訳ないでしょう、いいから黙っていてよ‼︎」

 

無論、この会話もマイクで拾われている。会場の観客は完全にスイッチが入ってしまったのか爆笑と失笑が止まらない


先ほどまでの緊迫感はどこへ?恥ずかしい、家に帰りたい、死にたいくらいだ……


〈我々に熱い戦いと笑いを提供してくれる【電脳姫】はまさに女神だ‼


ギャップ萌えとでもいうのか、体を張った〈夫婦コント〉も迫真の演技でした‼︎


【KOEG団体戦】を制した今、彼女が次に狙うのは【キングイズコント】なのでしょうか?


しかし暗黒王子は大きな勘違いしているぞ、彼女が目指しているのはお笑い芸人ではない、プティキュアだ‼︎


シリーズ史上最も笑いの取れるプティキュアになることは疑いないでしょう‼︎〉

 

この実況に会場から再び笑いが巻き起こる、もはやイジられ、コスられ、完全にネタ扱いである


だがこれは優勝者に対してあまりの仕打ちだと思うのは私だけだろうか?


栄光の先に待っていたのは賞賛でもリスペクトでもなく嘲笑


実況を含め、皆〈面白いおもちゃを見つけた〉ぐらいの感覚なのだろう


そして再び巻き起こるプティキュアコール、もうこのまま爆弾を抱えてこの会場全員を道連れにしてやりたい……


 そんな時、ふと横を見るとまだ険しい表情を崩さない結城蓮がいた、私は不思議に思い、さりげなく聞いてみる。

 

「ねえ、アンタは嬉しくないの?」

 

すると、彼は少しだけ間を空け、静かに答えた。

 

「嬉しくない訳じゃねーよ、金も損せずに済んだし、でも俺の目標はここじゃない、その先だからな……」

 

彼がボソリと口走った言葉に私はハッと気がついた、そうだ、彼の目的は団体戦の優勝ではない、その先に待つ戦いこそが……

 

〈さあ、宴もたけなわではございますが、ここで皆様にサプライズ‼︎


この後、団体戦優勝チーム【ダークプリンセス】と主催企業【サイバーテクノロジー社】が誇る


【ホワイトナイト】とのエキジビジョンマッチが用意されています、さあまだまだ祭りは続くぞ、お楽しみに‼︎〉


 実況のアナウンスに、再び会場は湧き上がった。

 

「すげー、暗黒王子と電脳姫があのホワイトナイトと戦うのか⁉︎どっちが勝つのかな?」

 

「いや、さすがにホワイトナイトには勝てないだろう⁉︎」

 

「わかんねーぞ、今の二人には勢いがある、ひょっとしたらひょっとするぜ」

 

会場が再びざわつき始めた、目の前の巨大モニターには〈注目の決戦は20分後〉という文字が表示されている


私は早くこの場から逃げ出したい気持ちで一杯だ、PCから相棒の【マリー】を引き抜こうと手に取ると


今までにない程、熱を持っている事に驚いた。


短時間ではあったものの【マリー】にもかなりの負担をかけていた事がわかり、少し申し訳ない気持ちになる


それと同時にただの有機デバイスである【マリー】に感謝の気持ちが湧き上がってきた


もちろんそんなことは初めてであり、何か言いようの無い不思議な感覚であった。

 

「貴方にも負担かけたね、ゴメンね……でも、もう一戦、もう一戦だけ頑張って、私と一緒に戦って……」

 

そう声をかけ、USBケーブルをゆっくりと引き抜くと、赤く光っていたランプがフッと消える


それはまるで〈仕方がないから付き合ってあげるわ〉と私に答えてくれた様であった。

 

そんな時である、背中から声をかけられ、ふと振り向くと、そこには対戦相手だったチーム【タイタン】のメンバー達が立っていた。

 

「負けたで、ホンマ信じられへんけどな、この条件で負けたのだから言い訳のしようがあれへん、ワイらの完敗や


しかも最後は笑いまで持っていきおって、大阪代表のメンツ丸潰れや。でもおめでとう、アンタらの勝ちや」

 

【タイタン】のチームリーダー尼崎和臣が右手を差し出す、そしてそれに応える結城蓮。

 

「アンタらも強かったぜ、俺たちを本気にさせるぐらいにはな」

 

どこまでも強気で不遜な態度を崩さない結城蓮、これが彼の姿なのだろう


もう驚きも苛立ちもしない、自分でもそう納得していた。

 

「何やムカつくな、でもしゃあない、強いものが勝つ、弱いから負けた、それだけや


敗者は何も言わずただ去りゆくのみや、でもワイらに勝ったんや、ホワイトナイトもぶっ潰せや、ええな‼︎」

 

「もちろんだ、言われるまでも無い」

 

結城蓮と尼崎 はがっちりと握手し、チーム【タイタン】のメンバーはそのまま去っていった


さっきまでアレほど憎らしく思えていたのに、終わってみれば彼らに親近感さえ湧いてしまっている自分に驚いた


それほどまでのギリギリの戦いだったのだ。しかしこれから始まる戦いはもっと厳しいものになるだろう、私は再び気を引き締めた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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