刹那の電撃戦
「どうしてよ、どうしてこんな理不尽が通るのよ‼」
私は憤懣やるかたない気持ちを抑えきれず、彼に当たる様に思いをぶつけた。
「見事にルールの隙を突かれたな、運営側としてもここで中止にしたりしたら決勝戦が反則負け
しかも原因は自分達の不手際となると言い訳のしようがない
見ている者達からすれば消化不良で不満が爆発し、結果この開催は大失敗に終わる事になる
しかもこの大会は賭けの対象になっているからな。一番人気の【タイタン】に賭けていた奴は納得できないだろうぜ
訴訟問題に発展する可能性すらあるからな」
「だけど、そんなの私達には何の関係も無いじゃない、向こうの都合と不手際をこっちに押し付けるなんて……」
「それが大人の事情って奴だ、正当性より企業の利益を優先する、社会ではよくある事だ
もちろんアイツらはそれを見越して意図的にやっているはずだ」
「じゃあ、確信犯って事?勝つためには何でもアリって事?何て奴らよ」
私は気持ちを抑えきれず、相手チームを睨みつけた、そんな私の視線に気が付いた豊田浩一はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、挑発する様に話かけてきたのである。
「これで僕達の正義が証明されたね、試合前にいちゃもん付けて少しでも有利に戦いたかったみたいだけれど
無駄な努力だったね、諦めて正々堂々とかかって来なよ、それこそ無駄だと思うけどね、ハッハッハ」
まるで私達が悪いかのように言い放ち、笑いながら背中を向けて去って行く豊田浩一
盗人猛々しいとはこの事か、私の怒りは頂点に達し、はらわたが煮えくり返るほどであった
せめて一言言ってやらないと気が済まないと思い、相手に向かって一歩踏み出した、その時である。
「ちょっと待て」
豊田浩一の後を追おうとした私の肩に手をかけ、待ったをかけたのは結城蓮だった。
「放してよ、アイツに一言言ってやらないと気が済まないわ‼」
「まずは落ち着け」
「落ち着いていられないでしょう‼あの悪党、言うに事欠いてこっちが悪いって言ったのよ
しかも〈正々堂々と戦え〉とか、どの口が言っているのよ、絶対に許せない‼」
彼の制止を振り切り、抗議に行こうとしたその時である
結城蓮は私の両肩をガッチリと掴むと、顔を近付けて語り掛けてきたのだ。
「だから、落ち着けって言っているだろう。いいからその頭に上った血をちょっとは下げろ。いいかよく聞け、それがアイツラの作戦だ‼」
彼の真剣な態度に少し驚いたのと同時に、〈それがアイツラの作戦〉といわれて、困惑してしまう、その言葉の意味が理解できなかったからである。
「作戦って、どういういう事よ……」
「今の自分を冷静に見つめなおしてみろ。そんな頭に血が昇った状態でまともな判断ができるか?
【KOEG】は頭をフル回転させて戦う競技だ、そんな怒り心頭の状態で勝てる訳無いだろう‼
あいつらはそれを狙っているんだ。お前を挑発し怒らせ、いつもの力を出させないようにな
お前は奴らの術中に見事ハマっているんだ」
彼に指摘され、ハッと我に返った、言われてみればその通りである。
「そんな……そこまでするの?」
「ああ、この作戦を立てた奴は間違いなくあの神奈川代表の糞野郎だ
今思い出した。アイツと当たった時、大勢が決して俺の勝ちが濃厚になってきた時
あの糞野郎は勝つための動きじゃなく、こちらに嫌がらせする為だけの動きに変わったんだ
あの時は何でそんな事をするのかわからなかったが、今考えるとアイツは個人戦で負けを悟った時点で
今日の団体戦に頭を切り替えて、色々な布石を打ってきていたんだろうな
全く忌々しいクソ野郎だ、だからお前も冷静になれ、いいな‼」
「うん、わかった……」
ようやく正気を取り戻した私は反省をするとともに新たに気持ちを入れなおして戦いに挑む決意をする
そんな私達の様子を見ていた【タイタン】のメンバー達は愉悦交じりの笑みを浮かべながら、ワザとこちらに聞こえる様に話していた。
「あ~あ、もう少しだったのに」
「あのまま自滅してくれれば、こっちも楽だったべ」
「まあ、しゃあない、元々こないな姑息な手段はスカンかったし、実力でいてもうたらええんや
どっちにしてもワイらの勝ちは動かんやろ、ほな、行くで‼」
あらためて仕切り直しとなった【KOEG団体戦】の決勝戦
観客も変に待たされた分だけやや殺気立っている
私は冷えた頭で冷静に考えてみたが、この相手の取った超攻撃的布陣、〈三人アタッカー〉は攻撃側の私にとっては非常に楽である
何せ相手側にはディフェンダーがいないのだ。オートの守備はあるだろうが、ちゃんと人が守っている事に比べればそんなモノは取るに足らない
本陣まで攻略するのも容易だろう。だがその分守備側、つまり結城蓮にもの凄い負担がかかるという事だ
何しろ全国レベルのプレイヤーが三人がかりで攻めてくるのだ、いくら彼といってもそう長くは持たないだろう
つまりこの試合は超の付く短期決戦、どちらが先に相手の本陣を攻め落とすかを競うタイムアタックだ
それはオリンピックの短距離走選手が全力で50m走を競う様なモノである。
私は少し不安になり結城蓮を見つめた。
「何だよ、その顔は、俺が負けると思っているのか?」
私の不安を見透かしたかのように、余裕綽々と言った態度で答える。
「でも、三人がかりで攻められたら、いくらアンタでもそう長くは持たないでしょう」
「信用ねえな、ボンクラがいくら束になってかかって来ても大丈夫だ、心配するんじゃねえ
それより頼むぜ、わかっているとは思うがこの試合は超短期決戦だ。
お前がどれだけ早く相手陣の本陣を落とすかが勝負だからな、それまでは死んでも守り切ってやるよ、大船に乗った気でいろ」
こんな時でも強気の態度を崩さない彼に改めて感心してしまった
強がっていてもこの状況がいかにヤバいものか、彼程の実力があればわからないはずはないからだ
敵として戦っていた時は、この不遜な態度が鼻について仕方がなかったのだが
味方としてみると何と心強いのだろう、だからこそ負けたくない、負けられない、絶対に勝つ‼そう強く心に誓った。
〈さあ、一頓挫ありましたが予定通り決勝戦を開始します
何といってもこの戦いの見所はチーム【タイタン】の取った大胆な作戦
この決勝の場でとんでもない奇策に出てきました、それは選手全てがアタッカー
スリートップという前代未聞の超攻撃的布陣、必然的にディフェンダーはゼロ
これはチーム【ダークプリンセス】を相手に〈ノーガードの殴り合い〉を挑んできたといってもいいでしょう
ここまで鉄壁の守備を頬って来た暗黒王子も、この三人が相手ではどこまで持つのか
そして【電脳姫】はどれだけ早く敵陣を攻略できるのか?
コレはおそらく個人戦を含めた歴代の【KOEG】の試合の中でも、最も早く決着がつく事は疑いないでしょう
まさかの電撃スプリント戦、息をする暇も、瞬きする隙も無い
その刹那の瞬間を目に焼き付けろ、この伝説の戦いから一瞬たりとも目を離すな‼
結果はどうなってしまうのか。私にも、いえ、神にさえもわからないでしょう
観客の皆さん、そして各種ネットで見ている視聴者の方々、この歴史的瞬間をどうか見逃さないでください
そして心に刻みつけてください、さあいよいよ伝説の始まりだ、【KOEG団体戦】決勝戦が今始まります‼〉
実況のテンションの高さも相まって観客のボルテージも最高潮へと達した。
「ええ感じで盛り上がってきたやん」
「僕も悪役のフリをした甲斐があったね」
「フリっていうか、悪役そのものだったべ」
「心外だなあ、そもそもアレは君の作戦だろ?木本くん」
「【電脳姫】の精神を乱す事には失敗したけれど、まあ普通に勝てるべ」
「ワイの突破力、豊田の財力、そして木本の戦略、その全てを組み合わせ一気に決着をつけるワイらの作戦【バリスタ】
いちびっとる暗黒王子をボコボコにして勝つで‼」
もう勝ちを確信している【タイタン】のメンバー達。審判員の男性が開始の合図を出すべく、再び右手を上げた
〈Ready〉の声と共に、緊張感は最高潮に達し観客も思わず息を飲む
そして審判委員がその右手を振り下ろすと大画面モニターに〈GO‼︎〉の文字が映し出され私を含めた競技者が一斉にキーボードを激しく叩きはじめた。
〈さあ始まりました、泣いても笑ってもこれが最後の戦い、チーム【タイタン】は渾身の奇策
超攻撃型布陣【バリスタ】で暗黒王子の牙城を崩しにかかる
一方で守備兵のいない無人の砦を攻略にかかる【電脳姫】
さあどちらが、速い、どちらが先に第一ポイントを攻略するのか⁉
この試合の展開を占う上でもとても大事な……おっと、ここで両チーム、ほぼ同時に第一ポイントを攻略達成‼
速い、なんという速さだ‼この速さは尋常じゃない、彼らは本当に人間なのか⁉
両チームすかさず第二ポイントに襲い掛かる、さすがの暗黒王子もその表情には余裕は見られない
必死の形相で【タイタン】の攻撃を防ぎにかかるが、止まらない、止まらない
まるでイナゴの群れのごとくかさにかかって責め立てる、ここでチーム【タイタン】第二ポイントを攻略‼
この大会、初めて【ダークプリンセス】がリードをを奪われたぞ⁉
だが2秒ほど遅れて【電脳姫】も第二ポイントを攻略、何だ、この速さは
光よりも速い攻撃を繰り出す両チーム、実況の私も息をする暇もありません‼〉
「へえ~やるじゃん、俺達に付いて来るとか」
「ここからが本番だからね、一気に振り落とすよ」
「さあ、オモロイのはここからや、ほな、行くで‼」
〈容赦なく襲い掛かるチーム【タイタン】、第三ポイントも陥落寸前
これ程一方的に攻められる暗黒王子は始めて見ました、あっとここでチーム【タイタン】第三ポイント攻略達成‼
とてつもない速さ、勢いはとどまる事を知りません
防御力には定評のある暗黒王子が成す術もなく攻略されていく、気に恐ろしきは数の暴力だ‼
疾きこと風のごとく、侵略すること火のごとく、戦国時代の名将武田信玄の【風林火山】を風と火を体現しているかの所業
このまま敗れ去ってしまうのかチーム【ダークプリンセス】⁉
ここで5秒ほど遅れて【電脳姫】も第三ポイントを攻略
こちらも速いがジリジリと差が開いていく、勝てないのか、やはり二人では限界なのか⁉〉
どれだけ頑張っても差が開いていく、強豪三人を相手にアイツは頑張っているのに……
やっぱり勝てないの?二人では無理なの?悔しい、悔しいよ、あんな奴らに負けたくないよ……
何で私の指はもっと速く動かないの⁉もっと速く動きなさいよ‼この後もう二度と早く動けなくなってもいいから、今日は、今日だけは……
私の心が折れかけていた時、突然結城蓮の声が私の耳に飛び込んできた。
「諦めるな‼お前の力はそんなモノじゃないだろう⁉任せろ、必ず俺が持ちこたえてやる、だから自分の力を信じろ‼」
彼が感情を露わにして大声を出す姿など見た事がない、自分の方がよっぽど大変だろうに
ここで頑張らないでどこで頑張るのよ、女の意地ってモノを見せてやるわよ‼
私は再び勇気を奮い立たせキーボードに向かった。
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