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第四話 春の激闘! 委員会対抗バレーボール大会(前編)

見に来てたバレー部の顧問が「これなら全国狙える!」って言ってた。




「ちょっと! いきなり体育委員となんて、聞いてないですよ!」

放送委員会副委員長の観音寺映見(かんのんじえみ)が叫ぶ声が、体育館に響く。

「僕に怒らないでくれよ! 引いた後にあっちがきたんだから仕方ないだろ!」

涙目で抗議する委員長の音喜多法道(おときたのりみち)が、トーナメント表を指差す。

まさしく、額田の読み通りである。

不運ピラミッドの頂点に、君臨する。

というか、委員全員がピラミッドの上部分に居座っている放送委員会である。

体育委員と当たらない訳が、ないのだ。

二人が委員長のせいだ、僕のせいじゃない、と言い合うのを後目に他の委員会は準備体操を始める。


「よーっし、アタック何本決められるかなー!」

楽しみで仕方がないのか、ひたすら腕を振り回している矢動丸。

それを見ながら、不動がため息交じりに注意する。

「ちょっと仮にも体育委員なんですから、ちゃんと準備体操してください」

「わかってるって、いだっち!」

「あー、絶対わかってない……!」

こめかみあたりを押さえながら、再度ため息をつく不動を既に矢動丸は見ていない。


「美芳様。あたくし、どうも球技って苦手ですの……」

指がどうにかなってしまいそう、と自分の白魚のような手を撫でるたまき。

「仕方ないだろう、境。だからと言って負けるのも、美しくない」

ジャージ姿で立つ姿も麗しく見える環貫が、手早く自分の髪を束ねる。

「あぁ……アタックを決められ倒れこむ私の美しさに、皆が倒れませんように!」

「それでは負けてるではないか、しっかりやれ境」

あくまでも美しくいたい彼女とは裏腹に、意外とやる気のある美芳が冷静なツッコミをいれた。


「俺たちと図書委員だけ、一試合多いんですねー」

トーナメント表を見て呟いた主計が、振り返る。

「……あ、あぁ」

「委員長……?」

いつになく反応の鈍い加計本を心配して、主計が顔を覗き込む。

具合でも悪いなら、誰か交代してもらった方がよいのでは、と思って気付く。

「委員長、そう言えば昨日帳簿とか持って帰ってましたよね?」

「……あぁ」

静かに肯定する加計本に、主計は『この人、絶対途中で寝る』と悟った。


「鬼武君! あたし、審判やることになったから!」

「あぁ!?」

てめ、逃げやがったな菅生、と睨みを利かせながら言う鬼武から逃げた菅生は風紀委員長の後ろに隠れる。

「た、助けて……ください!」

「おいこら、菅生紀里(すがおきり)!」

盾にされながらも、至極冷静に辰治郎が口を開く。

「落ち着いて。生徒会のメンバーが5人で不足しているから、そちらに入ってほしい」

「……生徒会?」

拳は握ったままだが幾分落ち着いた表情で、鬼武が聞き返す。

「そうですよ、6人制のバレーなのに主催の生徒会は5人しかいないんです」

「うぉっ!」

不意に後ろから声を掛けられて叫ぶ鬼武を気にせずに、声をかけた軍岡舞子(いくさおかまいこ)が話を続ける。

「貴方としても、逃げた同朋よりそちらを選んだほうが得策と思いますが」

「な、逃げたわけじゃー……ごめんなさい!」

反論しようとする菅生が謝ったのは、ひとえに鬼武が睨んだからである。



「そろそろ始めたいのですが、よろしいですか?」

水野の声かけで、全員が整列する。

相変わらず委員長だけやたらと元気な体育委員。

すっかり沈みきった放送委員。

ジャージでもそこだけ光って見える美化委員。

何か別の武道でも始めそうななぜか正座してる風紀委員。

眠そうな委員長を激励する予算委員。

来ない委員長の代役の副委員長がイライラしている図書委員。

大人しく慎ましいHR委員。

裏切り者を追っ払って一人で不良座りの管理委員。

治療だけだと思っていたら参加すると知って慌てている保健委員。


そして、とても清々しい表情の生徒会一同。


「皆、それぞれ怪我なく楽しんでいこうではないか!」

武田が軽く挨拶を終えると、早速第一回戦である。

「では、放送委員会と体育委員会は早速位置についてくださーい」

額田がコートを指差してボールを菅生に渡す。



「帰っても良いですか……」

「今、腹が痛くなればいいのに」

「ほんと、俺たちって運ないですよねー」

「あー、何だろう委員長の顔に死相が見えるような」

ぐちぐちと何か言いながら、既に負け戦同然のバレーにやる気がない放送委員たち。

「でも、やるからには1ポイントはとろう」

「ですよねー、猛獣じゃないところに打ち込めば……何とかなる気がするようなしないような!」

そろそろネガティブをやめようと思ったのか慣れてきたのか、決意を語る音喜多。

同調している観音寺は、そろそろ自暴自棄らしい。

ホイッスルが鳴り響くと同時に不動がボールをあげて、サーブを打ち込んだ。

それはもう、素晴らしく凄まじいスピードのサーブを。

見事に音喜多の顔の間横をすり抜けたボールが痛々しい音を立てて、床に当たった音。

「「「無理!」」」

綺麗に重なった叫び。

棄権という道を選べるものなら、選びたい。

その心の叫びまでも、きっと綺麗に重なっただろう。

全員がそう思うものの、矢動丸という存在がきっとそうはさせない。



『楽しんでやればいいんだから、気にするな!』



いや、楽しいとかそういう次元かなり越えてると思うんですけど。

それが言えれば、苦労はしないんだが。

言えるわけもないし、言ったところでどうもならない。

サーブ権を決めるジャンケン負けてるあたりで終わってたんだ、と委員の誰かが呟いた。

「……ごめん、僕のせいだ」

わかってると思うけど、と付け加えて音喜多が呟き、乾いた笑いが起こる。

その乾いた笑いさえ止めたのは、二度目のサーブ。

結局、放送委員の顔面に痛々しくボールの跡が残り試合は終了した。

「観音寺君。これさ、やる意味あったのかな?」

「……楽しんでたから良いんじゃないですか、体育委員が」

顔面レシーブでかろうじて返したボール大喜びしてたくらいだし、と観音寺が鼻を押さえながら呟く。

1ポイント返すだとかいった無謀な試みは、あのサーブ直後に消えた。

代替案として『怪我をできるだけ少なく頑張りましょう』というのが出されたくらいである。

ちなみに、彼女はまだ無事な方である。

音喜多に至っては、かろうじて返したボールが凶器と言う名の矢動丸のアタックと化したものを顔面に受けたのだから。

「なんでさ、なんで彼らは部活動しないんだろう」

あれなら普通に狙えるでしょ、全国とかなんかそんなもの。

そしたら僕ら放送委員が応援放送とかしてさ、万々歳じゃないの、学校全体的に良い方向だと思うんだ。

わざわざ委員会してる意味がわからないよ、と保冷剤を顔に当てて呟く。

「……バレー部の顧問の先生呼んできて、引き抜かせてやります」

体育委員会じゃなくて超人委員会だっつの、と忌々しそうに言いながら観音寺は携帯をいじくる。

「あれだよね。レクだと思ってきたら、オリンピックでしたっていう勢いだよ、あれは」

「あはは、委員長たとえが上手ですね」

僕ら以外ほぼ普通じゃないものね。

放送委員が見つめる先は、まさしく全国目指してるバレー部さながら。

回転のかかったサーブ。

できるアザなんて気にしないような体を張ったレシーブ。

正確無比のとす。

ボールがどうにかなるのではないかというくらいのアタック。

もう、委員会同士の交流とかどうでもいいと言わんばかりの気迫と勢いに満ちていた。

「さて……ビデオとかカメラとか用意して大人しく放送委員するかな」

よろよろと立ち上がりながら、体育館を出る音喜多。

「カメラにボール当たったりして……」

なんかすると、必ず何か壊れますよね。

観音寺の呟きは、既にいない彼には届いていなかった。

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