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化物の夢

掲載日:2024/01/11

ども。ハツラツです。


今回は、少々ビターなお話です。


どうぞ。

 人里近くの山の中に、二人の怪物が住んでいました。

 体が大きくて、気の小さい怪物はアオ。体が小さくて、気の大きい方はアカといいました。

 アオとアカは昔から仲良しでしたが、アオには一つの願いがありました。


「ああ、僕も夢を見てみたいなぁ」


 山に捨てられていた本を手に取って、アオはしみじみと呟きました。

 

「人間みたいなこと言うよな」


 アカはつまらなさそうに答えます。


「いいじゃない。この本によるとね、夢って、不思議なんだよ」


「どう不思議なんだよ」


 アオは得意げに答えました。


「ふふん。それはね、何でもできるし、何にでもなれるし、会いたい人にも会えたりするんだよ」


「ふーん。でも、夢なんだろ?」


 ため息をつくアカ。夢に夢を見すぎだと冷たい目を向けます。


「君にはロマンがないね」


「リアリストなんだよ」


 いつもと変わらない、他愛ない会話をしながら散策していると、突然話し声が聞こえてきました。


「おい、本当なんだろうな?」


「ああ、見たんだよ。体の大きい化物を!」


 ふもとの里に住む人間たちです。


「まだ生き残りがいたとは。逃がしちゃいけない」


「シッ! 近くにいるかもしれない」


 アオとアカは茂みに隠れて、人間たちが立ち去るのをずっと待ちました。


「もう、行ったかな?」


「ああ。わかったろ? 人間なんて憧れるもんじゃない」


「うーん。でも、きっといい人もいるよ?」


「そんなのいない!」


 アカはつい、大きな声を出してしまった。


「そう、だよね」


 アオは、とても寂しそうな表情で、肩を落とします。


「わかったんならいい。疲れた。帰るぞ」


「うん」



 それからというもの、アオの元気がなくなってしまいました。


「おい、飯作ったぞ」


「うん。でも、僕はいいや」


 ここ数日、食べ物があまり喉を通らないアオ。


「無理にでも食っとけ。じゃないと持たないぞ?」


「じゃあ、少しだけ……」


 今日も、一口だけ食べて、アオは寝込んでしまいました。


「そんなに寝たって、夢なんか見れないぞ」


「……」


 返事はありません。眠りについたのでしょう。


「元気を取り戻すにはどうしたら……」


 アカは考えます。


「もし、夢を見れたのなら」


 アカは、人里へと向かいました。


 草木も眠る時間。

 里は静けさに覆われていました。

 アカは、民家の一つに入り込むと、眠っている子供に近づき、手をかざし、夢の中へと入り込みます。

 夢の中は、里の子供たちが集まって、鬼ごっこをしている様子でした。


「待てー!」


「やだねー!」


 これは楽しそうな夢です。


「うおおおお!」


「わああああ! 化物!」


 アカが叫ぶと、子供は散り散りに逃げていきました。


「ふん! いい気味だぜ! でも、この夢はいただいてくぜ!」


 夢から抜け出すと、夢の結晶にして持ち出しました。


 次の民家には、若い娘とその父親らしき男が眠っていました。


「この娘はどんな夢を見ているのかな?」


 娘の夢に入り込むと、そこは涼しげなせせらぎが聞こえる、美しい渓流でした。

 その美しさに負けないほどおめかしをした娘が、真っ赤な着物姿で川のほとりでたたずんでいます。

 そして、そこに現れたのは一人の若者。彼の姿を見るなり、嬉しそうに瞳を輝かせ、頬を朱に染める娘。

 二人は恋人のようでした。


「うおおおお!」


 アカは近づいてから叫びます。


「ば、化物!」


 二人は驚いて、川の中へ仲良く落ちていきました。


「これで邪魔者はいなくなった」


 夢から戻り、また夢の結晶として集めます。


 アカは、一軒、また一軒と夢を盗みに入りました。

 酒飲みの夢、英雄の夢、ご飯をたらふく食べる夢。どれも、キラキラと輝いていて、アオが喜びそうなものでした。


「よし、今度はどんな夢かな……」


 また一軒、忍び込んだ時でした。


「誰だ!」


 ぴしゃりと鋭い声。

 物音で目を覚ました住人が、斧を片手に現れたのです。

 まずい! と、アカは慌てて逃げ出しました。


「待て!」


 そんなことを言われて待つ人はいません。

 真っ暗闇の山へ飛び込むと、追いかける声は聞こえなくなりました。


 アオのもとへ帰ると、アオはずっと眠ったままでした。


「これで、夢が見れるはず」


 アカが夢の結晶を枕元に置くと、自分の寝床で横になりました。


 次の日。


「アカ! アカ! 聞いてよ! 昨日、夢を見たんだ!」


「そうか、よかったな」


「うん! 里の子供たちと、鬼ごっこをしたんだ!」


 元気そうなアオに安心します。


「とりあえず、朝飯食うか?」


「うん!」


 アオからまた楽しそうな話を聞きながら、久しぶりの一緒に食べる朝ご飯を堪能しました。


 その夜も、アオが眠るのを待って、結晶を置いてから寝ました。


 次の朝。


「今日も夢を見たんだ! でもね、何だか知らない男の人と川にいたんだ」


「そうか。よかったな」


「うーん。よかったのかなぁ」


 ちょっと複雑そうな顔をするアオ。夢を見れただけでもいいじゃないかとアカは思いました。


「じゃ、食いもの探してくるから、待ってるんだぞ」


「僕も行くよ!」


 アオもついていこうとしますが、まだ体調は良くなさそうです。


「いい。足手まといだ」


 アオを置いて、山の中に食べ物を探しに行きました。

 今日は山菜がたくさん見つかります。


「うんうん。ついてるな!」


 山菜を集めていると、


「本当なんだろうな?」


「本当さ。この前、うちに現れたんだ。ここに住んでいる化物に違いない」


 人間の声です。

 それも、一人はこの前侵入した家の家主のようでした。


「絶対見つけて、夢を取り返すぞ!」


 アカが盗んだ夢を探しに来たようです。


「無駄だね。夢の結晶は、全部俺が持ってる」


 急いで山を登っていく人間たちを横目に、食べ物集めを再開しました。


「たくさん見つかったぞ! これだけ食べれば、アオも元気になるに違いない!」


 ワクワクしながら寝床に戻ります。

 何を作ろうか。山菜のスープも悪くない。


「帰ったぞ」


 寝床の洞窟をのぞき込みます。


「あれ?」


 寝床は静かで、どこにもアオの姿はありませんでした。

 どこかへ出かけたのでしょうか。

 一瞬そんなことを考えましたが、洞窟内を見て、それは違うと気づきました。

 もう、めちゃくちゃに荒らされていて、だれかが侵入した形跡があったのです。


「どうしよう! アオが連れ去られた!」


 犯人はもうわかっています。

 アカは、急いで里へと下りていきました。

 アオは体調が優れないので、人間から逃げるのはきっと厳しいでしょう。


「アオ! アオはどこだ!」


 里にきて、アカは相棒を呼びました。

 ですが、そこに現れたのはたくさんの人間でした。


「やい化物!」


「何しにきやがった!」


「里の民には指一本触れさせないぞ!」


 人間たちは武器になりそうなものを構えていますが、そんなもの知ったこっちゃありません。


「アオは……アオはどこだ!」


 尋ねますが、もちろん誰も答えません。

 それどころか、あっという間につかまって、牢屋の中に入れられてしまいました。


「お前だな! 夢を盗んだのは!」


「そうだよ! アオを返せ!」


「その前に、夢を返せ!」


 あの夜追いかけてきた人間と同じ声の人が、牢屋の前で怒りをあらわにしていました。


「やだね! これは俺のもんだ!」


「じゃあ、相棒がどうなってもいいんだな?」


 これを言われたらどうしようもありません。


「わ、わかった」


 アカはしぶしぶ夢の結晶を取り出すと、人間に渡しました。


「ふん! いいだろう」


「夢は返した! 早く開けろ! アオは、アオはどこに……」


 アカの言葉に耳を貸さず、人間はどこかへ消えていきました。



「アオ……アオ……」


 相棒の名前を呼びながら、一人、牢屋の中で丸くなります。


「アオ。俺も、夢を見たいよ……」


 疲れ果てたアカは、祈りながら眠りにつきました。



「アカ。アカ」


 目を開けると、そこは夢の中でした。


「アオ? アオ!」


 目の前には、相棒が佇んでいます。


「アオ! 無事だったんだな!」


「そうでもないみたい……」


「え」


「でもね、アカ」


「なんだい、アオ?」


 アオは、優しく微笑んで


「夢を見せてくれてありがとう」


 と言って、消えていきました。


「アオ! アオ! 待ってよ!」


 アオのいなくなった夢の中で、アカはずっと、ずっと泣き続けました。ずっと、ずっと、ずっと。


最後までお読みいただきありがとうございました。

いかがだったでしょうか。


悲しく切ない話になりました。

人間の身勝手さ、目線を変えれば、彼らもまたみんなを守りたかったので、少しだけ許していただけると幸いです。


では、また。

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― 新着の感想 ―
[一言] ビターエンドでしたね。 相容れないことってあるのかもしれませんね。
2024/01/14 18:03 退会済み
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