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化物の夢

ども。ハツラツです。


今回は、少々ビターなお話です。


どうぞ。

 人里近くの山の中に、二人の怪物が住んでいました。

 体が大きくて、気の小さい怪物はアオ。体が小さくて、気の大きい方はアカといいました。

 アオとアカは昔から仲良しでしたが、アオには一つの願いがありました。


「ああ、僕も夢を見てみたいなぁ」


 山に捨てられていた本を手に取って、アオはしみじみと呟きました。

 

「人間みたいなこと言うよな」


 アカはつまらなさそうに答えます。


「いいじゃない。この本によるとね、夢って、不思議なんだよ」


「どう不思議なんだよ」


 アオは得意げに答えました。


「ふふん。それはね、何でもできるし、何にでもなれるし、会いたい人にも会えたりするんだよ」


「ふーん。でも、夢なんだろ?」


 ため息をつくアカ。夢に夢を見すぎだと冷たい目を向けます。


「君にはロマンがないね」


「リアリストなんだよ」


 いつもと変わらない、他愛ない会話をしながら散策していると、突然話し声が聞こえてきました。


「おい、本当なんだろうな?」


「ああ、見たんだよ。体の大きい化物を!」


 ふもとの里に住む人間たちです。


「まだ生き残りがいたとは。逃がしちゃいけない」


「シッ! 近くにいるかもしれない」


 アオとアカは茂みに隠れて、人間たちが立ち去るのをずっと待ちました。


「もう、行ったかな?」


「ああ。わかったろ? 人間なんて憧れるもんじゃない」


「うーん。でも、きっといい人もいるよ?」


「そんなのいない!」


 アカはつい、大きな声を出してしまった。


「そう、だよね」


 アオは、とても寂しそうな表情で、肩を落とします。


「わかったんならいい。疲れた。帰るぞ」


「うん」



 それからというもの、アオの元気がなくなってしまいました。


「おい、飯作ったぞ」


「うん。でも、僕はいいや」


 ここ数日、食べ物があまり喉を通らないアオ。


「無理にでも食っとけ。じゃないと持たないぞ?」


「じゃあ、少しだけ……」


 今日も、一口だけ食べて、アオは寝込んでしまいました。


「そんなに寝たって、夢なんか見れないぞ」


「……」


 返事はありません。眠りについたのでしょう。


「元気を取り戻すにはどうしたら……」


 アカは考えます。


「もし、夢を見れたのなら」


 アカは、人里へと向かいました。


 草木も眠る時間。

 里は静けさに覆われていました。

 アカは、民家の一つに入り込むと、眠っている子供に近づき、手をかざし、夢の中へと入り込みます。

 夢の中は、里の子供たちが集まって、鬼ごっこをしている様子でした。


「待てー!」


「やだねー!」


 これは楽しそうな夢です。


「うおおおお!」


「わああああ! 化物!」


 アカが叫ぶと、子供は散り散りに逃げていきました。


「ふん! いい気味だぜ! でも、この夢はいただいてくぜ!」


 夢から抜け出すと、夢の結晶にして持ち出しました。


 次の民家には、若い娘とその父親らしき男が眠っていました。


「この娘はどんな夢を見ているのかな?」


 娘の夢に入り込むと、そこは涼しげなせせらぎが聞こえる、美しい渓流でした。

 その美しさに負けないほどおめかしをした娘が、真っ赤な着物姿で川のほとりでたたずんでいます。

 そして、そこに現れたのは一人の若者。彼の姿を見るなり、嬉しそうに瞳を輝かせ、頬を朱に染める娘。

 二人は恋人のようでした。


「うおおおお!」


 アカは近づいてから叫びます。


「ば、化物!」


 二人は驚いて、川の中へ仲良く落ちていきました。


「これで邪魔者はいなくなった」


 夢から戻り、また夢の結晶として集めます。


 アカは、一軒、また一軒と夢を盗みに入りました。

 酒飲みの夢、英雄の夢、ご飯をたらふく食べる夢。どれも、キラキラと輝いていて、アオが喜びそうなものでした。


「よし、今度はどんな夢かな……」


 また一軒、忍び込んだ時でした。


「誰だ!」


 ぴしゃりと鋭い声。

 物音で目を覚ました住人が、斧を片手に現れたのです。

 まずい! と、アカは慌てて逃げ出しました。


「待て!」


 そんなことを言われて待つ人はいません。

 真っ暗闇の山へ飛び込むと、追いかける声は聞こえなくなりました。


 アオのもとへ帰ると、アオはずっと眠ったままでした。


「これで、夢が見れるはず」


 アカが夢の結晶を枕元に置くと、自分の寝床で横になりました。


 次の日。


「アカ! アカ! 聞いてよ! 昨日、夢を見たんだ!」


「そうか、よかったな」


「うん! 里の子供たちと、鬼ごっこをしたんだ!」


 元気そうなアオに安心します。


「とりあえず、朝飯食うか?」


「うん!」


 アオからまた楽しそうな話を聞きながら、久しぶりの一緒に食べる朝ご飯を堪能しました。


 その夜も、アオが眠るのを待って、結晶を置いてから寝ました。


 次の朝。


「今日も夢を見たんだ! でもね、何だか知らない男の人と川にいたんだ」


「そうか。よかったな」


「うーん。よかったのかなぁ」


 ちょっと複雑そうな顔をするアオ。夢を見れただけでもいいじゃないかとアカは思いました。


「じゃ、食いもの探してくるから、待ってるんだぞ」


「僕も行くよ!」


 アオもついていこうとしますが、まだ体調は良くなさそうです。


「いい。足手まといだ」


 アオを置いて、山の中に食べ物を探しに行きました。

 今日は山菜がたくさん見つかります。


「うんうん。ついてるな!」


 山菜を集めていると、


「本当なんだろうな?」


「本当さ。この前、うちに現れたんだ。ここに住んでいる化物に違いない」


 人間の声です。

 それも、一人はこの前侵入した家の家主のようでした。


「絶対見つけて、夢を取り返すぞ!」


 アカが盗んだ夢を探しに来たようです。


「無駄だね。夢の結晶は、全部俺が持ってる」


 急いで山を登っていく人間たちを横目に、食べ物集めを再開しました。


「たくさん見つかったぞ! これだけ食べれば、アオも元気になるに違いない!」


 ワクワクしながら寝床に戻ります。

 何を作ろうか。山菜のスープも悪くない。


「帰ったぞ」


 寝床の洞窟をのぞき込みます。


「あれ?」


 寝床は静かで、どこにもアオの姿はありませんでした。

 どこかへ出かけたのでしょうか。

 一瞬そんなことを考えましたが、洞窟内を見て、それは違うと気づきました。

 もう、めちゃくちゃに荒らされていて、だれかが侵入した形跡があったのです。


「どうしよう! アオが連れ去られた!」


 犯人はもうわかっています。

 アカは、急いで里へと下りていきました。

 アオは体調が優れないので、人間から逃げるのはきっと厳しいでしょう。


「アオ! アオはどこだ!」


 里にきて、アカは相棒を呼びました。

 ですが、そこに現れたのはたくさんの人間でした。


「やい化物!」


「何しにきやがった!」


「里の民には指一本触れさせないぞ!」


 人間たちは武器になりそうなものを構えていますが、そんなもの知ったこっちゃありません。


「アオは……アオはどこだ!」


 尋ねますが、もちろん誰も答えません。

 それどころか、あっという間につかまって、牢屋の中に入れられてしまいました。


「お前だな! 夢を盗んだのは!」


「そうだよ! アオを返せ!」


「その前に、夢を返せ!」


 あの夜追いかけてきた人間と同じ声の人が、牢屋の前で怒りをあらわにしていました。


「やだね! これは俺のもんだ!」


「じゃあ、相棒がどうなってもいいんだな?」


 これを言われたらどうしようもありません。


「わ、わかった」


 アカはしぶしぶ夢の結晶を取り出すと、人間に渡しました。


「ふん! いいだろう」


「夢は返した! 早く開けろ! アオは、アオはどこに……」


 アカの言葉に耳を貸さず、人間はどこかへ消えていきました。



「アオ……アオ……」


 相棒の名前を呼びながら、一人、牢屋の中で丸くなります。


「アオ。俺も、夢を見たいよ……」


 疲れ果てたアカは、祈りながら眠りにつきました。



「アカ。アカ」


 目を開けると、そこは夢の中でした。


「アオ? アオ!」


 目の前には、相棒が佇んでいます。


「アオ! 無事だったんだな!」


「そうでもないみたい……」


「え」


「でもね、アカ」


「なんだい、アオ?」


 アオは、優しく微笑んで


「夢を見せてくれてありがとう」


 と言って、消えていきました。


「アオ! アオ! 待ってよ!」


 アオのいなくなった夢の中で、アカはずっと、ずっと泣き続けました。ずっと、ずっと、ずっと。


最後までお読みいただきありがとうございました。

いかがだったでしょうか。


悲しく切ない話になりました。

人間の身勝手さ、目線を変えれば、彼らもまたみんなを守りたかったので、少しだけ許していただけると幸いです。


では、また。

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― 新着の感想 ―
[一言] ビターエンドでしたね。 相容れないことってあるのかもしれませんね。
2024/01/14 18:03 退会済み
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