現世に帰還!
「いてててて……」
現世……?
「えっと、ここは―――」
僕の部屋。今朝、突然異世界に飛ばされて、一日の大半をあっちの世界で過ごした。
でもこうやってまた帰ってきた。
「夢だったのか……?」
頭をぼりぼり掻きながら、そう思った。
でもポケットには、500ペル硬貨が五枚入っている。
「本当だったのか……あれ、くんくん……」
現実世界の匂い。何だか、懐かしい匂いだ。あれ、お母さんが夕飯のカレーでも作っているのだろうか。香ばしい香りが部屋にまで漂ってくる。
「千夜ー?居るの?」
「うん、いるよ」
「もう腹痛は大丈夫なの?」
「う、うん、もう治ったかも……」
「それじゃ、明日は登校出来るかしらね」
「ど、どうかな……あはは……」
「良かった!今日は千夜の大好物のカレーよ!」
お母さんが扉越しに話しかけてきた。僕はまたちょっとだけ嘘を重ねた。
「ちょっと今日は外に出てみようかな……」
僕は立ち上がり、自室の扉を開いて、廊下に出た。
「……」
目の前には玄関の扉。つまり外に通じる扉だ。
「ふー、ふー、ふー」
僕は息を整えて、扉を開く準備をする。何をしてるんだって、他の人に見られたら、変な行為と誤解されるかもしれない。何ていうか、不登校であることはそのあんまり良いことじゃないからさ、その……恥ずかしいっていうかさ……
「……」
やっぱり部屋から出てみよう。
―――――――――
――――――
―――
「アメリアお嬢様!体調はどうなされましたか?」
「もう治ったわ」
「良かった!それなら、ちゃんと明日には学校に行くのですよ」
「う……やっぱり、まだ腹痛が治ってないみたい……明日も厳しいかも……」
「お嬢様……」
シンドラ国の王都、王城の一室にて、一人の少女が佇んでいる。
普段ならクエスト以外ではずっと部屋に籠もる生活を送っていた。
しかし今日は特別。
部屋から出て、最上階にあるバルコニーにアメリアは向かった。
―――がちゃり。
そして僕は久しぶりに玄関の扉を開いた。
「涼しいー」
扉を開いた瞬間、気持ち良い風が全身を撫でていく。僕は扉を閉めると、目の前の手すりに両手を掛けて、街を眺めた。
「綺麗だ」
そこには幻想的な風景が広がる。街中に夕焼けが降り注ぎ、色んな形の、大きさの建物を宝石のように輝き立てている。
それは異世界の景色よりも異世界らしいように思えた。
「アメもあっちで、僕と同じ景色を見てるのかな」
なんて感傷的気持ちで、感傷的な言葉を口に出した。
でもあの異世界はどうやら季節とかの時間帯は同調しているので、恐らく可能性は無いこともないはず……と信じたい。
―――――――――
――――――
―――
「千夜もあっちで、私と同じと同じ景色を見てるのかな」
王城から見える景色はそれこそ絶景と言い切れる程の価値のあるものだ。大国をまるっと見渡せて、
本当にこの国の頂点に立っているという事実をその目に実感させてくれる。
まさか、異世界からやってきた客人が私と同じ不登校児だった、なんて。
そんな事を私の専属のメイドにでも言ったら、笑われてしまうだろう。
「なんて、そんなわけ―――」
「―――ないよね」
僕は数分間ぐらいずっとベランダから街を眺め続けていた。時折見える下校途中の生徒の姿を見ると、つい劣等感を感じて、目をそらしてしまう。
「今からでも登校しようかな」
時々、担任の先生からは放課後でもいいから学校に来いと言われるんだ。
「……まぁ、明日にでも行こうかな……」
でもまだ放課後登校する勇気はないので、遠慮しておこうっと……
「寒くなってきたな……」
風も少しばかり寒くなってきたし、そろそろ自分の部屋に戻ろう。
「千夜!もう夕飯出来てるわよ!」
「うん、今行くー!」
あ、そうだった。今日はカレーだった!